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ストックオプション制度導入の法務リスクと対策:スタートアップ・中小企業が陥りやすい5つの落とし穴

2026/03/27

企業法務

ストックオプション制度導入の法務リスクと対策:スタートアップ・中小企業が陥りやすい5つの落とし穴

ストックオプション制度とは何か――基本的な仕組みと活用場面

ストックオプション(新株予約権)とは、あらかじめ定めた価格(行使価格)で自社株式を取得できる権利です。スタートアップや成長企業においては、「今は高い給与を払えないが、将来の株式価値の上昇で報いたい」というニーズから、役員や従業員へのインセンティブとして広く活用されています。

上場(IPO)や事業売却(M&A)を目指す会社にとっては特に有効な手段であり、採用競争力の強化や、エース社員の離職防止にも貢献します。しかしながら、制度の設計や運用を誤ると、法的トラブルや税務上の不利益を招くリスクがあります。本記事では、中小企業・スタートアップの経営者が陥りやすい5つの落とし穴と、その対策を解説します。

落とし穴①:税制適格要件を満たしていない「無効なストックオプション」

ストックオプションには、税務上の優遇措置を受けられる「税制適格ストックオプション」と、そうでない「税制非適格ストックオプション」があります。税制適格であれば、権利行使時には課税されず、株式売却時に譲渡所得として課税されるため、税負担が大幅に軽減されます。

ところが、税制適格の要件は厳格です。主な要件として以下のものが挙げられます:

  • 権利行使価格が付与時の時価以上であること
  • 権利行使は付与後2年以上10年以内に行うこと
  • 年間の権利行使限度額が2,400万円以下であること(2024年改正により拡充)
  • 付与対象者が大口株主(10%超保有)でないこと
  • 譲渡制限が付されていること

これらの要件の一つでも満たさない場合、権利行使時に給与所得として課税され、受益者が想定外の税負担を負うことになります。設計段階で税理士・弁護士と連携して要件を確認することが不可欠です。

落とし穴②:株主総会・取締役会の手続き不備による無効リスク

ストックオプション(新株予約権)の発行は、会社法に基づく厳格な手続きが必要です。具体的には、株主総会の特別決議(または定款に基づく取締役会決議)による承認が必要であり、以下の事項を決議しなければなりません:

  • 新株予約権の内容(目的となる株式数、行使価格、行使期間など)
  • 募集新株予約権と引換えに払込みをさせる場合の払込金額またはその算定方法
  • 割当日

スタートアップにありがちな失敗として、「口頭で約束した」「メールで通知しただけ」「取締役会の議事録が不備」といったケースがあります。このような場合、新株予約権の発行自体が無効となるリスクがあり、後のIPO審査で指摘されることも少なくありません。

また、発行済みの新株予約権の内容を変更する場合も、再度の適切な機関決定が必要です。「後から修正すれば大丈夫」という安易な考えが、手続きの瑕疵を累積させる原因となります。

落とし穴③:退職時の取り扱いを定めていないことによるトラブル

ストックオプションを付与した従業員が退職した場合、その権利をどう扱うかが問題となります。多くのスタートアップで見られる失敗が、退職時の権利取扱いを明確に規定していないことです。

たとえば、次のような事態が起こり得ます:

  • 自己都合退職の社員が権利行使を主張してきた
  • 競合他社に転職した元社員が株主として残り続けた
  • 懲戒解雇した社員から新株予約権の行使を求める訴訟を起こされた

これらを防ぐために、新株予約権割当契約書や社内規程において、退職事由ごとの権利取扱い(失効・行使可能期間の限定など)を明確に規定することが重要です。また、競業避止義務や秘密保持義務と連動させた条項を設けることも有効です。

なお、過度に権利を制限する条項は公序良俗違反として無効となる可能性があるため、バランスのとれた設計が求められます。

落とし穴④:評価額(時価)の算定ミスによる課税リスク

税制適格ストックオプションの行使価格は、「付与時の時価以上」であることが要件です。この「時価」の算定を誤ると、税制適格の要件を満たせず、受益者に多大な税負担が生じます。

非上場株式の時価算定は複雑です。国税庁の通達や、財産評価基本通達に基づく方法(純資産価額方式、類似業種比準方式など)がありますが、スタートアップの場合は直近の第三者割当増資の価格を参考にするケースも多くあります。

特に注意が必要なのは、直近の資金調達ラウンドで高いバリュエーションがついた後にストックオプションを発行する場合です。この場合、時価が高くなるため行使価格も高く設定せざるを得ず、インセンティブとしての魅力が低下するという課題もあります。

2024年度税制改正では、スタートアップ支援の観点から、一定の要件を満たす場合に時価よりも低い価格でのストックオプション付与を認める措置も講じられています。最新の税制改正を踏まえた設計が求められます。

落とし穴⑤:IPO・M&A時の障害になりうる設計上の問題

ストックオプションの設計が不適切だと、将来のIPOやM&Aの際に障害となることがあります。証券会社や取引所の審査では、ストックオプションの付与経緯・条件・行使状況が詳細に確認されます。

よくある問題点には以下のものがあります:

  • 付与対象者の範囲が不明確:「何となく全社員に付与した」では、希薄化(ダイルーション)の管理が困難になる
  • 行使条件・業績条件の設定なし:インセンティブ効果が薄く、付与の合理性を説明しにくい
  • 大量のストックオプション未行使残高:将来の株式希薄化リスクとして投資家から懸念される
  • 過去の発行手続きの不備:IPO審査で指摘され、是正に多大な時間と費用がかかる

M&Aの場面でも、買収企業がストックオプションの承継・消却・買い取りを求めることがあり、設計次第で交渉が複雑化します。出口戦略を見据えた設計が重要です。

まとめ:ストックオプション制度は「専門家と一緒に設計する」が鉄則

ストックオプション制度は、正しく設計・運用すれば優秀な人材の確保・定着に非常に有効なツールです。しかし、法的手続きの不備、税務上の要件不満足、退職時の取り扱い不明確、評価額の算定ミス、出口戦略との不整合といった落とし穴が多く存在します。

これらのリスクを回避するためには、制度設計の段階から弁護士・税理士・公認会計士が連携して対応することが不可欠です。「とりあえず付与しておく」という安易なアプローチは、後に大きな問題を引き起こします。

弊所では、スタートアップや成長企業のストックオプション設計から関連契約書の整備まで、ワンストップでサポートしております。導入を検討されている経営者の方は、ぜひお気軽にご相談ください。