2026/04/22
契約法務
中小企業の経営者や管理職の方から、「取引先から契約書を渡されたが、内容をよく確認せずにサインしてしまった」というご相談を多くいただきます。
取引先が大企業や老舗企業であれば、「先方が用意した書類だから問題ないだろう」と思いがちです。しかし、契約書はあくまでも契約を提示した側に有利な内容になっていることがほとんどです。サインをした後で「こんなことが書いてあったのか」と気づいても、原則として契約の拘束力は生じています。
本記事では、中小企業の経営者・管理職の方が取引先から提示された契約書をチェックする際に必ず押さえておきたい「危険な条項」を5つのポイントに絞って解説します。法律の専門知識がなくても理解できるよう、具体的な事例を交えながら説明しますので、ぜひ契約書チェックの実務に役立ててください。
契約書において最も見落とされやすく、かつ最も重大なリスクをはらんでいるのが損害賠償条項です。
一見すると、損害賠償の上限が設定されていない契約書のほうが、被害を受けた場合に十分な補償を受けられると思うかもしれません。しかし、逆に自社が損害賠償責任を問われる立場になった場合、上限なしの条項は致命的な打撃を与える可能性があります。
例えば、ソフトウェア開発を受注した中小企業が、システムの不具合によってクライアントのビジネスに損害を与えた場合、「いかなる損害についても全額賠償する」という条項があれば、契約金額を大幅に超える賠償額を請求される事態になりかねません。
適切な交渉ができれば、「本契約に基づく損害賠償の上限は、当該取引の契約金額を限度とする」「間接損害・逸失利益については賠償責任を負わない」といった条項を入れることが可能です。契約書を受け取った段階でこの点を必ず確認しましょう。
契約の解除に関する条項も、取引先に有利な内容が一方的に設定されているケースが非常に多いです。
例えば、以下のような条項が入っていた場合はリスクがあります。
このような条項があると、長期間かけて取引関係を構築したとしても、取引先の都合次第で突然契約を打ち切られるリスクがあります。一方で、自社側が解除する場合は「3か月前の事前通知が必要」など、厳しい条件が設定されていることもあります。
特に継続的な取引契約(業務委託、販売代理店契約など)においては、解除条項のバランスは死活問題になることがあります。自社にとって一方的に不利な解除条項は必ず修正を求めましょう。
制作物や成果物を伴う取引においては、知的財産権(著作権・特許権など)の帰属に関する条項が非常に重要です。
デザイン、ソフトウェア、コンテンツ制作、コンサルティング資料など、何らかの成果物を作成する契約においては、「本契約に基づき乙が作成した成果物に関する一切の権利は甲に帰属する」という条項が含まれていることがよくあります。
この条項に素直にサインすると、自社が多大な工数と労力をかけて作成したノウハウや技術が、そのまま取引先の財産になってしまいます。さらに、業務の中で利用した自社の既存技術やノウハウ(バックグラウンドIP)まで取引先に帰属すると解釈される恐れがあります。
「成果物の著作権は取引先に帰属するが、当該成果物の作成過程で用いた自社のノウハウ・汎用技術等の権利は自社に留保する」といった規定を入れることが理想的です。
秘密保持条項(NDA条項)は、多くの契約書に含まれています。しかし、その内容をしっかり読まずにサインすると、後々思わぬトラブルにつながることがあります。
取引先から提示された契約書に「取引先から開示されたすべての情報を秘密情報とする」と書かれていた場合、口頭で会話した内容まで秘密保持義務の対象になってしまいます。これでは、他の取引先に対して似たような提案をすることや、業界の一般的な知識を活用することまで制限される可能性があります。
また、契約終了後も長期間にわたって秘密保持義務が継続する条項も要注意です。「契約終了後10年間」「永続的に」といった規定は、事業活動に大きな制約をもたらします。
秘密保持条項は一見すると重要度が低いように思われがちですが、後々の事業展開に影響するケースがあります。しっかり確認しておきましょう。
最後に確認すべきなのが、管轄裁判所と準拠法に関する条項です。これは、紛争が発生した際にどの裁判所で、どの国の法律に基づいて解決されるかを定めるものです。
例えば、自社が大阪に所在する場合に「東京地方裁判所を専属的合意管轄裁判所とする」という条項があると、もし紛争が起きた際には東京の裁判所まで出向かなければなりません。弁護士費用や移動コストが増大し、中小企業にとっては大きな負担になります。
また、国際取引の場合には準拠法の確認も重要です。「準拠法はニューヨーク州法とする」などの条項があると、日本の法律が適用されないため、思わぬ不利益を被る可能性があります。
管轄裁判所の条項は、紛争が起きていない平時には全く気にならないものです。しかし、いざトラブルが発生したときには、この条項の存在が大きく影響します。特に取引規模が大きい契約や長期継続する契約においては、必ず確認しておきましょう。
本記事では、取引先から提示された契約書をチェックする際の5つの重要ポイントを解説しました。
これらの条項は、普段の取引では気にならないものの、いざトラブルが発生したときに大きな影響を及ぼします。取引先との関係を大切にしながらも、自社を守るために必要な条項の修正や追加を求めることは、決して非常識なことではありません。むしろ、契約内容を理解したうえで取引を進めることは、健全なビジネス関係を構築するうえで不可欠なプロセスです。
「契約書の内容が難しくてよくわからない」「どこまで修正を要求してよいのか判断できない」という場合は、ぜひ一度、企業法務を専門とする弁護士にご相談ください。契約書1枚のチェックでも、専門家の目を通すことで思わぬリスクを事前に防ぐことができます。
LeONE法律事務所では、中小企業の経営者・管理職の方からの契約書レビューのご相談を承っております。初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。