Column
2026/09/15
企業法務
海外企業との取引契約では、準拠法や裁判管轄の定め方次第で、紛争が起きた際の対応コストや勝敗の見通しが大きく変わります。本記事では国際取引契約の基礎知識と、自社に有利な条項を設計する実務ポイントを解説します。
国際取引契約とは、国境をまたいで行われる売買・業務委託・ライセンス供与などの取引に関する契約を指します。国内取引と異なり、当事者の所在国の法律・言語・商慣習が異なるため、契約書の条項設計を誤ると、紛争発生時に想定外の負担を強いられるリスクがあります。
特に問題になりやすいのが、「どの国の法律が適用されるか(準拠法)」「どの国の裁判所または仲裁機関で紛争を解決するか(裁判管轄・仲裁条項)」「契約書のどの言語版を正文とするか(言語条項)」という3点です。これらは契約書の中でも目立たない条項ですが、実際に紛争が起きた際には契約の成否そのものを左右する、極めて重要な条項です。
相手企業から提示された契約書をそのまま受け入れてしまうと、相手国の法律・裁判所での対応を強いられ、自社に著しく不利な条件で紛争解決を迫られるケースも少なくありません。自社が発注者・受注者いずれの立場であっても、契約締結前にこれらの条項を必ず確認し、必要に応じて修正交渉を行うことが重要です。
国際取引契約は、越境ECでの海外消費者向け販売契約、海外メーカーとの製造委託契約、海外代理店との販売代理店契約、海外企業へのライセンス供与契約など、業態によって様々な形態を取ります。契約の類型によって注意すべき強行法規や商慣習も異なるため、自社の取引形態に即した契約書ひな形を用意しておくことが望ましいでしょう。
準拠法条項とは、契約の解釈・履行・紛争解決の際にどの国の法律を適用するかを定める条項です。原則として、当事者は契約自由の原則に基づき、取引と関係のない第三国の法律を準拠法として選ぶことも可能です。
相手方の国の法律が準拠法となる場合、自社では把握していない強行法規(当事者の合意によっても排除できない規定)が適用される可能性があります。たとえば、一部の国では代理店保護法制により、契約を解除する際に高額な補償金の支払いが義務付けられているケースもあります。準拠法を確定する前に、現地弁護士への確認を行うことが望ましいでしょう。
交渉力の関係で自社に有利な準拠法を主張できない場合でも、少なくとも契約書の内容自体を詳細に定め、準拠法に依存する解釈の余地を減らしておくことがリスク低減につながります。
なお、準拠法条項は「本契約は日本国法に準拠し、これに従って解釈されるものとする」といった一文で足りると誤解されがちですが、実際には国際物品売買契約に関する国連条約(ウィーン売買条約)の適用を排除するかどうかも合わせて明記しておく必要があります。ウィーン売買条約が自動的に適用される取引もあるため、意図せず条約の規定に拘束されないよう、条項の文言には注意が必要です。
裁判管轄条項は、紛争が生じた場合にどの国のどの裁判所で訴訟を提起できるかを定める条項です。管轄条項には大きく分けて「専属的合意管轄」と「非専属的合意管轄」の2種類があります。
自社が発注者側で、相手企業の資産や事業拠点が海外にしかない場合、日本の裁判所で勝訴判決を得たとしても、相手国でその判決を強制執行できるとは限りません。判決の承認・執行に関する条約の有無によって、実効性が大きく異なる点に注意が必要です。この点を踏まえ、次章で解説する仲裁条項を選択する企業も増えています。
また、訴訟提起の実務面では、海外の相手方への訴状の送達手続きに時間と費用がかかる点も見落とされがちです。「送達に関する条約(ハーグ送達条約)」の締約国であっても、送達完了までに数か月を要することは珍しくなく、迅速な権利救済という観点からも、管轄条項の設計段階で想定しておくべき実務上の課題といえます。
国際取引契約では、裁判ではなく仲裁による紛争解決を選択するケースが広く普及しています。仲裁は当事者が選んだ仲裁人によって非公開で審理が行われる手続きで、以下のようなメリットがあります。
一方で、仲裁は一般的に裁判よりも手続費用が高額になりやすく、上訴による是正手段が限定される点はデメリットといえます。契約金額や取引の継続性、相手企業の所在国の司法制度の信頼性などを踏まえ、裁判管轄と仲裁のいずれが自社にとって有利かを個別に検討する必要があります。
契約書の準拠法・裁判管轄・仲裁条項の設計は専門的な判断を要するため、契約書の作成・見直しの段階で企業法務を専門とする弁護士へ相談することをおすすめします。法律事務所LeONEでは、発注者側・受注者側それぞれの立場に応じた国際取引契約書のレビューに対応しています。
国際取引契約では、日本語版と英語版など複数言語の契約書を作成することが一般的ですが、両者の間に翻訳のズレが生じることは避けられません。そのため、解釈に齟齬が生じた場合にどちらの言語を優先するかを定める「言語条項」が必要になります。
自社が日本語のみで契約内容を管理する場合、日本語版を正文とすることが望ましいですが、相手方の交渉力が強い場合には英語版が正文とされるケースも多く見られます。その場合、契約締結前に必ず英語版の契約書を弁護士に精査してもらい、日本語訳との間に重要な相違がないかを確認する必要があります。
また、契約書だけでなく、発注書・仕様書・品質基準書など、取引に付随する書類についても、どちらの言語を優先するかを取り決めておくと、後日のトラブルを防ぎやすくなります。
英文契約書のレビューでは、単なる直訳では見抜けない法的リスクが潜んでいることが少なくありません。たとえば、日本の契約書には見られない「表明保証(Representations and Warranties)」条項や、損害賠償責任の上限を定める「Limitation of Liability」条項など、英米法特有の条項構成を理解した上でチェックする必要があります。社内に英文契約のレビュー体制がない場合は、契約締結前に外部の専門家によるダブルチェックを受ける体制を整えておくと安心です。
国際取引契約を締結する前に、自社で確認しておくべきポイントを以下にまとめます。
これらの条項は一見すると事務的な内容に見えますが、実際に紛争が発生した際の対応コストや解決の見通しを大きく左右します。契約書を締結する前の段階で、専門家によるリーガルチェックを受けることを強くおすすめします。
自社の契約書フォーマットの整備や、個別の契約書レビューについてご相談されたい場合は、無料相談のお問い合わせから企業法務を専門とする弁護士にお気軽にご相談ください。担当弁護士の詳細については担当弁護士のご紹介ページもご覧いただけます。