Column
2026/08/12
景表法
2023年10月施行のステマ規制により、SNS広告や口コミ投稿の「PR」表示を怠ると景品表示法違反となり措置命令の対象になります。中小企業が今すぐ見直すべき具体的な表示ルールと社内対策を弁護士が分かりやすく解説します。
ステマ規制とは、2023年10月1日に施行された景品表示法の改正により新設された規制で、正式には「一般消費者が事業者の広告であることを判別することが困難である表示」を不当表示として禁止するものです。従来、景品表示法は商品やサービスの内容・価格について事実と異なる表示を規制してきましたが、今回の改正で初めて「広告であることを隠す行為」自体が規制対象になりました。
背景には、インフルエンサーやSNSユーザーに商品を無償提供し、あたかも第三者の自発的な感想であるかのように投稿させる、いわゆる「ステルスマーケティング」が社会問題化したことがあります。消費者庁の調査でも、多くの消費者が広告と気づかずに購買行動に影響を受けている実態が指摘され、諸外国と比べて日本の規制が遅れているとの指摘もこの改正の後押しとなりました。
ステマ規制の対象は、InstagramやX(旧Twitter)、YouTube、TikTokといったSNSに限られません。自社ウェブサイトの「お客様の声」、比較・まとめサイト、ブログ記事、さらにはテレビ番組や新聞記事の体裁を借りた広告(いわゆるタイアップ記事)まで、消費者が広告と気づきにくい表示形式であれば広く対象となり得ます。
この規制は大企業だけでなく、SNSで自社商品を紹介してもらう中小企業や、自社アカウントでの投稿を外部に委託している事業者にも等しく適用されます。「知らなかった」では済まされない点が、経営者として押さえておくべき最大のポイントです。
なお、ステマ規制は景品表示法の中に位置づけられているため、これまで価格表示や優良誤認表示について社内でチェックしてきた事業者であっても、「広告であることの表示」という新たな観点でのチェックが別途必要になる点に留意してください。規制の対象となるのは商品やサービスを供給する事業者であり、業種や企業規模を問わない点も改めて確認しておきましょう。
ステマ規制は大企業の大型キャンペーンだけを対象にしているわけではありません。むしろ、専任の広報・マーケティング担当者を置かない中小企業ほど、次のような違反リスクに気づかないまま日常業務を続けているケースが多く見られます。
特に注意すべきは、事業者自身がSNSに直接投稿していなくても規制対象になるという点です。第三者に依頼・指示をして投稿させた場合、その表示内容についての責任は依頼主である事業者側が負います。外部のPR会社やインフルエンサーに運用を任せきりにしている場合こそ、投稿内容を事業者側がチェックする体制がなく、リスクが見えにくくなる傾向があります。
また、無償提供ではなく「販売促進の一環として通常価格より大幅に安く商品を提供した」場合や、「投稿内容について事前に確認・修正依頼を行った」場合にも、事業者の関与があったと判断される可能性がある点にも注意が必要です。
特に飲食店や美容室、エステサロンなど、来店型のサービス業では「来店してくれたお客様にSNS投稿を条件に割引や特典を提供する」という販促手法が広く行われています。この場合も、投稿者に事業者との関係性を明示する表示を求めなければ、ステマ規制の対象となり得ます。ポイントカードのような軽微な特典であっても、「投稿を条件」としている以上は注意が必要です。
ステマ規制に違反しないためには、消費者庁の運用基準に沿った明瞭な表示が必要です。単に「PR」と一言添えれば良いわけではなく、次のような点が求められます。
消費者庁の考え方に照らすと、大量のハッシュタグの末尾に紛れ込ませた「#PR」、投稿本文とは別の「概要欄」の奥深くにのみ記載した表示、動画の冒頭だけで一瞬表示され視聴中は消えてしまう表示などは、「一般消費者が認識できない」ものとして問題視される可能性が高いといえます。
また、事業者が投稿内容を確認・修正できる状態にあったり、報酬や物品提供と引き換えに投稿を依頼したりしている場合は、投稿者が「個人の感想」と主張しても、実質的に事業者の表示とみなされる可能性があります。形式的な建前ではなく、実態に即して広告性が判断されるという点を理解しておく必要があります。
逆に、事業者から一切対価や依頼を受けずに、消費者が自主的な意思で行った投稿(いわゆる純粋な口コミ)は、ステマ規制の対象にはなりません。ポイントは「事業者の表示といえるかどうか」であり、投稿のきっかけに事業者の関与があったかどうかが判断の分かれ目になります。
ステマ規制に違反した場合、景品表示法上の不当表示として消費者庁または都道府県から措置命令を受ける可能性があります。措置命令の内容は主に次のとおりです。
ステマ規制自体には課徴金制度が設けられていませんが、措置命令が公表されることによる信用毀損・取引先離れ・採用への悪影響は、中小企業にとって直接的な売上減少以上に深刻な打撃となり得ます。特に、BtoB取引が中心の企業であっても、取引先の与信審査やコンプライアンスチェックの過程で行政処分歴が確認され、契約更新に影響することもあります。
さらに、SNS時代においては、一度の違反報道やSNS上での「炎上」がスクリーンショットの形で拡散し、消費者庁の公表が終了した後も検索結果や引用として何年にもわたって残り続けるリスクがあります。措置命令という行政上のペナルティ以上に、こうしたレピュテーションリスクへの対応コストを軽視すべきではありません。
措置命令を受けた事業者が、委託していたPR会社やインフルエンサーに対して「表示義務を怠ったのは委託先の責任だ」として損害賠償を求めるケースも想定されます。逆に、委託先から「表示ルールについて具体的な指示を受けていなかった」と反論され、責任の所在をめぐる紛争に発展することもあります。こうした事態を避けるためにも、後述する契約書の整備が重要になります。
ステマ規制への対応は、専門部署を持たない中小企業でも次のステップで無理なく進めることができます。一度に完璧な体制を目指す必要はなく、まずはリスクの高い箇所から着手することが現実的です。
特に契約書の見直しは、後から問題が発覚した際に「表示義務は投稿者側にある」ことを明確にできるかどうかを左右する重要なポイントです。既存の業務委託契約や広告代理店との契約書にステマ規制対応の条項が含まれているか、この機会に確認することをお勧めします。あわせて、社内の誰が最終的な表示内容の責任者となるかを明確にしておくことで、担当者の異動や退職があっても対応が属人化しない体制を作ることができます。
専門の法務担当者がいない中小企業ほど、細かいルールを個別に判断するのではなく、投稿依頼時に使う定型文や契約書の雛形といった「型」を一度作ってしまうことが有効です。型さえ整えておけば、担当者が変わっても一定の水準で表示義務を満たすことができ、日々の運用負担も軽減されます。
ステマ規制は、SNSやインフルエンサーを活用したマーケティングを行うすべての事業者にとって無関係ではいられないルールです。「知らなかった」「依頼先に任せていた」という理由は、措置命令のリスクを避ける理由にはなりません。自社の広告表示の実態を点検し、契約書や社内ルールを整備しておくことが、企業の信用を守る最善策です。
特に、これから自社商品のPRをインフルエンサーに依頼しようと検討している企業や、既に外部のPR会社・代理店を通じてSNS広告を展開している企業は、契約書の内容を今一度見直すことを強くお勧めします。表示義務の所在が曖昧なまま契約を継続すると、万一の行政処分の際に自社と委託先のどちらが責任を負うのかで争いになりかねません。小さな見直しの積み重ねが、将来の大きなトラブルを防ぐことにつながります。
自社のSNS運用や広告委託の内容がステマ規制に抵触しないか不安がある方は、ぜひLeONE法律事務所へお気軽にお問い合わせください。個別の投稿事例やキャンペーン企画に即した具体的なアドバイスを行っております。初回相談は無料です。
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