2026/05/13
法改正
「法律の話は専門家に任せておけばいい」——そう考えている経営者の方は少なくありません。しかし、法改正への対応が遅れると、行政指導・罰則・取引先からの契約解除・従業員とのトラブルといった形で、突然経営リスクが顕在化します。
2025年から2026年にかけて、中小企業の日常業務に直結する法改正が相次いで施行されています。本記事では、企業法務を専門とする弁護士の立場から、「労務」「取引・下請」「IT・デジタル」の3分野に絞って、中小企業の経営者・管理職が今すぐ確認すべきポイントを解説します。
「自社には関係ない」と思っていた法律が、実は自社の取引慣行や雇用実態に深刻な影響を与えていることも珍しくありません。ぜひ本記事を参考に、自社の対応状況を点検してみてください。
2025年4月・10月と段階的に施行された育児・介護休業法の改正は、従業員数が100人以下の中小企業にも適用される内容が含まれており、特に注意が必要です。主な改正点は以下のとおりです。
多くの中小企業では「就業規則の更新」「個別面談の実施記録」「措置内容の周知」が未対応のまま放置されているケースが見受けられます。放置すると行政指導・企業名公表のリスクがあるため、早急な確認が必要です。
2024年4月から施行された改正労働基準法施行規則により、労働条件の明示事項が追加されました。具体的には、①就業場所・業務の変更の範囲、②有期雇用の更新上限・無期転換申込機会、などを書面で明示することが義務付けられています。
雇用契約書や労働条件通知書のひな型を更新していない企業は、違法状態が継続していることになります。パート・アルバイト・契約社員の採用が多い業種では特に注意が必要です。採用のたびに使い回しているひな型の見直しを、今すぐ行ってください。
全国加重平均の最低賃金は2024年10月に1,055円、2025年10月にはさらに引き上げられました。地域によっては1,100〜1,200円台に到達しており、パート・アルバイトの時給設定が最低賃金を下回っていないか、定期的な確認と見直しが不可欠です。最低賃金法違反は50万円以下の罰金が科せられる行政罰であり、悪意の有無を問いません。「以前に設定した時給のまま更新していなかった」という失念が、深刻な法令違反につながります。
公正取引委員会・中小企業庁は、下請法違反に対する調査・指導を強化しています。従来「業界の慣行」として黙認されていた取引条件が、今や違反認定の対象となるケースが増えています。
中小企業が発注者(親事業者)側に立つ場面でも、下請法の適用対象となることがあります。特に以下の行為は要注意です。
「自社は元請けから仕事を受ける側だから関係ない」と思っている経営者も、外注先・協力会社への発注方法を見直す必要があります。自社がいつの間にか「親事業者」の立場になっているケースは非常に多いです。
2024年11月に全面施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス保護法)」は、業務委託契約を行うすべての企業に影響します。
主な義務内容は次のとおりです。
デザイナー・ライター・ITエンジニア・コンサルタントなど、フリーランスへの外注が日常的な企業では、契約書のひな型と運用フローの見直しが急務です。「今まで口頭で済ませていた」という企業は、今すぐ書面化対応を始めてください。施行から1年以上が経過した現在も、対応が不十分な中小企業が多く残っています。
2022年の改正個人情報保護法施行以降、中小企業にも「漏えい等の報告義務」「保有個人データの開示請求への対応」「第三者提供の記録義務」などが適用されています。しかし、対応状況を確認すると、多くの中小企業でプライバシーポリシーの更新が不十分、または社内の取扱ルールが整備されていないケースが目立ちます。
特に注意すべきはクッキー(Cookie)の取扱いです。Webサイトで分析ツール(Google Analytics等)やリターゲティング広告を利用している場合、適切なクッキー同意バナーと個人情報の取扱いに関する記載が必要です。個人情報保護委員会への報告義務(漏えい発生時)の対応手順も、社内で整備しておく必要があります。
2024年1月に宥恕措置が終了した電子帳簿保存法では、電子取引データ(メールに添付された請求書・契約書等)を電子データのまま保存することが義務となっています。「印刷して紙保存」は原則として認められません。
また、2023年10月に開始したインボイス制度(適格請求書等保存方式)では、仕入税額控除のために適格請求書(インボイス)の保存が必要です。取引先がインボイス登録事業者かどうかの確認、インボイス番号の請求書への記載、受け取ったインボイスの適切な管理が求められます。制度開始から時間が経過した今も、実務対応が不完全なまま運用している企業が散見されます。税務調査の場面で指摘を受ける前に、今一度自社の運用を確認してください。
ChatGPTをはじめとする生成AIツールの業務利用が広がる中、法的リスクへの対応が経営課題となっています。主なリスクは以下のとおりです。
EU AI法(2024年施行)は日本企業にも域外適用される可能性があり、国際取引・海外展開を行う企業は動向を注視する必要があります。社内でのAI利用ガイドラインの策定は、今や中小企業にとっても必須の経営課題です。「社員が勝手に使っているから実態を把握していない」という状況は、企業としてのリスク管理が機能していない状態です。
以上の内容を踏まえ、経営者・管理職がすぐに確認できるチェックリストを提示します。自社の対応状況を率直に点検してみてください。
1つでも「□」が埋まっていない項目があれば、優先順位をつけて早急に対応することをおすすめします。複数該当する場合は、罰則や行政指導のリスクが高いものから着手するのが合理的です。
法改正への対応は、手間とコストがかかるため後回しにされがちです。しかし、対応を怠ることで発生するリスク——行政処分・罰則・取引先との紛争・従業員からの訴訟——は、事前の対応コストをはるかに上回ります。
特に中小企業では、一度の法的トラブルが経営の根幹を揺るがすことも珍しくありません。法改正に対応した契約書・就業規則・社内ルールの整備は、経営を守る「予防法務」の基本です。
「どこから手をつけていいかわからない」「自社の現状を専門家に確認してほしい」という経営者の方は、ぜひLeONE法律事務所にご相談ください。法改正対応の優先順位付けから、契約書・就業規則の整備まで、実務に即した形でサポートいたします。法律は「知らなかった」では守ってくれません。今日から一歩踏み出すことが、明日の経営安定につながります。