2026/07/01
企業法務
「銀行融資の審査が通らない」「請求書を出したのに入金まで2か月待てない」——こうした資金繰りの悩みを抱える中小企業の経営者から、ファクタリングに関するご相談が近年急増しています。
ファクタリング(Factoring)とは、企業が保有する売掛債権(未回収の売上代金に対する権利)をファクタリング会社(ファクター)に譲渡し、入金期日前に現金を受け取る資金調達の手法です。銀行融資と異なり、原則として自社の信用力ではなく売掛先(得意先)の信用力が審査の基準となるため、業歴が浅い企業や赤字決算の企業でも利用できるケースがあります。
法律上、ファクタリングは「売掛債権の売買」として位置付けられています。2020年の民法改正により、売掛債権の譲渡性が原則として認められるようになったことも、ファクタリング市場の拡大を後押ししました。しかし同時に、高額手数料を請求する悪徳業者や、実態として違法な貸金業を営む事業者も増加しています。本記事では、ファクタリングの法的仕組みをきちんと理解したうえで、安全に活用するための実務ポイントをお伝えします。
ファクタリングには大きく分けて「2者間ファクタリング」と「3者間ファクタリング」の2種類があります。どちらを選ぶかによって、手数料の水準や手続きの流れ、法的リスクが異なります。
2者間ファクタリングは、利用企業(売主)とファクタリング会社(買主)の2者間で売掛債権の売買契約を締結する方式です。売掛先(得意先)には通知されず、取引関係を変えることなく資金調達できます。
3者間ファクタリングは、利用企業・売掛先・ファクタリング会社の3者が関与する方式です。売掛先にファクタリングの利用を通知し、売掛先が直接ファクタリング会社に支払いをする形をとります。
急ぎの資金調達には2者間、コスト重視・長期活用には3者間が向いています。ただし2者間ファクタリングは手数料が高いため、資金調達コストを年換算すると銀行融資の数倍になることも珍しくありません。事前に費用対効果を十分に検討することが重要です。
ファクタリング市場の拡大とともに、中小企業を狙ったトラブルも急増しています。金融庁・消費者庁・中小企業庁が合同で注意喚起を出すほど、被害が深刻化しています。主なリスクを以下に整理します。
ファクタリングは「売買」ですが、契約の内容によっては実質的に「貸付け」と判断される場合があります。特に問題となるのが「償還請求権(リコース)付きファクタリング」です。
これは、売掛先が支払いをしなかった場合に利用企業が買い戻す義務(償還請求権)を負う契約形態です。売掛債権の回収リスクが利用企業に残るため、実質的には「売掛債権を担保とした融資」と変わらず、貸金業法の適用を受ける可能性があります。登録を受けていない業者がこのような契約を結ぶと、無登録貸金業として刑事罰(5年以下の懲役または1,000万円以下の罰金)の対象となります。
手数料名目で事実上の高利息を取る悪徳業者も存在します。100万円の売掛債権に対して30万円の「手数料」を差し引いて70万円しか渡さない場合、実質年利換算で数百パーセントに上ることがあります。このような契約は「ファクタリング」の名目であっても、実質的には出資法・利息制限法が適用される貸付けと判断される可能性があります。
悪質な業者が複数のファクタリング会社に同一の売掛債権を二重譲渡するケースや、逆に利用企業側が同じ売掛債権を複数のファクタリング会社に譲渡してしまう問題も発生しています。民法上、売掛債権の二重譲渡では、確定日付のある通知が先に到達した方が優先されます(民法467条)。3者間ファクタリングでは内容証明郵便による通知が一般的ですが、2者間ではこの手続きが省略されがちです。
では、合法的なファクタリングとはどのようなものでしょうか。金融庁が公表している判断基準を参考にすると、以下の要素が重要です。
なお、2020年の民法改正以前は「譲渡禁止特約」が付いた売掛債権のファクタリングは法的に問題があるとされていましたが、改正後は特約があっても原則として譲渡は有効となりました(ただし売掛先が悪意または重過失の第三者には対抗できない場合があります)。自社の取引基本契約書に譲渡禁止特約がないか事前に確認することをお勧めします。
ファクタリングを利用する際は、以下の5点を必ず確認してください。
ウェブサイトに会社名・代表者名・所在地・電話番号が明記されているか確認します。住所が実在するかGoogle マップ等で確認し、電話番号がつながるかテストすることも有効です。「審査なし・即日対応」を過度に強調する業者は要注意です。
契約書に「売掛先が支払えない場合、利用企業が買い戻す」旨の条項がないか確認します。償還請求権付きの契約は実質的な貸付けとなる可能性があり、リスクが高くなります。
手数料率が事前に明示されているかを確認します。「審査後に決まる」との説明で手数料が不透明な場合は慎重に対応してください。一般的な目安として、3者間で1〜9%、2者間で10〜20%が市場水準です。これを大幅に超える場合は注意が必要です。
契約書を締結する前に、必ず弁護士等の専門家に内容を確認してもらうことをお勧めします。特に確認すべき条項は、①譲渡する債権の特定、②手数料・費用の明示、③償還請求権の有無、④契約解除条件、⑤損害賠償条項です。
ファクタリングは業者によって手数料に大きな差があります。複数の業者から見積もりを取り、条件を比較することが重要です。急いで1社と契約することは避け、余裕を持ったスケジュールで業者選定を行いましょう。
ファクタリングは適切に活用すれば中小企業の資金繰り改善に有効な手段ですが、法的知識なしに利用すると高額手数料や違法契約のリスクがあります。以下のポイントを押さえておきましょう。
特に資金繰りが逼迫している状況では、焦って条件の悪い契約を結んでしまうリスクが高まります。「とりあえず今月を乗り切りたい」という状況になる前に、日頃から資金計画を見直し、選択肢を複数持っておくことが中小企業経営の安定につながります。
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