2026/04/04
景表法
2023年10月1日、景品表示法(景表法)に基づく「不当景品類及び不当表示防止法第5条第3号の規定に基づく指定(ステルスマーケティング告示)」が施行されました。いわゆる「ステマ規制」です。
ステルスマーケティング(ステマ)とは、事業者が広告・宣伝であることを隠して、消費者に第三者の中立的な意見・口コミであるかのように見せかけて商品やサービスを宣伝する行為を指します。SNSのインフルエンサーへの依頼やECサイトのやらせレビューがその典型例です。
「うちの会社は大企業じゃないから関係ない」と思っている中小企業の経営者もいるかもしれませんが、この規制は企業の規模を問わず適用されます。実際、中小企業でも行政調査が入るケースが増えており、早急な対応が必要です。本稿では、中小企業の経営者・管理職の方に向けて、ステマ規制の要点と実務上の対応策を解説します。
ステマ規制が禁止するのは、「事業者が自己の供給する商品・サービスの取引について、一般消費者が当該表示が事業者の表示であることを判別することが困難な表示」です。
この規制のポイントは、表示の主体が事業者かどうかという点にあります。インフルエンサーやアンバサダーが自発的に投稿した場合は規制対象外ですが、事業者が対価を払ったり、投稿内容を指示・管理したりしている場合は「事業者の表示」とみなされます。
一方、次のようなケースは原則として規制対象外です。
景表法に違反した場合、消費者庁または都道府県から措置命令が下される可能性があります。措置命令とは、違反行為の停止や再発防止策の実施、違反があった旨の消費者への周知などを命じる行政処分です。
また、措置命令に従わなかった場合や、優良誤認・有利誤認といった不当表示と組み合わさった場合には、課徴金納付命令(対象期間の売上の3%)が課されるケースもあります。
さらに、行政処分が下されると消費者庁のウェブサイトで公表されるため、企業のブランドイメージや信頼性に深刻なダメージを与えることになります。SNSで拡散されれば、炎上・不買運動につながるリスクもあります。
中小企業では「まさか自社が…」と思いがちですが、消費者庁は業界横断的に調査を行っており、規模を問わず摘発事例が出ています。「知らなかった」では済まされません。
では、中小企業は具体的にどのような対策を講じるべきでしょうか。実務的な対応策を5つ挙げます。
インフルエンサーや商品モニターに商品・サービスを提供している場合、契約書や依頼書に「PR・広告である旨の明示義務」を明記してください。口頭での依頼は証拠が残らないためトラブルの元です。具体的には、「#PR」「#AD」「#協賛」「(〇〇社より提供)」などの表示を投稿に必ず含めることを契約条件として設定し、違反した場合の対応も規定しておくことが重要です。
従業員が自社商品のSNS投稿を行う場合も規制対象になりえます。社内規程を整備し、「従業員が業務として投稿する際は所属・立場を明示する」ことを徹底してください。「私的な投稿のつもりで気軽に会社の商品を勧めた」というケースも実態によっては問題になります。社員への研修・周知も不可欠です。
ECサイトを運営している場合、レビュー取得の方法を点検してください。「レビューを書いたらポイント付与」「高評価で割引」などの仕組みがある場合、その旨を明示するか仕組み自体を見直す必要があります。また、低評価レビューを削除・非表示にする行為も、別の景表法違反(有利誤認)につながりかねません。公正なレビュー管理が求められます。
マーケティングを外部の広告代理店やSNS運用会社に委託している場合、委託先がどのような施策を実施しているかを把握・管理する責任は発注者側(貴社)にもあります。「代理店に任せていたから知らなかった」は言い訳になりません。委託契約にコンプライアンス遵守義務を明記し、定期的な報告を求める体制を整えてください。
ステマ規制対応を単発の対応で終わらせず、景表法全般のコンプライアンス体制に組み込むことが重要です。チェックリストの作成、担当者の明確化、定期的な研修・教育を実施してください。万が一違反の疑いが生じた場合には、速やかに弁護士へ相談し、自主点検・是正対応を行うことで、行政処分のリスクを最小化できます。
消費者庁は、ステマ規制に関する運用基準(ガイドライン)を公表しています。その中で、広告表示の明示方法についていくつかの指針が示されています。
また、「#PR」を使っていたとしても、投稿全体から見て広告であることが消費者に伝わらないような構成になっていれば、規制に違反するリスクがあります。形式的な対応ではなく、消費者の視点に立った対応が求められます。
ステマ規制施行後、消費者庁はいくつかの事業者に対して調査・指導を実施しています。公表されている事例や行政の動向を踏まえると、問題となりやすいパターンが見えてきます。
「商品を無料提供するので感想を投稿してください」という形で一般消費者に投稿を依頼するキャンペーンが問題になるケースです。提供した商品やサービスの対価として投稿を求めている場合、事業者の関与がある「ステマ」に該当します。この場合、投稿者に「提供を受けた旨」の明示を求めることが必要です。
飲食店や宿泊施設などで、スタッフや知人に依頼して口コミサイトに高評価を投稿させるケースも規制対象となりえます。特に、投稿者が事業者側と利害関係にあることを隠して第三者を装う場合は悪質性が高いとみなされます。
自社の商品・サービスをアフィリエイターが紹介する際に「広告」である旨の表示がなされていない場合も、事業者側の責任が問われる可能性があります。アフィリエイトプログラムを活用している場合は、パートナーに対して適切な表示を義務付ける規約整備が必要です。
ステルスマーケティング規制の施行から1年以上が経過し、消費者庁による調査・摘発も本格化しています。SNSやECサイトを活用したマーケティングは今や中小企業にとっても重要な手段ですが、それだけにコンプライアンスリスクも高まっています。
本稿でお伝えしたポイントを整理すると次のとおりです。
「うちは中小企業だから大丈夫」という油断は禁物です。むしろ中小企業は法務部門が整っていないことも多く、知らず知らずのうちに違反状態に陥りやすいとも言えます。
当事務所では、景表法・ステマ規制に関するコンプライアンス体制の構築支援、インフルエンサー契約書のレビュー・作成、万が一の調査対応など、企業のマーケティング法務を幅広くサポートしております。ご不安な点がございましたら、お気軽にご相談ください。