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社会保険の「企業規模要件」撤廃へ ― 2027年法改正を見据えた中小企業の加入義務総点検と未加入リスク対策

2026/07/10

労働法

社会保険の「企業規模要件」撤廃へ ― 2027年法改正を見据えた中小企業の加入義務総点検と未加入リスク対策

「うちはパートやアルバイトが多いから、社会保険はそこまで気にしなくていい」——そのような認識のまま経営を続けている中小企業経営者の方は、少なくありません。しかし、社会保険の適用対象は近年段階的に拡大しており、これまで「企業規模」を理由に加入義務の外にあった短時間労働者も、次第に加入対象へと組み込まれつつあります。さらに今後は、加入義務の有無を左右してきた「企業規模要件」そのものが撤廃される方向で法改正の議論が進んでいます。
この改正は、単なる制度の微調整ではありません。これまで適用外だった従業員を多く抱える中小企業ほど、保険料負担や事務対応の面で大きな影響を受けることになります。本コラムでは、社会保険・労働保険の基本的な加入義務を整理したうえで、直近の制度改正の経緯と今後の見通し、そして未加入が発覚した場合の具体的なリスク、中小企業が今すぐ着手すべき実務対応について、企業法務の視点から解説します。

1. 社会保険・労働保険、そもそも誰が加入対象になるのか

「社会保険」と一括りに呼ばれることが多いのですが、実務上は大きく分けて以下の制度が存在し、それぞれ加入要件が異なります。

  • 健康保険・厚生年金保険:法人であれば代表者一人であっても原則として強制加入。個人事業でも一定要件を満たす場合は加入義務が生じます。
  • 雇用保険:1週間の所定労働時間が20時間以上、かつ31日以上の雇用見込みがある労働者は、パート・アルバイトであっても加入対象です。
  • 労災保険:労働者を一人でも雇用していれば、雇用形態を問わず全員が対象となる強制保険です。

問題となりやすいのが、短時間労働者(パート・アルバイト)に対する健康保険・厚生年金保険の適用です。従来は「週の所定労働時間が正社員の4分の3以上」であることが基本の加入基準でしたが、これに加えて一定規模以上の企業には、より緩やかな要件(週20時間以上等)で短時間労働者にも適用を広げる特例が段階的に導入されてきました。

2. 適用拡大の経緯と「企業規模要件撤廃」の動き

短時間労働者への社会保険適用拡大は、次のように段階的に進められてきました。

  • 2016年10月:従業員501人以上の企業を対象に適用開始
  • 2022年10月:対象が101人以上の企業まで拡大
  • 2024年10月:対象が51人以上の企業まで拡大

ここでいう「企業規模」とは、厚生年金保険の被保険者数(フルタイム従業員および要件を満たす短時間労働者の合計)を基準とした従業員数であり、必ずしも売上規模や資本金とは連動しません。
そして現在、社会保障審議会などの議論では、この企業規模要件自体を撤廃し、企業の従業員数にかかわらず、週20時間以上働く短時間労働者を一律に社会保険の適用対象とする方向での法改正が検討されています。これが実現すれば、これまで「51人未満だから対象外」としていた中小企業でも、パート・アルバイトの多くが新たに社会保険の加入対象となる可能性が高くなります。

あわせて、賃金要件(月額8.8万円以上)の見直しや撤廃も議論されており、制度の適用範囲は今後さらに広がる見通しです。経営者としては「まだ先の話」と捉えるのではなく、自社の従業員構成をもとに、適用拡大が実施された場合の影響を早めに試算しておくことが望ましいといえます。

3. 未加入・加入逃れが発覚した場合のリスク

社会保険・労働保険への加入義務があるにもかかわらず未加入のまま放置していた場合、発覚した際のリスクは決して小さくありません。主なリスクは以下のとおりです。

(1) 保険料の遡及徴収

年金事務所の調査等により未加入が発覚すると、原則として最大2年間遡って保険料を徴収されます。会社負担分に加え、本来従業員から控除すべきであった本人負担分も一括で請求されるため、資金繰りへの影響は決して軽視できません。

(2) 延滞金・追徴金

納付が遅れた保険料には延滞金が発生します。特に労働保険については、故意に未加入・未申告としていたと認定された場合、追徴金が課されるケースもあります。

(3) 罰則の適用

健康保険法・厚生年金保険法・雇用保険法には、それぞれ加入手続き懈怠に対する罰則規定(懲役または罰金)が設けられています。実際に刑事罰まで科されるケースは限定的ですが、行政指導や是正勧告の対象となることは十分にあり得ます。

(4) 助成金・補助金の受給制限

各種雇用関係助成金は、労働・社会保険への適正な加入が申請要件となっているものが大半です。未加入の事実があると、助成金の不支給や返還を求められるリスクがあります。

(5) 採用・人材確保への悪影響

近年は求職者側も社会保険の加入状況を重視する傾向が強まっています。未加入が明らかになれば、既存従業員の信頼を損なうだけでなく、採用活動においても不利に働きかねません。

4. 中小企業が今すぐ取るべき実務対応

制度改正を見据え、中小企業が今から着手すべき点検・対応事項を整理します。

  • 従業員数の正確な把握:厚生年金保険の被保険者数を最新の状態で把握し、企業規模要件が撤廃された場合の影響を試算する。
  • 雇用契約・シフト実態の確認:契約上の労働時間と実際の勤務実態に乖離がないか確認する。実態が週20時間を超えているにもかかわらず契約上短く記載しているケースは、調査時に問題視されやすい典型例です。
  • 就業規則・雇用契約書の見直し:社会保険の加入要件や適用範囲の変更を反映した規定に更新する。
  • 労務担当者への周知と説明体制の整備:制度変更に伴い保険料負担が生じるパート・アルバイト従業員への説明を、早い段階から準備しておく。
  • 顧問社労士・弁護士との連携:自社の実態が現行法上どのように評価されるか、専門家によるチェックを受けておく。

特に、複数の事業所を展開している企業や、グループ会社間で従業員が兼務しているケースでは、加入義務の判定が複雑になりがちです。判断に迷う場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

5. まとめ

社会保険・労働保険の加入義務は、これまで「企業規模」によって一定の猶予が認められてきましたが、その前提そのものが見直されようとしています。制度改正が実施されれば、これまで対象外だった多くのパート・アルバイト従業員が新たに加入対象となり、保険料負担や事務対応の増加は避けられません。
未加入のまま改正時期を迎えてしまうと、遡及徴収や罰則、助成金の返還といった重大なリスクに直面する可能性があります。制度の動向を注視しつつ、自社の労務管理体制を早めに点検・整備しておくことが、経営リスクを最小限に抑える鍵となります。

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