Column
2026/09/29
企業法務
取引先との紛争を訴訟だけで解決しようとすると、時間・費用・評判の面で企業の負担は大きくなります。この記事では、ADR(裁判外紛争解決手続)・仲裁・民事調停の違いと効力、契約書の紛争解決条項の書き方、自社に合った手段の選び方を、企業の実務目線で整理します。
代金の未払い、納品物の不具合、契約解除をめぐる対立など、企業間の紛争は日常的に起こります。多くの経営者は「話し合いで決着しなければ裁判」と考えがちですが、訴訟には見落とされがちなコストがあります。
さらに、訴訟は勝ち負けを決める手続であるため、取引関係はほぼ確実に終わります。今後も取引を続けたい相手との紛争や、業界内の評判を気にすべき紛争では、訴訟が最善とは限りません。そこで検討したいのが、ADR・調停・仲裁といった訴訟以外の解決手段です。
ADR(Alternative Dispute Resolution)とは、裁判によらずに紛争を解決する手続の総称です。企業が押さえておくべき主な手段は次のとおりです。
調停や認証ADRは、当事者が合意しなければ解決しない合意型の手続です。相手が応じなければ不成立で終わる反面、自社が納得しない結論を押し付けられることもありません。一方、仲裁は第三者が結論を出す裁断型の手続で、訴訟と同じく最終的な決着がつきます。ただし、仲裁は当事者双方の仲裁合意がなければ利用できません。
なお、2024年4月施行の改正ADR法により、認証ADRで成立した和解のうち一定の要件を満たすもの(当事者が執行力を持たせることに合意したもの)について、裁判所の執行決定を得て強制執行ができるようになりました。これまで「民間ADRは合意しても強制力がない」とされていた弱点が一部解消されています。
合意型の手続は、次のような場面で特に効果を発揮します。
話し合いを続けている間に、請求権の消滅時効が迫ることがあります。認証ADRでは、手続が不成立で終わった場合でも、終了の通知を受けてから1か月以内に訴えを提起すれば、ADRの請求時に訴えを提起したものとみなされ、時効の完成が猶予されます。認証を受けていない民間の相談窓口ではこの効果がないため、時効が近い案件では手続機関が認証ADRかどうかを必ず確認してください。
合意型の手続は、相手方が出席しない、あるいは歩み寄らない場合には不成立となります。そのため、申立ての前に「相手が話し合いに応じる動機があるか」「不成立の場合に訴訟へ移行する準備ができているか」を検討しておくことが重要です。調停の場で相手の主張や証拠の見通しがわかるだけでも、その後の訴訟戦略に役立ちます。
仲裁が最も力を発揮するのは、海外企業との取引です。
仲裁には一審制であることの裏返しとして、判断に不満があっても上訴できないというリスクがあります。また、仲裁人の報酬や仲裁機関の管理費用を当事者が負担するため、少額の紛争では訴訟より高くつくこともあります。
さらに、仲裁合意があるにもかかわらず訴訟を起こすと、相手方の申立てにより訴えは却下されます。「とりあえず仲裁条項を入れておく」のではなく、想定される紛争の規模や相手国の事情を踏まえて判断すべきです。なお、消費者との間の仲裁合意は消費者が解除でき、個別労働関係紛争についての事前の仲裁合意は無効とされているため、BtoC取引や雇用契約での利用には限界があります。
国際的な調停の分野では、日本は「調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約(シンガポール調停条約)」に加入し、2024年10月から国内で効力が生じています。一定の要件を満たす国際商事調停の和解合意に基づいて執行が可能になり、国際取引での調停の選択肢も広がっています。準拠法や裁判管轄との関係も含めて、国際契約の条項設計はセットで検討することをおすすめします。
紛争が起きてから「仲裁にしよう」と提案しても、相手が同意するとは限りません。ADRや仲裁を使えるかどうかは、契約締結時の紛争解決条項でほぼ決まるといってよいでしょう。
実務でよく見かけるのが、「仲裁により解決する」と書きながら機関名や仲裁地がない条項や、同じ契約書内に仲裁条項と専属的合意管轄条項が並んでいる矛盾した条項です。こうした条項は、紛争時に「そもそもどの手続で争うのか」という入口の争いを生み、かえって解決を遅らせます。
取引の規模や相手方によって最適な条項は異なります。自社のひな形を一律に使うのではなく、重要な取引では個別に見直すことが望まれます。法律事務所LeONEでは、国内外の取引契約について、紛争時の見通しを踏まえた条項設計のご相談をお受けしています。
どの手続を選ぶにしても、紛争の結果を左右するのは初動の対応と日頃の備えです。
紛争を減らす最大の対策は、平時の契約管理です。重要契約の一覧化、更新時期や解除期限の管理、紛争事例の社内共有を行うことで、同じトラブルの再発を防げます。また、紛争が起きたときにすぐ相談できる外部の専門家を確保しておくことも、初動の遅れを防ぐうえで効果的です。企業法務の実務に通じた担当弁護士のご紹介もご参照ください。
訴訟以外の選択肢を知っておくことは、紛争を「早く・安く・静かに」解決するための経営上の武器になります。御社の契約書の紛争解決条項がどうなっているか、この機会に一度確認してみてはいかがでしょうか。具体的な案件の進め方でお悩みの場合は、無料相談のお問い合わせからお気軽にご連絡ください。