Column
2026/10/05
企業法務
越境ECで海外の消費者に商品を販売する場合、日本の法律を守っているだけでは不十分です。販売先の国の消費者保護法や個人情報保護法、税制、製品安全規制が自社に直接適用されることがあり、知らずに違反すると罰金や販売停止のリスクを負います。本記事では、海外販売を始める企業が事前に押さえるべき規制と、利用規約・契約による具体的な備え方を整理します。
越境ECとは、インターネットを通じて国境を越えて商品やサービスを販売する取引をいいます。自社ECサイトでの直接販売のほか、海外の大手マーケットプレイスへの出店、現地の販売代行業者を利用する方法などがあります。国内向けECの延長として気軽に始められる一方、法的には「複数の国の法律が同時に適用される取引」である点に注意が必要です。
越境ECで企業が直面する主な法的リスクは、次のように整理できます。
これらは「海外の話だから日本の会社には関係ない」とはなりません。特にインターネット取引では、現地に拠点がなくても現地の消費者に向けて販売している事実をもって規制対象とされる場合が多いため、御社の販売戦略そのものが法的リスクを左右します。
多くの企業は、ECサイトの利用規約に「本規約は日本法に準拠し、東京地方裁判所を専属的合意管轄裁判所とする」と定めています。企業間取引であれば、このような合意は原則として有効に機能します。
しかし、相手が海外の一般消費者である場合は事情が異なります。日本の「法の適用に関する通則法」も、消費者が自分の常居所地法の強行規定の適用を求めた場合にはそれを認める特例を設けていますし、EUではローマⅠ規則により、事業者が消費者の居住国に向けて事業活動を行っている場合、準拠法を合意していても消費者の居住国の強行規定による保護を奪うことはできないとされています。
同様に、裁判管轄についても、消費者保護の観点から消費者の住所地での提訴を認める国が多く、「東京地裁専属」という条項が現地で無効とされるおそれがあります。つまり、利用規約で日本法・日本の裁判所を指定しておけば安心、という考え方は越境ECでは通用しないと理解しておくべきです。
海外向け利用規約の設計は、国内向けのひな形を翻訳するだけでは足りません。販売先や商材に応じた個別の検討が必要となるため、企業法務を担当する弁護士と早い段階で方針をすり合わせておくと、後の手戻りを防げます。
日本の通信販売にはクーリングオフ制度がなく、返品特約を表示すれば返品を受け付けない設計も可能です。しかしEUでは、オンライン販売の消費者に原則として14日間の撤回権が認められており、事業者は撤回権の存在や行使方法を事前に情報提供しなければなりません。情報提供を怠ると、撤回期間が延長されるなど事業者に不利な扱いを受けます。
販売先国によっては、税込価格での表示、送料や関税の負担者の明示、事業者の名称・住所・連絡先の表示などが義務付けられています。日本の特定商取引法に基づく表記を英訳しただけでは、現地の要件を満たさない場合があります。
日本でもステルスマーケティング規制が導入されましたが、EUや米国でも偽のレビューやインフルエンサー広告の表示に対する規制が強化されています。海外向けにSNS広告を展開する場合は、現地の広告規制に沿った表示(広告である旨の明示など)が必要です。
EUの一般データ保護規則(GDPR)は、EU域内に拠点がない事業者であっても、EU域内の個人に商品やサービスを提供する場合には適用されます。ユーロ建て価格の表示、EU域内への配送対応、現地語のサイト運営などは、EU向けに提供していると判断される典型的な要素です。
GDPRが適用されると、取扱目的の明示、適法な処理根拠の確保、データ主体の権利(アクセス・削除等)への対応、一定の場合のEU域内代理人の選任、データ侵害時の通知義務などが求められます。違反時の制裁金は非常に高額になり得るため、軽視できません。
国内の個人情報保護法でも、外国にある第三者へ個人データを提供する場合には、原則として本人の同意を得る際に移転先の国名やその国の制度に関する情報提供が求められます。海外の物流業者や決済代行業者、クラウドサービスを利用する越境ECでは、データの流れを可視化したうえでプライバシーポリシーを整備することが不可欠です。
越境ECでは、輸入時の関税や付加価値税を誰が負担するかが紛争の原因になりがちです。購入者が受取時に想定外の税金を請求され、受取拒否や返品につながるケースは少なくありません。EUでは低額輸入品にもVATが課される仕組みとなっており、事業者側で登録・申告する制度もあります。販売価格に税を含めるのか、購入者負担とするのかを事前に明示しておくことが重要です。
電気製品、化粧品、食品、子ども向け製品などは、販売先国の安全基準や認証(EUのCEマークなど)、成分規制の対象となる場合があります。また、日本からの輸出にあたっては、外為法に基づく輸出管理(リスト規制・キャッチオール規制)にも注意が必要です。一見ありふれた商品でも、用途や仕向地によっては許可が必要になることがあります。
商標権は国ごとに成立する権利です。日本で商標登録していても、販売先国で登録していなければ保護されず、逆に現地の第三者に先に商標を登録されてしまい、自社ブランドで販売できなくなるリスクがあります。主要な販売先国では、販売開始前に商標の調査・出願を検討すべきです。
海外マーケットプレイスへの出店や現地代行業者の利用では、規約や契約上、出店者側に広範な責任が課されていることが一般的です。在庫の扱い、返品処理、アカウント停止時の売上金の取扱い、損害賠償の範囲などを事前に確認し、交渉可能な部分は自社に有利な条件を求めることが大切です。
越境ECの法的リスクは多岐にわたりますが、すべての国の法律に一度に対応する必要はありません。重要なのは、販売先と商材を明確にしたうえで、リスクの高い領域から優先的に手当てすることです。
越境ECでは、現地法の調査が必要になる場面も多く、日本の弁護士と現地の法律事務所との連携が求められることもあります。まずは国内側で、自社の取引構造と契約関係を整理しておくことが、現地専門家への相談を効率化する近道です。
越境ECの立ち上げや海外向け利用規約の整備でお悩みの場合は、法律事務所LeONEにご相談ください。販売スキームの設計段階から、契約・規約・個人情報対応まで、事業の実情に即した対応方針をご提案しています。具体的なご相談は無料相談のお問い合わせからお気軽にお寄せください。
海外市場は大きな成長機会である一方、法的な備えを欠いたまま進出すると、思わぬ制裁や紛争で事業そのものが止まりかねません。御社の越境ECが持続的に成長できるよう、販売開始前の段階で法的リスクを一度棚卸ししておくことをおすすめします。