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内部通報制度の整備が急務!公益通報者保護法改正で中小企業も対応必須——見落としがちな落とし穴と実務対応策

2026/05/11

企業法務

内部通報制度の整備が急務!公益通報者保護法改正で中小企業も対応必須——見落としがちな落とし穴と実務対応策

なぜ今、内部通報制度の整備が必要なのか

「うちの会社には関係ない」——内部通報制度の話をすると、中小企業の経営者からこのような反応をいただくことが少なくありません。しかし、2022年6月に施行された改正公益通報者保護法は、その「関係ない」という認識を根本から変えるものです。

内部通報制度とは、従業員が社内の不正・法令違反を匿名で申告できる仕組みのことです。大企業では当たり前のように整備されていますが、中小企業ではまだ「規程があるだけ」「担当者が不明確」「実際に通報が来たらどうすればいいか分からない」というケースが多く見られます。

改正法によって、常時使用する従業員が300人を超える事業者には、内部通報体制の整備が義務化されました。300人以下の中小企業には努力義務にとどまりますが、それで安心していてはなりません。取引先や親会社から内部通報体制の整備状況を確認される事例が増えており、体制が不十分な場合は取引見直しにつながるリスクもあります。また、実際に不正が発覚した際、内部通報窓口を整備していなかった企業は行政からの指導対象になる可能性があります。

さらに、内部通報制度を適切に機能させることは、不正の早期発見・早期解決につながり、経営リスクを大幅に軽減できます。制度がなければ、社員は外部機関(行政庁・マスコミ)に直接通報するしかなく、会社にとっての損害は計り知れません。

公益通報者保護法改正の主なポイント

2022年の改正で強化されたポイントは大きく4つあります。それぞれ経営者として理解しておくべき内容です。

①保護される通報者の範囲が拡大

改正前は、正社員など直接雇用される労働者が主な保護対象でしたが、改正後は退職後1年以内の元従業員や役員も保護対象に含まれます。つまり、退職した社員が在職中に知った不正を通報した場合でも、その通報者を不利益に扱うことは禁止されます。役員が通報した場合も保護されるため、内部的な「もみ消し」は以前よりもリスクが高くなっています。

②事業者の体制整備義務

常時使用従業員が300人超の事業者には、以下の体制整備が義務付けられています。

  • 内部通報に応じ、適切に調査・是正措置を行う体制の整備
  • 公益通報者を保護するために必要な措置の実施
  • 従事者(窓口担当者)の指定と秘密保持義務の周知

300人以下の企業は努力義務ですが、消費者庁から「指針」が公表されており、実質的な対応標準となっています。

③従事者の守秘義務の強化

内部通報窓口の担当者(従事者)には、通報者の秘密を漏らしてはならない守秘義務が法律上明記されました。違反した場合は刑事罰(30万円以下の罰金)が科される可能性があります。担当者に対する教育と、情報管理体制の整備が急務です。

④外部通報の要件緩和

行政機関・報道機関等への外部通報の要件が緩和されました。これにより、内部窓口が機能していない場合や、通報後に不利益な扱いを受けた場合は、社員が外部に直接通報しやすくなっています。内部で適切に対応できない企業は、外部通報のリスクにさらされることになります。

中小企業でよくある「落とし穴」

実際に企業の体制を点検すると、中小企業に特有の落とし穴がいくつも見つかります。制度を整備したつもりでも、重大な欠陥を抱えているケースは珍しくありません。

落とし穴①:窓口が経営陣に直結している

最も多いのが、「社長室」や「総務部長」が窓口になっているケースです。通報内容が経営陣の関与する不正である場合、通報者は萎縮して申告できません。通報窓口は経営陣から独立した人物または外部機関が担当することが原則です。外部の弁護士事務所や専門機関を窓口として設定する「外部通報窓口」の導入が推奨されます。

落とし穴②:匿名性が担保されていない

「誰でも相談できます」と周知しても、メール・電話など記録が残る方法だけでは匿名性に不安を感じる社員は多いです。通報システムとして、Webフォームや専用電話を使い、IPアドレスや発信番号が記録されない仕組みを用意することが重要です。

落とし穴③:規程はあるが周知されていない

就業規則の片隅に「内部通報に関する規程を定める」と一文添えただけで満足している会社があります。制度の存在・窓口の連絡先・利用方法・保護の内容を、社員全員に定期的に周知徹底することが義務の核心です。年に1回以上の研修や、ポスター・イントラネット掲載などによる継続的な周知が求められます。

落とし穴④:調査・是正のプロセスが不明確

通報を受けた後にどう動くか、フローが曖昧な企業は多いです。「担当者が受け取って終わり」では制度として機能しません。通報受付→事実調査→是正措置→通報者へのフィードバックという一連のプロセスを文書化しておくことが不可欠です。

落とし穴⑤:通報者への不利益扱いの禁止が徹底されていない

通報者の配置転換・降格・解雇などの不利益取扱いは法律で禁止されていますが、現場レベルでは「陰口を言われる」「評価を下げられる」といった事実上の不利益が起きることがあります。こうした行為も禁止対象に含まれる旨を管理職に周知し、人事評価への影響を遮断する仕組みが必要です。

実効性ある内部通報制度の作り方

形だけの制度ではなく、実際に機能する内部通報体制を作るために、以下のステップを踏むことをお勧めします。

ステップ1:現状の棚卸しをする

まず、自社の現在の体制を確認します。規程の有無、窓口の設置状況、過去の通報実績(ゼロでも把握が必要)、担当者の特定と教育状況、周知の実態——これらをチェックリストで点検します。消費者庁が公表している「内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」が参考になります。

ステップ2:窓口を独立・複数化する

社内窓口(人事・法務・コンプライアンス担当)だけでなく、外部の弁護士や第三者機関を窓口として追加することを強く推奨します。特に、通報内容が経営陣に関わる可能性がある場合、外部窓口の存在が通報者の安心感につながります。複数窓口を設定することで、通報者が最も安心できるルートを選択できます。

ステップ3:規程・フローを整備する

内部通報規程には以下の事項を明記します。

  • 通報の対象となる行為(法令違反、社内規程違反など)
  • 通報窓口の連絡先・方法
  • 通報者の秘密保護と匿名性の確保
  • 調査の実施と是正措置の手順
  • 通報者への不利益取扱いの禁止
  • 虚偽通報に対する取扱い

規程は作ったら終わりではなく、少なくとも年1回は内容を見直し、法改正や社内の実態に応じてアップデートします。

ステップ4:担当者教育と全社周知

窓口担当者には守秘義務の内容と調査手順を徹底的に教育します。全社員向けには、制度の存在・利用方法・保護内容を年1回以上の研修で説明します。新入社員研修にも組み込むことで、入社時から正しい理解を持ってもらうことができます。

内部通報があった場合の対応フロー

実際に通報が寄せられた場合、どのように動くかを事前に決めておくことが非常に重要です。パニックにならず、適切な対応ができるよう、以下のフローを参考にしてください。

第1段階:受付と初期確認(〜3営業日以内)

通報を受け付けたら、まず担当者が内容を確認します。通報者の秘密保持を最優先にしながら、通報内容・日時・通報者情報(匿名の場合は把握できる範囲)を記録します。通報者に受け付けた旨を連絡できる場合は、速やかに連絡します。

第2段階:事実調査(〜30日以内を目安)

調査担当者(通報に関係しない中立の者)を指定し、関係者へのヒアリング・証拠収集を行います。調査中は通報者の身元が漏れないよう細心の注意を払います。調査内容は記録に残し、後の検証に備えます。

第3段階:是正措置と報告

不正が認められた場合は、速やかに是正措置を講じます。是正の内容・時期・担当者を明確にし、経営トップへの報告と必要に応じた外部機関への報告(法令上義務付けられている場合)を行います。通報者に対しては、調査結果と是正措置の概要を(秘密保持の範囲で)フィードバックします。

第4段階:再発防止と制度の改善

同様の問題が再発しないよう、業務フロー・規程・研修内容を見直します。また、通報への対応を通じて浮かび上がった制度上の課題があれば、内部通報規程そのものも改善します。

まとめ:今すぐ取り組むべき3つのアクション

内部通報制度の整備は、「大企業だけの話」でも「いつかやればいい話」でもありません。法的義務・取引先からの要請・リスク管理の観点から、中小企業でも今すぐ行動を始めることが求められます。

まず取り組むべき3つのアクションをまとめます。

  • 現状の棚卸し:自社の内部通報体制(規程・窓口・周知状況)を今週中に確認する
  • 外部窓口の設置:弁護士や専門機関への外部通報窓口の設置を検討・実施する
  • 全社周知の実施:制度の内容・窓口連絡先を全従業員に改めて周知する(メール・社内掲示・研修など)

内部通報制度は、社員が「この会社は信頼できる」と感じるための重要なシグナルでもあります。整備された制度は、不正の抑止・早期発見だけでなく、従業員のエンゲージメント向上や採用力強化にもつながります。制度の整備を単なる法令遵守ではなく、会社を守り、社員を守るための経営インフラとして捉えていただければと思います。

具体的な制度設計や規程の作成、外部窓口の設置については、企業法務の専門家にご相談いただくことをお勧めします。自社の規模・業種・リスクに合わせた最適な設計をサポートいたします。