Column
2026/10/09
企業法務
取引先や元従業員から突然「訴状」が届いたら、企業はまず答弁書の提出期限と第1回口頭弁論期日を確認し、証拠の保全と弁護士への相談を数日以内に始める必要があります。放置すれば欠席判決で敗訴が確定しかねません。本記事では、訴状が届いた直後の初動対応から答弁書の実務、社内体制の整え方までを企業目線で整理します。
訴状は、裁判所から「特別送達」という方法で郵送されます。通常の郵便とは異なり、受け取った日が法的な手続の起点になるため、受付担当者が開封せずに放置してしまうことは避けなければなりません。御社でも、裁判所からの郵便物は直ちに法務担当者や経営者に回すルールを決めておくことをおすすめします。
訴状を受け取ったら、まず次の5点を確認してください。
この段階で「請求に心当たりがない」「金額が過大だ」と感じても、自己判断で原告に直接連絡するのは控えましょう。不用意な発言が、のちに不利な証拠として使われるおそれがあるためです。
裁判所からの書類が訴状ではなく「支払督促」であるケースもあります。支払督促は、債権者の申立てだけで簡易裁判所の書記官が発するもので、受け取ってから2週間以内に督促異議を申し立てないと、仮執行宣言が付され、強制執行が可能な状態になってしまいます。訴状よりも対応期限が短いため、封筒の中身を確認したら、書類の名称を必ずチェックしてください。異議を申し立てれば通常の訴訟手続に移行し、御社の言い分を主張する機会が確保されます。
実務上は、受領から1週間以内に「事実関係の聞き取り」「関係資料の収集」「弁護士への相談」の3点を済ませておくのが理想です。特に、当時の担当者が退職している、取引の記録が営業担当者の個人メールにしか残っていない、といった事情があると、事実確認だけで想定以上の時間がかかります。答弁書の期限から逆算して、社内の段取りを早めに組み立てましょう。
訴状が届いたのに答弁書を出さず、期日にも出頭しなかった場合、被告は原告の主張を争わないものとみなされます(民事訴訟法159条の擬制自白)。その結果、原告の請求どおりの判決、いわゆる「欠席判決」が言い渡される可能性が高くなります。
判決が確定すると、原告は御社の預金口座や売掛金、不動産などに対して強制執行を申し立てることができます。取引先に対する売掛金が差し押さえられれば、その取引先に紛争の存在が知られることになり、信用面のダメージは金銭的な損失以上に大きくなりかねません。
経営者の方から「明らかに言いがかりなので相手にしていない」というご相談を受けることがありますが、裁判所は出頭しない被告の言い分を汲み取ってはくれません。請求に理由がないと考えるのであれば、なおさら答弁書でその旨を明確に主張する必要があります。訴状が届いた時点で、対応を「するかしないか」ではなく「どう対応するか」を考えることが大切です。
答弁書とは、原告の請求や主張に対する被告側の回答を記載した書面です。訴状が届いたら、この答弁書を期限までに裁判所と原告に提出することが最初の大きな山場になります。
期限までに詳細な反論を準備できないことは珍しくありません。その場合は、請求の棄却を求める旨と「請求の原因に対する認否及び被告の主張は追って準備書面で行う」とだけ記載した簡易な答弁書を提出する方法があります。第1回期日に限っては、答弁書を提出しておけば欠席しても陳述したものとして扱われます(民事訴訟法158条)。まずは欠席判決を防ぎ、その後の準備書面で本格的に反論する、という段取りが実務上よく用いられます。
地方裁判所の訴訟では、会社の代理人になれるのは原則として弁護士に限られます。簡易裁判所では、裁判所の許可を得て社員が代理人となることも認められていますが、法的な主張の組み立てや証拠の出し方には専門的な判断が求められます。請求額が大きい場合や、他の取引先にも波及しうる争点を含む場合は、早い段階で弁護士に依頼することが結果的にコストを抑えることにつながります。担当弁護士のご紹介のページでは、企業間紛争や労働紛争を扱う弁護士の経歴をご覧いただけます。
訴訟は法務担当者だけで完結するものではありません。営業部門、経理部門、情報システム部門など、関係部署を横断した体制づくりが求められます。
紛争に関係するメール、チャット、契約書、議事録、請求書などのデータは、通常の保存期間ルールに関わらず削除・廃棄を停止する必要があります。担当者が不利だと思った資料を独断で消去してしまうと、裁判で不利に扱われるだけでなく、会社の信頼性そのものが疑われます。訴状が届いたら、関係部署に対して速やかに「保全指示」を出しましょう。
原告やその代理人からの連絡、報道機関からの問い合わせなどに対応する窓口を一本化し、現場の担当者が個別に回答しないよう周知します。社内でも、訴訟の情報を共有する範囲を必要最小限に絞ることが重要です。
請求の内容によっては、賠償責任保険や役員賠償責任保険(D&O保険)の対象となる場合があります。保険契約では事故の通知期限が定められていることが多いため、訴状が届いた段階で保険会社への通知要否を確認してください。また、敗訴の可能性や金額によっては、決算上の引当金の計上や開示の検討が必要になることもあります。
民事訴訟は、第1回期日のあと、おおむね1か月から2か月に1回のペースで期日が開かれ、双方が準備書面と証拠を出し合って争点を整理していきます。争点整理が終わると証人尋問が行われ、判決に至ります。第一審だけでも1年前後かかることは珍しくなく、控訴されればさらに長期化します。
実際の企業間訴訟では、判決ではなく和解で終わるケースも少なくありません。裁判所から和解を勧められる場面も多く、和解には次のようなメリットがあります。
一方で、安易に和解すると、同種の請求を他の取引先や元従業員から受けた際に先例とみなされるおそれもあります。和解に応じるかどうかは、勝訴の見込み、弁護士費用や社内工数を含めたトータルコスト、取引関係への影響を総合的に比較して判断することが大切です。
訴訟対応にかかる費用は、弁護士費用(着手金・報酬金・期日ごとの日当など)のほか、社内担当者が資料収集や打ち合わせに費やす時間という「見えないコスト」も含めて考える必要があります。請求額が比較的少額であっても、同じ論点で複数の請求が続く可能性があるなら、最初の訴訟でしっかり争う価値があります。逆に、争点が単純で敗訴の見込みが高い場合は、早期に和解して社内リソースを本業に戻すという判断も合理的です。どちらの方針を取るかは、訴状が届いた初期段階での見通しの立て方に大きく左右されます。
民事訴訟法の改正により、オンラインでの書面提出やウェブ会議による期日の実施など、裁判手続のIT化が進んでいます。遠方の裁判所に訴えられた場合でも、出頭の負担が以前より軽くなるケースが増えています。代理人と相談のうえ、こうした制度を活用することで、移動時間やコストを抑えることが可能です。
訴状が届いてから慌てないためには、日頃からの備えが何より重要です。御社の契約書や社内ルールを、次の観点で見直してみてください。
紛争は、早い段階で専門家が関与するほど選択肢が多く、解決にかかる費用と時間も抑えられる傾向にあります。法律事務所LeONEでは、企業間取引や労務に関する紛争について、訴訟対応だけでなく、紛争を未然に防ぐための契約書の整備や社内体制づくりもサポートしています。訴状や内容証明が届いた場合は、期限が迫る前に無料相談のお問い合わせからご連絡ください。