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ステルスマーケティング規制で中小企業が今すぐ見直すべきSNS広告の実務対応

2026/04/07

景表法

ステルスマーケティング規制で中小企業が今すぐ見直すべきSNS広告の実務対応

1. ステルスマーケティング規制とは何か

2023年10月1日、景品表示法に基づく「不当表示」の告示が改正され、いわゆるステルスマーケティング(ステマ)が明確に規制対象となりました。「ステルスマーケティング」とは、広告・宣伝であることを消費者に隠したまま行う宣伝活動のことです。たとえば、企業がインフルエンサーに報酬を払って商品を紹介させながら「#PR」などの表示をしない行為や、従業員や関係者が一般消費者を装って口コミサイトに高評価を投稿する行為などが該当します。

従来、景品表示法は「優良誤認表示」(実際よりも著しく優れていると誤認させる表示)や「有利誤認表示」(実際よりも取引条件が有利であると誤認させる表示)を禁止していましたが、ステルスマーケティング自体を直接的に禁止する規定はありませんでした。今回の改正により、事業者が自己の供給する商品・サービスの広告であるにもかかわらず、そうでないかのように見せる表示が「不当表示」として明確に禁止されることになりました。

この規制は大企業だけの問題ではありません。SNSを活用するすべての中小企業・スタートアップにとっても重大なリスクとなっています。違反した場合、消費者庁から措置命令が下され、場合によっては課徴金の対象にもなり得ます。自社のマーケティング施策を今一度点検することが急務です。

2. 規制対象となる「広告主」の範囲

ステルスマーケティング規制で重要なのは、規制の対象が「広告主(事業者)」であるという点です。インフルエンサー本人ではなく、依頼した事業者側が景表法の責任を負います。

具体的には、以下のような関係がある場合に規制対象となります。

  • 金銭・物品の提供:インフルエンサーや第三者に報酬・商品・サービスを無償提供して投稿を依頼した場合
  • 投稿内容への関与:投稿内容の指示・修正・承認など、事業者が内容に影響を及ぼしている場合
  • アフィリエイト報酬:成果報酬型のアフィリエイト施策で、事業者がアフィリエイターの表示内容を管理・指示している場合

逆に、事業者から何の依頼も受けず、自発的に消費者が投稿した口コミや評価は規制対象外です。問題となるのは「事業者の関与がある表示」です。無償サンプルの提供であっても、見返りに投稿を求めた場合は規制対象になるため注意が必要です。

また、広告代理店やPR会社に依頼して実施したキャンペーンであっても、最終的な責任は広告主たる事業者が負います。「代理店に任せていた」は免責事由にはなりません。自社でコントロールできる範囲で適切な管理体制を構築することが経営者の責務といえます。

3. 「広告である旨」の適切な表示方法

ステルスマーケティング規制への対応の核心は、広告であることを明確に表示することです。消費者庁が公表したガイドラインによれば、「広告」「PR」「プロモーション」「案件」「提供」などの表示が求められます。

実務上のポイントをまとめると以下の通りです。

  • 表示位置:投稿の冒頭や目立つ場所に表示することが望ましく、文末や多数のハッシュタグに埋もれた形での表示は不十分とされる可能性があります。
  • 表示の明確性:「#AD」「#PR」などの英字表示も認められていますが、「#提供」「#タイアップ」なども一般に使われています。いずれも消費者が一見して広告だとわかる形である必要があります。
  • 複数プラットフォームへの対応:Instagram、X(旧Twitter)、TikTok、YouTube、ブログなど、プラットフォームごとに表示方法が異なるため、各プラットフォームの仕様に合わせた対応が必要です。
  • 動画コンテンツ:動画の場合、冒頭や概要欄への表示に加え、動画内でも口頭または字幕で「この動画はPR(広告)です」と明示することが推奨されます。

なお、「#gifted(ギフテッド)」「#spon(スポンサード)」などの英語表現は、日本の一般消費者に広告であると認識されにくい可能性があるため、使用には注意が必要です。日本語での明示が確実な対応といえます。

4. 中小企業が陥りやすい違反パターン

中小企業のマーケティング担当者が知らず知らずのうちに違反してしまいやすいパターンを整理します。

パターン①:無償サンプル提供による口コミ誘導

新商品の認知拡大を目的に、インフルエンサーや一般モニターに商品を無償提供し、「感想をSNSに投稿してください」と依頼するケースです。この場合、金銭の授受がなくても商品提供という経済的利益があるため規制対象となります。投稿者に「#PR」や「#提供」を明記するよう事前に伝え、それを確認する仕組みが必要です。

パターン②:アフィリエイトサイトへの誘導

自社商品のアフィリエイトプログラムを運営している場合、アフィリエイターが広告表示なしに「おすすめ商品」として紹介することがあります。アフィリエイターの表示内容に事業者が関与・管理している場合は規制対象です。利用規約や操作マニュアルに「広告表示の義務」を明記し、違反者への対応方針も定めておく必要があります。

パターン③:従業員・関係者による口コミ投稿

従業員や取引先に依頼してGoogleマップや食べログ、Amazonなどの口コミサイトに高評価を投稿してもらうケースです。これは典型的なステルスマーケティングであり、景表法違反のリスクが極めて高い行為です。会社としてこのような行為を禁止するポリシーを策定し、従業員教育を徹底することが重要です。

パターン④:SNSキャンペーンでの不適切な表示

「リポストで参加!プレゼントキャンペーン」などのキャンペーンを実施した際、参加者の投稿が事実上の広告となっているにもかかわらず広告表示がない場合があります。キャンペーン設計の段階から、参加者への表示義務の周知を組み込むことが必要です。

5. 社内体制の整備と契約書・ガイドラインの実務対応

ステルスマーケティング規制への実務対応として、社内体制の整備と契約書・ガイドラインの見直しが不可欠です。

まず、インフルエンサーやアフィリエイターと締結する業務委託契約書に「広告表示義務」の条項を追加することが重要です。具体的には、以下の内容を盛り込みます。

  • 投稿に際して「広告」「PR」等の表示を行う義務
  • 表示位置・方法についての具体的な指示
  • 違反した場合の契約解除・損害賠償に関する定め
  • 消費者庁から措置命令等を受けた場合の費用負担に関する定め

次に、インフルエンサー向けの表示ガイドラインを整備し、具体的な表示例や禁止事項を明示することが効果的です。「こういう投稿はNGです」という事例集を作成することで、インフルエンサー側の無意識な違反を防ぐことができます。

社内的には、マーケティング担当者だけでなく、経営者・役員レベルでも規制の概要を把握することが重要です。景表法違反の場合、会社全体としての信頼失墜や行政処分が経営に与えるダメージは甚大です。コンプライアンス研修の一環として定期的に実施することをお勧めします。

また、過去に実施したキャンペーンの点検も怠らないでください。現在進行中の施策だけでなく、継続的に掲載されている過去の投稿についても広告表示が適切かどうかを確認し、必要に応じてインフルエンサーに修正を依頼することが望まれます。

6. 違反した場合のリスクと弁護士への相談タイミング

景品表示法に違反した場合、消費者庁は事業者に対して措置命令を発することができます。措置命令が下されると、違反行為の差し止めとともに再発防止措置の実施が命じられます。さらに、一定の要件を満たす場合には課徴金制度が適用され、対象商品・サービスの売上額の3%相当の課徴金が課せられることがあります。

加えて、措置命令は公表されるため、レピュテーションリスク(企業評判へのダメージ)が非常に大きいといえます。消費者庁のプレスリリースやニュースメディアで取り上げられることで、ブランドイメージが著しく損なわれる可能性があります。中小企業にとって、このレピュテーションリスクは売上・顧客離れに直結する深刻な問題です。

弁護士への相談が特に有効なタイミングは以下の通りです。

  • 新たなインフルエンサーマーケティング施策を開始する前:契約書の雛形作成・表示ガイドラインの策定をサポートします。
  • 消費者庁や公正取引委員会から問い合わせ・調査が入った場合:迅速な対応が求められるため、早期に弁護士に相談することが重要です。
  • 競合他社から景表法違反として申告・通報を受けた場合:事実確認と対応方針の検討が必要です。
  • 過去の施策が違反していた可能性に気づいた場合:自主的な是正対応と証拠保全の観点から早期相談が有効です。

景表法は改正・運用指針の更新が続いており、今後もステルスマーケティング規制の運用実態は変化していく可能性があります。最新の動向を踏まえた実務対応を行うためにも、企業法務に精通した弁護士との継続的な関係構築をお勧めします。当事務所では、景品表示法・消費者法に関する企業向けのご相談を承っております。SNS施策・インフルエンサーマーケティングに関するコンプライアンス体制の整備から、行政対応・紛争解決まで、幅広くサポートいたします。まずはお気軽にご相談ください。