Column
2026/10/04
企業法務
J-KISSなど新株予約権による資金調達は、企業価値を決めずに早く資金を集められる反面、転換条件を誤ると想定外に持株比率が下がります。本記事では、契約前に確認すべき条件と法的リスクを整理します。
J-KISSをはじめとする新株予約権型の資金調達は、投資家から資金を受け取る代わりに、将来の一定の事由が生じたときに株式へ転換できる権利(新株予約権)を発行する方法です。株式を直接発行する増資と異なり、資金調達の時点で企業価値(バリュエーション)を確定させる必要がありません。
一方で、企業価値を後回しにするということは、転換時の株数が条件次第で大きく変わるということです。御社が想定していたより多くの株式を投資家が取得し、創業者や既存株主の持株比率が大きく下がる例もあります。ひな形を使う場合でも、自社の状況に合わせた条件の確認が不可欠です。
新株予約権型の資金調達で最も重要な経済条件が、評価上限(バリュエーションキャップ)と割引率です。
次回の資金調達で高い企業価値が付いたとしても、投資家は評価上限として定めた企業価値を基準に株式へ転換できます。たとえば評価上限が5億円で、次回の資金調達の企業価値が10億円であれば、投資家は半額相当の価格で株式を取得できる計算になります。上限を低く設定するほど、投資家の取得株数は増え、既存株主の希薄化が進みます。
割引率は、次回資金調達時の株価から一定割合を割り引いた価格で転換できる仕組みです。評価上限と割引率の両方が定められている場合は、通常、投資家にとって有利なほうが適用されます。どちらが適用される設計なのかを必ず確認してください。
複数回に分けて新株予約権を発行すると、投資家ごとに評価上限や割引率が異なることがあります。その結果、転換後の株主構成が複雑になり、次回の資金調達で投資家から資本政策の見直しを求められることもあります。転換後の持株比率を、複数のシナリオで事前に試算しておくことが重要です。
新株予約権がどのような場面で株式に転換されるかは、契約書の「転換事由」で決まります。ここを曖昧にしたまま契約すると、後で投資家との間で認識の食い違いが生じます。
「一定額以上の資金調達」を転換事由とする場合、その金額の基準が低すぎると、小規模な増資でも転換が発生してしまいます。金額の下限や、対象となる株式の種類を確認しましょう。
新株予約権型の契約には、満期(期限)が設けられているものがあります。満期までに転換事由が生じなかった場合に、投資家が払込金額の返還を求められる設計になっていないかを確認してください。資金繰りが厳しい時期に返還を求められると、事業継続に影響します。
会社が買収された場合などの取扱い(倍率での償還や転換の選択権など)も、契約ごとに差があります。将来の事業承継やM&Aの可能性がある会社は、出口の場面での条件まで確認しておくべきです。
新株予約権の発行は、契約を結べば足りるわけではなく、会社法上の手続を踏む必要があります。
非公開会社の場合、新株予約権の募集事項の決定には、原則として株主総会の特別決議が必要です。公開会社では取締役会の決議で足りる場面もありますが、定款や会社の種類によって異なります。手続の漏れは、発行の効力を争われるリスクにつながるため、議事録の整備を含めて確認してください。
新株予約権を、特に有利な条件で第三者に発行する場合は、株主総会の特別決議で有利発行である理由を説明する必要があります(会社法238条等)。無償で発行する新株予約権でも、条件によっては有利発行と評価される可能性があります。一方で、資金調達の実態として公正な条件で発行しているのであれば、問題となる場面は限られます。条件設定の根拠を、記録として残しておくことが実務上の安全策です。
投資家を募る際は、金融商品取引法上の募集・私募の規制や、勧誘する人数にも注意が必要です。多数の個人投資家に広く声をかける場合は、事前に専門家へ確認しましょう。
新株予約権の契約と併せて、あるいは転換後の株式について、投資契約や株主間契約を求められることがあります。以下の条項は、経営の自由度に直結します。
契約書の条項は、一度合意すると変更が難しくなります。御社では、取引条件の交渉力が弱い段階で、投資家側のひな形をそのまま受け入れていないでしょうか。法律事務所LeONEでは、企業側の立場から契約条件の整理をお手伝いしています。
最後に、新株予約権による資金調達を進める前に、自社で確認すべき項目をまとめます。
これらは、一つひとつは小さな確認事項に見えても、後から修正しにくい点ばかりです。資金調達は成功すること自体が目的ではなく、調達後も経営の主導権を保ちながら事業を成長させることが目的です。契約書の確認や資本政策の検討が必要な場合は、無料相談のお問い合わせをご利用ください。また、実際に対応する弁護士については担当弁護士のご紹介をご覧ください。
なお、本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の案件については、契約内容や会社の状況に応じた判断が必要です。