Column
2026/09/21
企業法務
グリーンウォッシュ規制の中心は景品表示法です。根拠のない「環境に優しい」表示が優良誤認とされる基準、違反時の措置命令や課徴金、自社で整えるべき表示の根拠管理までを整理し、環境表示を見直す判断軸をお伝えします。
グリーンウォッシュとは、実際の環境負荷の低減効果を上回って、環境に配慮しているかのように見せる表示や広報のことです。「環境に優しい」「地球のための素材」「脱炭素に貢献」といった言葉は、商品の付加価値を高める一方、裏付けが伴わなければ法的な問題に発展します。
近年は、消費者だけでなく、投資家や取引先も企業の環境対応を厳しく見るようになりました。環境配慮を販売の切り口にする中小企業も増えており、「うちは小さな会社だから問題にならない」とは言えない状況です。
なお、取引先の事業者だけを相手にした表示は、景品表示法の直接の対象とならない場合もあります。ただし、その場合でも不正競争防止法上の問題や、契約上の表明保証責任が生じる可能性があるため、油断はできません。
日本には「グリーンウォッシュ規制法」という単独の法律はありません。実務上、環境表示の問題は主に景品表示法の「優良誤認表示」として扱われます。
優良誤認表示とは、商品やサービスの品質、規格その他の内容について、実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に示す表示、または事実に反して他社のものよりも著しく優良であると示す表示をいいます(景品表示法5条1号)。再生素材の使用割合、CO2の削減効果、生分解性、リサイクルのしやすさといった環境性能も、商品の品質の一部として判断の対象になります。
実務で特に重要なのが、不実証広告規制です。消費者庁は、表示が優良誤認にあたるかを判断するため、事業者に対して表示の裏付けとなる合理的な根拠資料の提出を求めることができます。期限(原則15日以内)までに資料を提出しない場合や、提出した資料が合理的な根拠と認められない場合には、実際に誤認があったかを問わず、優良誤認表示とみなされます。
つまり、「環境に優しい」と表示した以上、その根拠を示す責任は表示した企業側にあります。試験結果、第三者機関の認証、算定書など、客観的な資料で表示内容を裏付けられるかが分かれ目です。
たとえば、原料の試験結果があるだけで、完成品全体の環境性能を示す表示をしても、両者が対応していないと判断されるおそれがあります。
表示を考える際の参考として、環境省が公表している環境表示ガイドラインや、自己宣言型の環境主張に関する国際規格ISO 14021(JIS Q 14021)があります。これらは法的拘束力を持つものではありませんが、根拠の示し方や分かりやすい表現を検討する際に役立ちます。
自社の表示を点検する際は、次の5つのパターンに当てはまらないかを確認してください。
何が、どの点で、どの程度環境に配慮しているのかが分からない表示です。消費者が誤認しやすい典型例であり、EUでは根拠のない一般的な環境主張そのものが規制の対象になっています。抽象的な言葉に頼らず、具体的な事実に置き換えることが基本です。
たとえば、包装だけが再生紙なのに、パッケージ全面に「環境配慮型商品」と大きく表示するケースです。対象範囲(商品本体か包装か、製造工程だけか)を明確にしなければ、消費者は商品全体が環境に配慮されていると受け取ります。
「CO2排出量30%削減」といった表示です。従来品と比べたのか、他社品と比べたのか、いつの時点と比べたのか、算定範囲はどこまでかが示されていなければ、数値そのものが正しくても誤認を招きます。
排出量の算定範囲が限定的であったり、排出量の一部をクレジットで埋め合わせているだけだったりするのに、その旨を示さずに「カーボンニュートラル」と表示する場合です。自社で削減した分と、クレジット購入による相殺分を区別して示すことが重要です。
理論上は可能でも、実際に回収・処理される仕組みが整っていない場合や、特殊な条件下でしか分解しない場合に、こうした表示をすると誤認を招くおそれがあります。
あわせて注意したいのが「打消し表示」です。強調表示の近くに注釈を置かず、離れた場所や小さな文字で条件を書いても、消費者が認識できなければ打消しとして機能せず、優良誤認と判断されるリスクがあります。
リスクを下げる基本は、抽象的な言葉を、根拠のある事実・数値・基準に置き換えることです。たとえば「環境に優しいパッケージ」という表示は、「包装フィルムに再生プラスチックを30%使用(自社調べ・従来品比)」のように、対象・数値・比較の基準を添えた表現にすれば、消費者の誤認を防ぐとともに、根拠資料との対応関係も明確になります。
環境表示が優良誤認と判断された場合、企業は次のような不利益を受けるおそれがあります。
課徴金の負担は決して小さくありません。たとえば、問題となった表示を付けた商品の3年間の売上が2億円であれば、課徴金は600万円になる計算です。
ただし、金銭的な負担以上に深刻なのは信用への影響です。措置命令は消費者庁のウェブサイトで公表され、報道やSNSで広がります。環境配慮を強みにしていた企業ほど、ブランドへのダメージは大きくなります。
2024年10月からは「確約手続」も導入されました。表示に疑いがあると指摘された場合に、自主的な是正計画を提出して認定を受ければ、措置命令や課徴金納付命令を受けずに済む制度です。もっとも、利用には一定の要件があり、認定を受けるまでの手続きも重い負担になります。日頃の表示管理の代わりにはなりません。
自社の表示が問題ないか判断に迷う場合は、公開前に専門家へ相談することが最も費用対効果の高い対策です。法律事務所LeONEでは、企業の広告表示や契約実務に即した対応方針をご提案しています。
EUでは環境表示への規制が一段と強まっています。2024年に成立した指令((EU) 2024/825)は、根拠のない一般的な環境主張(「環境に優しい」など)や、カーボンオフセットのみを根拠に、商品が温室効果ガス排出に関して中立・削減・プラスの影響を持つと主張する表示を禁止する内容を含みます。加盟国での適用開始は2026年9月27日とされており、間もなく始まります。
EU域内の消費者に商品を販売する日本企業は、自社のウェブサイトや広告表現がこの規制の対象になる可能性があります。なお、企業の環境主張の実証を求める「グリーン・クレーム指令案」は、立法手続きの動向が流動的なため、最新の状況を確認する必要があります。
国内でも、大企業が取引先に対し、CO2排出量や再生材の使用割合などの環境データの提出を求める例が増えています。その際、契約書に「提出情報の正確性の表明保証」を置き、虚偽の場合に損害賠償や取引停止を定めるケースがあります。環境データを提出する立場になった中小企業は、次の点を確認してください。
取引先から求められたデータを、根拠の確認なしにそのまま提出してしまうと、後から誤りが見つかった際に契約違反を問われかねません。提出前に、社内の担当部署と算定根拠を突き合わせる手順を設けておくことが大切です。
表示のリスクは、担当者個人の注意力ではなく、仕組みで管理することが大切です。
環境配慮への取り組みそのものは、企業価値を高める大切な活動です。だからこそ、根拠に裏付けられた表示で正しく伝えることが、長期的な信頼を守ることにつながります。
表示の適法性や、取引先との契約条項について確認したい場合は、担当弁護士のご紹介をご覧のうえ、無料相談のお問い合わせからご連絡ください。