2026/03/31
契約法務
中小企業の経営者の方から、「昔から使っている取引基本契約書をそのまま使い続けているが、問題ないか?」というご相談をよくいただきます。
取引基本契約書(基本契約書)は、継続的な取引関係の土台となる重要な契約書です。しかし、インターネットで入手したひな型をほぼ手直しなしで使ったり、取引先から提示された契約書をよく確認せずに署名・押印してしまっているケースが少なくありません。
契約書のトラブルは、取引が順調な間は表面化しません。問題が発生して初めて「こんな条項があったのか」と気づくのですが、その時点ではすでに手遅れということも多いのです。
本稿では、中小企業が取引基本契約書で見落としがちな5つの危険条項を取り上げ、それぞれのリスクと対処法を弁護士の視点から解説します。ぜひ自社の契約書と照らし合わせてチェックしてみてください。
取引基本契約書には、損害賠償に関する条項が設けられるのが通常です。ここで問題になるのが、損害賠償の上限額(賠償額の制限)の設定です。
よく見かけるパターンとして、次のような条項があります。
一見合理的に見えますが、この条項が自社に不利に機能する場面があります。例えば、自社が委託者側(発注者)であれば、受託者の過失によって大きな損害(顧客への賠償、業務停止損失など)が生じても、受取れる賠償額が限定されてしまいます。
逆に、自社が受託者側(受注者)であれば、上限が設けられることで過大な賠償リスクを回避できるため、有利に働く場合もあります。
損害賠償条項は、自社がどの立場に立つかによって有利・不利が変わります。立場に応じて以下を検討してください。
また、故意・重過失の場合は上限を適用しない旨を条項に盛り込むことも重要です。故意による損害まで上限で制限することは公序良俗に反するとして無効とされるリスクがあるためです。
業務委託契約や開発委託契約を含む取引基本契約書において、特に注意が必要なのが知的財産権の帰属条項です。
受託者(制作・開発側)として多い落とし穴は次のパターンです。
「本契約に基づいて受託者が作成した成果物に関する一切の知的財産権は、委託者に帰属するものとする。」
この条項が問題になるのは、受託者が自社の既存技術・ノウハウ・汎用ツールを使って成果物を作成した場合です。条項の文言によっては、既存の自社資産まで委託者のものになってしまう恐れがあります。
また、委託者(発注側)として多い落とし穴は、権利帰属の条項が曖昧で、成果物を自由に使える権利(著作権の譲渡・独占的ライセンス)が明確に確保されていないケースです。納品後に「この使い方は契約に含まれていない」と追加費用を請求されるトラブルも起きています。
取引基本契約書には、契約期間と更新に関する条項が設けられます。典型的な自動更新条項はこのようなものです。
「本契約の有効期間は1年間とし、期間満了の○ヶ月前までにいずれかの当事者から書面による解約の申し出がない限り、同一条件で自動的に更新されるものとする。」
この条項自体は一般的ですが、問題は解約申し出の期限を見落とすことです。例えば「3ヶ月前まで」と規定されていれば、契約満了の3ヶ月以上前に申し出なければ自動更新されてしまいます。
特に注意が必要なのは、更新後の条件変更が難しい契約の場合です。市場環境の変化や取引状況の変化に応じて条件を見直したいのに、自動更新によって旧条件が継続してしまうケースがあります。
また、自動更新の回数に上限がない場合、実質的に無期限の契約になってしまう点も見落とされがちです。
秘密保持条項(NDA条項)は多くの取引基本契約書に含まれていますが、その内容が不十分なケースが散見されます。
よくある問題点は次のとおりです。
取引基本契約書には、一定の事由が発生した場合に契約を即時解除できる条項(解除条項)が設けられます。この解除条項のトリガー(解除事由)が問題です。
典型的な危険パターンは次のようなものです。
「相手方が本契約の条項に違反した場合、催告なしに直ちに本契約を解除できる」
この条項の問題点は、軽微な違反でも即時解除が可能になる点です。例えば、納期が1日遅れただけで解除、書類の提出様式がやや異なっただけで解除、といった事態も理論上は起こり得ます。
また、解除事由に「信用状態の悪化」「経営状況の著しい変化」などの曖昧な文言が含まれている場合も注意が必要です。取引先が一方的にこれらの事由を判断して解除を主張してくる可能性があります。
さらに、解除条項とあわせて損害賠償条項が手当てされていない場合、不当解除された側が損害賠償を求めにくい状況になるケースもあります。
取引基本契約書に潜む5つの危険条項を解説しました。改めてポイントを整理します。
これらの条項は、取引が順調な間はほとんど意識されません。しかし、一度トラブルが発生すると、契約書の一文一文が損得を左右します。
特に中小企業の場合、大企業から提示された契約書を「相手が大きいから仕方ない」とそのまま受け入れてしまうケースが多くあります。しかし、契約書は交渉できるものです。全条項の変更が難しくても、自社にとって致命的なリスクになりうる条項についてはしっかり交渉することが重要です。
「今使っている取引基本契約書を見直したい」「取引先から契約書を提示されたが内容が心配」という場合は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。契約書の内容確認・修正交渉のサポートを行っております。