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名ばかりの取締役会・監査役、放置していませんか?中小企業オーナーが知っておくべきガバナンスと責任リスク

2026/07/13

企業法務

名ばかりの取締役会・監査役、放置していませんか?中小企業オーナーが知っておくべきガバナンスと責任リスク

「うちは家族経営だから関係ない」では済まされない理由

「取締役会は年に一度、形式的に議事録を作るだけ」「監査役は名前を貸してもらっているだけで、実際には何もしていない」――こうした状態は、中小企業では決して珍しくありません。しかし、会社法上、取締役や監査役には明確な義務と責任が定められており、それを果たしていないと判断された場合、経営者個人が思わぬ損害賠償責任を負うリスクがあります。

特に近年は、取引先や金融機関、投資家がガバナンス体制を融資審査や取引条件の判断材料にする傾向が強まっています。「うちは上場企業ではないから関係ない」という認識は、今や経営リスクそのものになりつつあります。本記事では、取締役会・監査役の法的義務の基本から、放置した場合のリスク、そして無理なく始められる実務対応まで、企業法務の観点から整理して解説します。

取締役・監査役が負う法的義務の基本

会社法上、取締役には主に次の2つの義務が課されています。

  • 善管注意義務:善良な管理者としての注意をもって職務を遂行する義務。専門家として通常期待される水準の注意を払う必要があります。
  • 忠実義務:会社のために忠実にその職務を行う義務。自己や第三者の利益を会社の利益より優先してはならないというルールです。

これらの義務に違反し、会社に損害を与えた場合、取締役は会社に対して損害賠償責任(会社法423条)を負います。さらに、悪意または重大な過失があった場合には、株主や取引先などの第三者に対しても直接責任を負う可能性があります(会社法429条)。

監査役を設置している会社であれば、監査役にも取締役の職務執行を監査する義務があり、監査を怠って会社に損害が生じた場合には、監査役自身も責任を問われることがあります。「名前だけ貸している」という状態は、この監査義務を放棄していると評価されかねません。

中小企業でも適用除外にはならない

「非公開会社だから」「株主が家族だけだから」といった理由で、これらの義務が軽減されるわけではありません。会社法上の役員責任は、規模や公開・非公開を問わず、株式会社である以上原則として適用されます。むしろ中小企業ほど、法務専門部署がないために体制整備が後回しにされ、リスクが潜在化しやすい傾向があります。

中小企業でよくある機関設計の落とし穴

実務の現場でよく見られる問題点を整理すると、以下のようなパターンが挙げられます。

  • 取締役会を実際には開催せず、議事録だけを事後的に作成している:形式的な決議とみなされ、後日その決議の有効性が争われるリスクがあります。
  • 監査役が名目上の存在で、実質的な監査業務を行っていない:監査役の善管注意義務違反が問われるだけでなく、取締役の不正を見逃す温床にもなります。
  • 重要な業務執行(多額の借入、重要財産の処分など)を代表者の独断で決めている:会社法362条に定める取締役会決議事項を経ずに行われた行為は、後に無効や取消しの対象となる可能性があります。
  • 役員報酬の決定プロセスが曖昧で、株主総会決議を経ていない:税務調査や事業承継の場面で、報酬の適法性が問題視されるケースがあります。

これらは一つひとつを見れば「うちも似たようなものだ」と感じる経営者も多いはずです。しかし、こうした状態が積み重なると、いざ紛争やトラブルが起きた際に、会社としての意思決定プロセスの正当性そのものが揺らいでしまいます。

ガバナンスを放置した場合に現実化するリスク

形だけの機関設計を放置することで、具体的にどのようなリスクが顕在化するのか、代表的な場面を挙げます。

1. 事業承継・M&Aの場面での障害

後継者への株式承継やM&Aによる会社売却を検討する際、買い手側や後継者は必ず過去の意思決定プロセスの適法性をデューデリジェンスで確認します。取締役会議事録の不備や決議の欠落が見つかると、交渉の遅延や評価額の減額につながることがあります。

2. 金融機関・取引先からの信用低下

融資審査や大口取引の与信審査において、ガバナンス体制の有無が判断材料となるケースが増えています。特に補助金・助成金の申請や公共入札では、内部統制の状況を問われることもあります。

3. 役員個人への損害賠償請求

会社が倒産や重大な損失を被った場合、株主や債権者から取締役・監査役個人に対して損害賠償請求がなされることがあります。善管注意義務・忠実義務違反が認定されれば、役員個人の資産にまで責任が及ぶ可能性があります。

4. 社内不正の発見の遅れ

監査機能が形骸化していると、経理担当者による横領や利益相反取引などの不正が発見されないまま長期化し、被害が拡大するリスクが高まります。

今すぐできるガバナンス整備の実務ステップ

大掛かりな体制変更をしなくても、次のような取り組みから始めることで、実質的なガバナンス強化を図ることができます。

  • 取締役会を年数回でも実際に開催し、議事録を都度作成する:形式だけでなく、実際の議論内容を記録に残すことが重要です。
  • 会社法362条4項の決議事項を確認し、重要な意思決定は必ず取締役会にかける:多額の借財、重要な財産の処分・譲受け、支配人その他重要な使用人の選任・解任などが対象です。
  • 監査役に実質的な監査業務(帳簿閲覧、取締役へのヒアリング等)を求める、あるいは監査役設置の要否自体を見直す:非公開会社であれば、取締役会非設置会社への変更や、監査等委員会設置会社への移行など、自社の規模に合った機関設計を検討する余地もあります。
  • 役員報酬の決定プロセスを株主総会決議に基づいて明確化する:総額の上限設定と、その範囲内での配分方法を書面で残しておくことが望ましいです。
  • 社内規程・取締役会規程を整備し、決議事項と報告事項を明文化する:属人的な運用から脱却し、誰が見ても分かるルールにしておくことがトラブル予防につながります。

いずれも専門家のサポートを受けながら、自社の規模や実態に合わせて段階的に進めることが現実的です。完璧な体制を一度に作ろうとせず、まずは「重要な意思決定を書面に残す」ところから始めるだけでも、将来のリスクは大きく低減します。

まとめ

取締役会や監査役の形骸化は、中小企業において非常によくある実態ですが、法的には決して軽視できないリスクをはらんでいます。事業承継やM&A、金融機関との取引、そして万が一の紛争の場面において、ガバナンス体制の不備は経営者自身に跳ね返ってくる可能性があります。

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