2026/04/20
企業法務
「うちは中小企業だから、商標登録なんて大企業がすることでしょう」──そう思っていませんか?実は、商標トラブルに巻き込まれる企業の多くは中小企業です。長年使い続けた社名やブランド名が突然「他社の登録商標を侵害している」と指摘され、多額の損害賠償を請求されたり、ブランドの使用をやめざるを得なくなったりするケースが後を絶ちません。
本コラムでは、企業法務を専門とする弁護士の立場から、中小企業が陥りやすい商標トラブルのパターンと、今すぐ取り組むべき実務的な対策ポイントをわかりやすく解説します。
商標とは、自社の商品やサービスを他社のものと区別するために使う「マーク」のことです。文字・図形・記号・立体的形状・色彩・音などが商標として認められます。
商標権は、特許庁に出願・登録することで発生します。登録された商標は、指定した商品・サービスの区分において独占的に使用する権利が与えられます。登録から10年間有効で、更新すれば半永久的に権利を維持できます。
重要なのは、商標権は「先に登録した者勝ち」の原則が基本だという点です。いくら長年使用していたとしても、他者に先に登録されてしまうと、権利上は後発の使用者として扱われる可能性があります(ただし、著名商標については例外的な保護が認められる場合があります)。
最も多いのが、商標を登録せずに社名や商品名を使い始め、後になって他社が同一または類似の商標を先に登録していたことが判明するケースです。
たとえば、飲食店を開業して「〇〇キッチン」という屋号を使い始めたところ、数年後に同じ名前を登録している別の飲食チェーンから「商標権を侵害している」として使用中止と損害賠償を求める内容証明が届いた、といった事例があります。この場合、屋号の変更コスト(看板・名刺・ホームページの刷新など)に加え、損害賠償リスクも生じます。
近年問題になっているのが、いわゆる「商標ブローカー」や悪意ある第三者が、実際の使用者より先に商標登録をしてしまうケースです。特に中国などの海外展開を検討している企業が狙われやすい傾向があります。
国内でも、著名になった後に模倣的な出願をされるケースがあります。登録されてしまった後に取り消すには「不使用取消審判」や「無効審判」などの手続きが必要になり、時間・費用の両面で大きな負担となります。
まったく同一でなくても、「類似」と判断されれば商標権侵害になります。文字の読み方・外観・観念(意味)のいずれかが類似していれば、侵害が認められる可能性があります。中小企業が独自と思っていたネーミングが、実は大手の登録商標と類似しているケースは珍しくありません。
退職した元従業員や取引関係が終了した元取引先が、自社のブランド名や商品名を勝手に商標登録してしまうケースもあります。内部情報を知る人物が行うため、悪意のある利用をされるリスクが高く、対応が難しい問題です。
商標権侵害が認められると、以下のような法的リスクが生じます。
また、法的リスクだけでなく、ブランドイメージの低下や顧客・取引先への信頼失墜といったビジネス上のダメージも甚大です。
新しい社名・ブランド名・商品名・サービス名を使用する前に、必ず商標調査を行いましょう。特許庁が運営するJ-PlatPat(特許情報プラットフォーム)を使えば、無料で登録商標の検索ができます。ただし、自社で行う調査には限界がありますので、重要なブランドについては弁理士や商標専門の弁護士に依頼することを強くお勧めします。プロによる調査費用は数万円程度で済む場合が多く、後のトラブルと比べればはるかに安上がりです。
調査で問題がなければ、速やかに商標登録出願をしましょう。出願費用は1区分あたり数千円〜数万円程度です(弁理士への依頼費用を含めると10〜20万円程度が目安)。特に以下の商標は優先的に登録すべきです:
また、海外展開を検討している場合は、国内登録と合わせて、展開予定国でも早期に出願することが重要です。
商標を登録したら終わりではありません。類似した商標が後から出願された場合、異議申立制度を使って登録を阻止することができます。ただし、異議申立ができる期間は登録公告から2ヶ月以内と限られています。定期的に自社のブランド名に類似した出願がないかをJ-PlatPatで監視するか、弁理士に監視サービスを依頼することをお勧めします。
商標に関する社内規程を整備し、以下の点を明確にしておきましょう:
デザイン会社や広告代理店などに外部委託してロゴや商品名を作成してもらう場合、著作権の帰属と商標登録の権利関係を契約書で明確にしておくことが重要です。委託先が勝手に商標登録できないよう条項を盛り込むとともに、成果物の著作権が発注者に譲渡されることを明記しましょう。
万が一、「商標権を侵害している」という内容証明や警告書が届いた場合、絶対にやってはいけないことがあります。それは、無視することと、感情的に反論することです。
警告書が届いたら、まず冷静に以下の手順を踏みましょう。
また、逆に自社の商標が第三者に無断使用されていた場合も、早期に弁護士に相談し、使用差止や損害賠償請求の手続きを検討することが大切です。放置すると商標の著名性が希薄化したり、後の権利行使が困難になる場合があります。
商標登録のコストを「無駄な出費」と捉えている経営者の方もいるかもしれません。しかし、ブランドは企業の信用・顧客との信頼関係・競争優位性の源泉です。それを守る商標権は、経営資産への投資と考えるべきです。
商標トラブルが発生してからでは、社名変更や損害賠償対応に膨大なコストと労力がかかります。一方、事前の調査・登録・管理を適切に行えば、リスクを大幅に低減できます。
特に、これから新しいブランド・商品名・サービス名を使い始める方、または「そういえば商標のことを考えたことがなかった」という方は、ぜひ一度、弁護士や弁理士に現状を相談されることをお勧めします。LeONE法律事務所では、企業法務を専門とする弁護士が、商標を含む知的財産権に関するご相談に対応しています。「まず話を聞いてほしい」という段階でもお気軽にご連絡ください。