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カスハラ対策の義務化、企業が整備すべき社内体制とは

2026/08/28

企業法務

カスハラ対策の義務化、企業が整備すべき社内体制とは

2025年の法改正により、カスハラ対策は企業の義務になります。放置すれば行政の是正指導や損害賠償リスクにつながるため、相談窓口の設置や就業規則の見直しなど、今すぐ着手すべき社内体制整備の要点を解説します。

カスハラ対策の義務化はいつから?改正法の内容を整理

2025年6月、労働施策総合推進法の改正法が成立し、事業主に対してカスタマーハラスメント(カスハラ)防止のための雇用管理上の措置を講じることが義務付けられました。施行は公布から1年6か月以内とされており、企業規模を問わず全事業主が対象となります。

これまで大企業を中心に自主的な取り組みが先行してきましたが、今回の法改正により中小企業も含めたすべての事業主に、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントと同様の防止措置義務が課されることになります。「うちは規模が小さいから関係ない」という考え方は通用しなくなります。

具体的に義務付けられる措置の内容は、パワハラ防止法の指針を参考に厚生労働省から追ってガイドラインが示される見込みですが、方針の明確化・周知、相談体制の整備、被害者への配慮、再発防止といった枠組みは既存のハラスメント対策と共通すると考えられます。御社の対応もこの枠組みを前提に準備を進めることが現実的です。

なお、カスハラの定義について法律上の明確な線引きがあるわけではありませんが、厚生労働省の指針案では「顧客等からの著しい迷惑行為であって、当該行為により労働者の就業環境が害されるもの」とされる方向で議論が進んでいます。具体的には、長時間の拘束、土下座の強要、人格を否定する暴言、SNSでの誹謗中傷などが典型例として想定されており、単なる厳しい指摘や正当なクレームとは区別されます。この線引きを社内でどう運用するかが、対策の実効性を左右する最初のポイントになります。

対応を怠った場合に企業が負う法的リスク

カスハラ対策を怠った場合、企業は複数の法的リスクに直面します。第一に、法律上の措置義務違反として、労働局からの助言・指導・勧告の対象となり得る点です。勧告に従わない場合は企業名が公表される可能性もあり、レピュテーションへの影響は無視できません。

第二に、従業員に対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償リスクです。悪質なクレーム対応を放置した結果、従業員がうつ病などを発症し労災認定された場合、企業が民事上の損害賠償責任を問われた裁判例はすでに存在します。カスハラは「お客様対応だから仕方がない」では済まされない経営リスクであることを認識する必要があります。

  • 行政からの助言・指導・勧告、悪質な場合の企業名公表
  • 従業員からの安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求
  • SNS等での拡散による企業イメージの毀損
  • 離職率上昇による人材確保への悪影響

近年は、従業員が撮影・録音した対応の様子がSNSに投稿され、企業側の初期対応の不備がかえって批判の的になるケースも増えています。悪質なクレームそのものよりも、「会社が従業員を守らなかった」という点が炎上の火種になることも少なくありません。危機管理広報の観点からも、平時からの体制整備が重要です。

特に人手不足が深刻化する中、「クレーム対応が辛くて辞めた」という理由での離職は、採用コストの増加という形で経営を直接圧迫します。カスハラ対策は人材の防衛策でもあるという視点を持つことが重要です。

実際に、顧客対応中の従業員が精神疾患を発症し、会社側の安全配慮義務違反が認定された裁判例も存在します。裁判所は、企業がクレーム対応を従業員個人の努力に委ねきりにせず、組織として対応方針や相談体制を整えていたかどうかを重視する傾向にあります。「対応は現場任せ」という体制のままでは、万一の紛争時に企業側が不利な立場に置かれるリスクが高まる点に注意が必要です。

カスハラ対策として社内に整備すべき体制と規程

法改正への対応として、御社がまず取り組むべきは社内体制の骨格づくりです。具体的には以下の要素を、就業規則や社内規程に落とし込む形で整備することが求められます。

  • 基本方針の策定と周知:カスハラを許容しない旨の方針を明文化し、社内外に周知する
  • 相談窓口の設置:担当者を明確にし、相談しやすい体制を整える
  • 対応フローの明文化:一次対応者から管理職・法務部門へのエスカレーション基準を定める
  • 従業員保護の仕組み:対応を打ち切る判断基準、警察・弁護士への相談基準をあらかじめ定める

これらは一度作って終わりではなく、就業規則や関連規程との整合性を継続的に確認する必要があります。契約書や社内規程の整備状況に不安がある場合は、早い段階で専門家の目を通しておくことがリスク低減につながります。契約書の見直しでお困りの場合は、企業法務を専門とする法律事務所LeONEにご相談いただくことで、御社の実情に即した規程整備の方向性を整理できます。

また、体制構築にあたっては自社の規模や業態に応じた優先順位付けも重要です。従業員数の少ない企業であれば、まずは基本方針の策定と相談先の明確化という最低限のラインから着手し、段階的に対応フローや研修体制を拡充していくアプローチが現実的です。すべてを一度に完璧に整備しようとして着手が遅れるよりも、できる範囲から確実に進める方が、結果的に実効性の高い体制につながります。

現場対応マニュアルと相談窓口運用の実務ポイント

規程を整備しても、現場が実際に使いこなせなければ意味がありません。カスハラ対策を実効性のあるものにするためには、現場で使える対応マニュアルの整備が欠かせません。

対応マニュアルに盛り込むべき要素

  • 悪質なクレームと正当な指摘・要望を区別する判断基準
  • 録音・記録など、証拠を残すための具体的な手順
  • 「これ以上の対応はできません」と伝えるタイミングと言い回し
  • 危険を感じた場合の避難・通報の手順

相談窓口については、設置しただけで従業員に周知されていないケースが少なくありません。定期的な研修や社内報での案内を通じて、「困ったときはここに相談してよい」という安心感を従業員に持たせることが、離職防止の観点からも有効です。

近年は、通話録音システムやチャットボットによる一次受付など、デジタルツールを活用してカスハラ対応の負荷を軽減する企業も増えています。もっとも、ツールを導入するだけでは不十分で、記録されたデータをどのように社内で共有し、エスカレーション判断に活かすかという運用設計まで含めて検討しなければ、投資が形だけのものに終わってしまいます。

また、取引先や委託先の担当者からのハラスメントについても、自社の従業員を守る体制として同様の枠組みで対応できるよう整備しておくことが望まれます。業務委託契約の相手方対応も含めた体制構築については、無料相談のお問い合わせから個別の状況をご相談いただけます。

マニュアルの整備と並行して欠かせないのが、管理職向けの研修です。現場の担当者から「対応を打ち切ってよいか」という相談が上がってきた際に、管理職が即座に判断できなければ、結局は従業員が孤立したまま対応を続けることになりかねません。年に一度の集合研修だけでなく、実際のトラブル事例を踏まえた短時間の勉強会を定期的に行うことで、マニュアルを「使える知識」として定着させることができます。

就業規則・懲戒規定の見直しと証拠保全の考え方

カスハラ対策を実効性のあるものにするには、社外からの迷惑行為への対応だけでなく、社内規程の整備もあわせて進める必要があります。特に重要なのが、懲戒規定や服務規律との関係整理です。

例えば、悪質なクレーマーに対して契約や取引を打ち切る判断を行う際の社内基準、当該対応を行った従業員を会社として全面的にバックアップする旨の方針は、就業規則や関連規程に明記しておくことが望ましいといえます。方針が文書化されていないと、いざという場面で現場の担当者が孤立し、萎縮した対応につながりかねません。

また、悪質なクレーム事案は将来的に紛争化する可能性も踏まえ、やり取りの録音・録画、メールやチャットの保存など、証拠保全の仕組みをあらかじめ社内ルールとして定めておくことが重要です。証拠が整理されていれば、行政対応や万一の訴訟対応でも御社の主張を裏付ける材料になります。

規程改定にあたっては、既存の就業規則全体との整合性や労働基準監督署への届出要否の確認も必要になるため、社内担当者だけで進めるのではなく、専門家によるチェックを組み込むことをおすすめします。

証拠保全については、保存する情報の範囲や保存期間についても社内でルール化しておくことが望ましいといえます。個人情報を含む録音・録画データの取り扱いは、社内のセキュリティ規程や個人情報保護の観点とも関わるため、法務担当者と情報システム担当者が連携して運用ルールを設計することが、後々のトラブルを防ぐポイントになります。

さらに、悪質なクレーマーへの対応として契約解除や取引停止、あるいは弁護士名での警告書送付といった法的措置を取る場合には、事実経過を時系列で整理した記録が不可欠です。「言った・言わない」の水掛け論を避けるためにも、初動対応の段階から記録を残す習慣を組織として徹底しておくことが、いざというときの交渉力につながります。

カスハラ対応でお困りの企業様へ ― 弁護士に相談すべきケース

カスハラ対策は、法改正への形式的な対応にとどまらず、従業員を守り、企業としての信頼を維持するための経営課題です。特に以下のようなケースでは、早期に弁護士へ相談することをおすすめします。

  • すでに悪質なクレームが繰り返し発生しており、対応方針を明確化したい場合
  • 就業規則・相談窓口規程などを新設・改定する必要がある場合
  • 特定の相手方との間で法的措置(内容証明の送付や契約解除など)を検討している場合
  • 行政からの指導・勧告を受け、対応方針について助言を得たい場合

自社だけで体制を構築しようとすると、規程間の整合性が取れなかったり、いざというときに現場が判断に迷う運用になってしまうことが少なくありません。企業法務の実務経験を踏まえた第三者の視点を入れることで、実効性のある体制を効率的に整備できます。法改正の施行時期が近づく前に、御社の現状を一度整理しておくことをおすすめします。