2026/07/02
労働法
近年、育児・介護休業法(以下「育介法」)は頻繁に改正されており、中小企業においても対応が求められる場面が増えています。「うちは従業員が少ないから関係ない」と思っている経営者の方もいらっしゃるかもしれませんが、育介法の多くの規定は企業規模を問わず適用されます。
特に2025年4月施行の改正では、子の年齢に応じた柔軟な働き方の確保が新たに義務化され、企業は就業規則の見直しや制度設計の整備を急ぐ必要があります。また、対応が遅れると行政指導の対象となるだけでなく、優秀な人材の採用・定着にも悪影響を及ぼしかねません。
本記事では、育介法の最新改正の概要と、中小企業の経営者・人事担当者が今すぐ対応すべき5つの実務ポイントをわかりやすく解説します。
育介法は2021年に大幅改正され、その後も段階的に施行されてきました。主な改正内容は以下のとおりです。
2022年10月から施行された「産後パパ育休」は、子の出生後8週間以内に4週間(28日)まで取得できる制度です。従来の育児休業とは別に取得でき、2回に分割して取得することも可能です。また、一定の要件を満たせば休業中に就業することもできます。
この制度の導入にあたっては、就業規則や育児休業規程の改定が必要です。まだ対応できていない企業は早急に見直しを行ってください。
2022年4月以降、有期雇用労働者(パート・契約社員等)の育児休業・介護休業の取得要件から「引き続き雇用された期間が1年以上」という条件が撤廃されました。現在は雇用期間の定めがない場合と同様に取得できるようになっています(ただし、労使協定で1年未満の有期雇用者を対象外とすることは引き続き可能です)。
従業員1,000人超の企業には、男性の育児休業取得率の公表が義務付けられています。中小企業には現時点で公表義務はありませんが、将来的な義務化を見越した準備と、採用競争力の観点から積極的な取り組みが求められます。
2025年4月施行の改正では、3歳から小学校就学前の子を持つ労働者を対象に、柔軟な働き方を実現するための措置が義務化されました。企業は以下の選択肢の中から2つ以上を選んで設けなければなりません。
また、子が3歳以降小学校就学前までの期間については、個別に申出内容を確認し労働者の意向を尊重した対応が求められるようになりました。この「個別周知・意向確認」の義務化は多くの企業で対応が必要です。
育介法の改正に対応するためには、就業規則や育児休業規程の整備・更新が最優先です。特に以下の点を確認してください。
就業規則は従業員10人以上の企業であれば労働基準監督署への届出義務がありますので、変更後は速やかに届出を行ってください。
妊娠・出産の申出を受けた際には、育児休業制度の個別周知と取得の意向確認が義務付けられています(従業員本人および配偶者が出産した場合も含む)。
これは単に書類を渡すだけでは不十分で、口頭や面談等によって実質的な意向確認を行うことが求められます。「取得しづらい雰囲気」を作らないよう、上司からではなく人事部門が直接対応する体制を整えることが重要です。
具体的には、以下のような対応フローを整備しておくとよいでしょう。
育介法は単に制度を設けるだけでなく、実際に取得しやすい職場環境の整備も求めています。具体的には以下の措置が求められます。
これらは「いずれか1つ以上」の実施が求められます。中小企業では全てを一度に整備することが難しい場合もありますが、まず相談窓口の設置と社内研修の実施から始めることを推奨します。
育児・介護休業の取得が増えれば、業務の継続性をどう確保するかという問題が生じます。中小企業では特定の従業員に業務が集中しがちなため、育休取得時に業務が停滞するリスクがあります。
この問題への対応として、以下の取り組みが有効です。
育休取得が「迷惑をかける」という意識を職場から排除するためにも、組織として業務継続の仕組みを整えることが大切です。
育児休業の取得促進に積極的に取り組む中小企業は、両立支援等助成金を活用できる場合があります。代表的なものとして以下があります。
助成金の要件や金額は年度によって変更されるため、最新情報は厚生労働省のウェブサイトや最寄りの都道府県労働局で確認してください。
育介法への対応が遅れた場合、次のようなリスクが生じます。
育介法では、厚生労働大臣が事業主に対して助言・指導・勧告を行う権限を持っています。対応が不十分な企業は行政指導を受ける可能性があり、勧告に従わない場合は企業名が公表される場合もあります。
育児・介護休業の取得を阻害する言動(マタニティハラスメント、パタニティハラスメント)は法律で禁止されており、事業主は防止措置を講じる義務があります。適切な環境整備を怠ると、従業員からの苦情申告や損害賠償請求につながる可能性があります。
育児・介護休業制度が整っていない企業は、特に子育て世代の求職者から敬遠されます。近年は育休取得実績を重視する求職者も増えており、制度整備は採用競争力に直結する経営課題となっています。
育介法は育児だけでなく介護についても規定しています。従業員が家族の介護が必要な状況になったとき、介護休業や介護休暇を取得できる制度も整備が必要です。
介護は突然始まることが多く、従業員が困ったときに頼れる制度がなければ、退職を余儀なくされるケースもあります。特に以下の点を確認してください。
育児・介護休業法への対応は、単なる法令遵守(コンプライアンス)の問題にとどまりません。従業員が安心して働き続けられる環境を整えることは、離職率の低下・採用力の強化・生産性向上につながる経営上のメリットでもあります。
「まず何から始めれば良いか分からない」という経営者の方は、以下の手順で着手することをお勧めします。
育介法の改正は複雑で、専門家のサポートなしに対応するには限界があります。就業規則の見直しや制度設計については、社会保険労務士や弁護士に相談することで、法令違反のリスクを最小限に抑えつつ、自社に合った制度を設計することができます。
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