2026/06/22
企業法務
「商標登録は大企業がするもの」「有名ブランドでなければ狙われない」——そう考える中小企業の経営者は少なくありません。しかし実際には、中小企業こそ商標トラブルに巻き込まれやすい状況にあります。なぜなら、規模が小さいうちは商標登録を後回しにしてしまいがちで、その隙を突かれるケースが後を絶たないからです。
近年、いわゆる「商標ブローカー」と呼ばれる第三者が、将来価値のある商標を先に登録し、本来の使用者に対して高額な使用料を請求したり、使用停止を求めたりするトラブルが増加しています。また、知らないうちに他社の商標権を侵害してしまい、多額の損害賠償や商品名・ブランド名の変更を迫られる事態も頻繁に発生しています。
本記事では、商標登録の基本的な仕組みから、中小企業が直面しやすい具体的なリスク、登録手続きの流れ、費用対効果の考え方まで、経営者・管理職の方が実務に活かせる情報を体系的に解説します。
商標とは、自社の商品やサービスを他社のものと区別するための識別標識です。社名、製品名、ロゴマーク、スローガン、場合によっては音や色彩なども商標として登録できます。
商標権は、特許庁に出願・登録することで発生します。登録された商標は、指定した商品・サービスの区分(類)において、登録商標権者だけが独占的に使用できる権利が認められます。登録期間は10年間で、更新手続きを行うことで半永久的に維持することが可能です。
未登録の状態でも「不正競争防止法」による保護を受けられる場合はあります。しかし、それは自社の商標が「著名性」や「周知性」を持っていることが前提であり、中小企業の多くはこの要件を満たすことが難しいのが現実です。
商標登録は「攻め」の手段であると同時に、こうしたリスクから自社を守る「守り」の手段でもあります。
商標トラブルは決して他人事ではありません。以下に、中小企業が実際に経験しやすいケースをご紹介します。
地域で評判の飲食店チェーンが全国展開を検討していたところ、すでに同一の店名が第三者によって商標登録されていることが判明しました。その第三者は実際には営業しておらず、商標を「切り札」として使用料や譲渡代金を要求してきました。交渉の末、数百万円を支払って商標を買い取ることになったという事例があります。
製造業のA社が長年使い続けてきた製品ブランド名が、別の会社によって登録されていたことが発覚しました。A社は同一業種・同一地域で使用していたにもかかわらず、商標権侵害として警告書を受け取り、製品名の変更と在庫処理のコストを余儀なくされました。
国内で成功したEC事業者が中国・東南アジアへの展開を図った際、現地で同一ブランド名がすでに登録済みで、現地語のSNSで悪評を広められたという事例も増えています。中国など一部の国では商標の「先願主義」が徹底されており、有名ブランドの名前を先取りする「商標スクワッター」問題が深刻です。
これらの事例に共通するのは、「登録しておけば防げた」という点です。商標登録は問題が起きてからでは遅く、早期対応が最大の防御になります。
商標登録に不安を感じている方のために、具体的な手続きの流れを説明します。
出願前に、特許庁のJ-PlatPat(特許情報プラットフォーム)を使って、同一・類似の商標がすでに登録されていないかを調査します。この作業は誰でも無料で行えますが、調査の精度には限界があるため、弁理士・弁護士に依頼することが確実です。
商標登録は「商品・サービスの区分」ごとに行います。例えば、飲食業なら第43類、衣料品なら第25類というように、自社のビジネスに該当する区分を正確に選ぶ必要があります。区分を誤ると、必要な範囲で保護されないことがあります。
出願書類を作成し、特許庁に提出します。電子出願または書面出願が可能で、受理されると「出願番号」が付与されます。この時点では商標権はまだ発生しておらず、「出願中」の状態です。
特許庁の審査官が出願内容を審査します。審査期間は平均で6〜12ヶ月程度かかります。問題がなければ「登録査定」が下り、登録料を納付することで商標権が発生します。
合計すると、1区分あたり15〜40万円程度が目安です。複数区分にまたがる場合はその分費用が増えますが、ブランド資産の保護と将来的なトラブル回避のコストとして考えれば、十分な投資価値があります。
すべての商標を一度に登録することが理想ですが、予算や優先度を考えると選択が必要です。以下の観点で優先順位をつけてみてください。
自社が現在展開している事業分野に加え、将来的に展開を予定している分野も含めて登録しておくと安心です。競合他社が類似区分で先に登録してしまうと、後から権利を取ることが困難になります。
また、インターネットビジネスを行っている場合は、デジタルサービスに対応する区分(第42類など)を忘れずに含めることが重要です。
自社の登録商標を第三者が無断使用している場合、以下の対応が考えられます。
警告書を受け取った場合は、速やかに専門家に相談することが重要です。侵害の有無は技術的・法的な判断が必要であり、素人判断で対応すると状況を悪化させることがあります。
対応の選択肢としては、①使用の中止、②ライセンス契約による使用継続、③商標権の無効審判の申立て(登録自体を無効化する手続き)、などが考えられます。いずれの場合も早期の専門家への相談が解決の鍵となります。
商標登録を後回しにするほど、リスクは高まります。事業が成長すればするほどブランドの価値は高まり、それを狙う第三者も増えます。また、問題が発生してからの対処は、予防措置に比べて大幅にコストと時間がかかります。
本記事のポイントを改めて整理します:
「まだ早い」「うちには関係ない」と思っているうちに手遅れになってしまうのが商標トラブルの怖さです。まずは現在使用している社名・ブランド名・ロゴについて、先行調査を行うところから始めてみてはいかがでしょうか。
LeONE法律事務所では、商標登録に関するご相談から登録手続きのサポート、商標権侵害トラブルの解決まで、企業法務の専門弁護士が丁寧に対応いたします。お気軽にご相談ください。