Column
2026/09/07
企業法務
職務発明制度とは、従業員が業務中に生み出した発明について特許を受ける権利の帰属や相当の利益の支払いを定める仕組みです。整備を怠ると退職者との権利トラブルや特許戦略の停滞を招くため、実務対応のポイントを解説します。
職務発明とは、従業員がその職務に関連して行った発明のうち、性質上会社の業務範囲に属するものを指します。研究開発部門を持つ企業はもちろん、製造業や情報通信業、さらには社内で業務改善のためのツールや工程を独自に開発している企業であっても、無縁の制度ではありません。
多くの中小企業では、発明が生まれた際に「誰の権利になるのか」「会社はどのような対価を払うべきか」といったルールが明文化されておらず、トラブルが表面化して初めて対応を検討するケースが少なくありません。特許戦略を進めるうえでは、まず自社に職務発明規程が存在するかどうかを確認することが出発点になります。
特許法の改正により、あらかじめ契約や勤務規則、職務発明規程で定めておくことで、発明が完成した時点から特許を受ける権利を会社に原始的に帰属させることが可能になりました。これにより、発明の都度、従業員から権利を譲り受ける手続きを踏む必要がなくなり、権利関係を早期に安定させやすくなっています。
ただし、この仕組みを利用するには、就業規則や職務発明規程において権利の帰属先を明確に定めておくことが前提条件です。規程が存在しない場合、原則として特許を受ける権利は発明者である従業員に帰属するため、会社が想定していた形で特許を保有できないリスクが生じます。
会社が職務発明について特許を受ける権利や特許権を取得した場合、発明を行った従業員には「相当の利益」を与える義務があります。かつては「相当の対価」と呼ばれていましたが、法改正により金銭に限らず、留学の機会の付与や昇進、ストックオプションなど、金銭以外の経済的利益も対象に含まれる形に整理されました。
相当の利益の算定にあたっては、次のような要素が考慮されます。
過去には、算定基準や協議の手続きが不十分であったために、退職した技術者が会社を相手取り相当の利益の支払いを求めて提訴する事例も見られます。金額の多寡だけでなく、基準を定める際に従業員側の意見を聴取する手続きを踏んでいたかどうかが、後の紛争で重視される点に注意が必要です。
職務発明制度を適切に運用するためには、就業規則とは別に職務発明規程を整備し、少なくとも次の項目を明文化しておくことが望まれます。
契約書や規程の文言は専門的な判断を要する部分が多く、自社の事業内容や研究開発体制に合わせた調整が欠かせません。契約書の作成・見直しでお困りの場合は、企業法務を専門とする弁護士へのご相談をおすすめします。法律事務所LeONEでは、発注者側・使用者側の実務に即した規程整備をご提案しています。
職務発明制度の整備は、単なる労務リスクの回避にとどまらず、会社全体の特許戦略を支える基盤としての意味を持ちます。権利帰属が明確であれば、開発した技術を安心して特許出願・活用でき、他社との共同開発やライセンス契約の場面でも権利関係の説明がスムーズになります。
また、資金調達や事業承継、M&Aの際には、保有する知的財産権の権利関係が精査の対象となります。職務発明規程が整備されていないことが後から発覚すると、権利の帰属に疑義が生じ、企業価値の評価や交渉に影響を及ぼしかねません。特許戦略を検討する段階の企業ほど、早い段階で規程を整えておくことが結果的にコストを抑えることにつながります。
職務発明制度への対応は、次の手順で進めるのが実務的です。
特に相当の利益の算定基準や意見聴取の手続きは、条文の作り方次第で将来の紛争リスクが大きく変わる部分です。自社の規程が現状の法制度や実務に適合しているか不安がある場合は、早めに専門家に確認することをおすすめします。担当弁護士による個別の実務相談をご希望の場合は、担当弁護士のご紹介のページもあわせてご覧ください。ご相談をご検討の際は、無料相談のお問い合わせから お気軽にご連絡ください。