Column
2026/09/20
法改正
就活セクハラ防止措置の義務化により、企業は面接やインターンで求職者を守る体制を整える必要があります。この記事では、義務の中身、企業が負う法的リスク、施行前に整えるべき実務対応の要点が具体的にわかります。
「就活セクハラ」とは、就職活動中の学生や転職希望者などの求職者に対して、採用担当者・面接官・リクルーター(OB・OG訪問の担当者を含みます)などが行う性的な言動のことです。採用の可否を握る立場にある側と、評価される側という圧倒的な力の差があるため、被害を受けた求職者が声を上げにくく、問題が表に出にくいという特徴があります。
厚生労働省が実施した実態調査(令和5年度)では、就職活動中にセクシュアルハラスメントを経験した人が約3割に上ったと報告されています。これまでは、自社の従業員が他社の求職者に対して行った言動について、事業主が対応することは指針上の「望ましい取組」にとどまっていました。法律上の明確な措置義務がなかったため、企業ごとの取組に大きな差が生じていたのが実情です。
2025年6月に成立した改正法では、男女雇用機会均等法が見直され、事業主に対して、求職者等に対する性的言動によって求職者の就業環境が害されることのないよう、雇用管理上必要な措置を講じることが求められることになりました。あわせて、求職者が相談したことなどを理由とする不利益な取扱いも禁止されます。この就活セクハラ対策を含むハラスメント関連の改正部分は、公布から1年6か月以内の政令で定める日、つまり遅くとも2026年内に施行される予定です。
均等法には、措置義務違反そのものに対する刑事罰は定められていません。ただし、厚生労働大臣による助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わない場合には企業名が公表される可能性があります。採用は企業のブランドに直結する活動です。就活生の間やSNSで「あの会社は面接で不適切な言動があった」と広まれば、応募数の減少や内定辞退の増加といった実害につながりかねません。法的な制裁よりも、採用市場での評価低下のほうが経営への打撃は大きいと考えておくべきでしょう。
なお、措置の具体的な内容や対象となる場面の範囲は、今後示される厚生労働省の指針によって具体化されます。施行日や指針の最終的な内容は、必ず最新の公表情報でご確認ください。この記事では、現行の職場セクハラ対策の枠組みを踏まえて、御社で今から準備しておける事項を整理します。
就活セクハラは、面接室の中だけで起きるわけではありません。むしろ、面接以外の「接点」で問題が起きるケースが多いことに注意が必要です。
特に、リクルーター面談や懇親会は、人事部門の目が届きにくく、現場社員に任せきりになりやすい場面です。採用担当者が把握していないところで起きた問題であっても、社員が採用活動の一環として行った言動であれば、企業としての責任が問われる可能性があります。
加害者となった社員本人は、民法709条の不法行為責任を負います。そして、その言動が「事業の執行について」行われたと評価される場合、企業も民法715条の使用者責任として、求職者に対する損害賠償責任を問われ得ます。面接官やリクルーターとして採用活動に関与していた社員の言動は、業務との関連性が認められやすい類型です。
さらに、法改正後は、措置義務を果たしていなかったという事実が、企業の落ち度を裏付ける材料として使われるおそれがあります。「制度を整えていなかった」ことは、被害が発生した際に、企業側にとって不利な事情になると考えておく必要があります。
具体的な措置の内容は今後の指針で示されますが、すでに義務化されている職場のセクシュアルハラスメント対策の枠組みを参考にすると、次の4つが中心になると考えられます。既存のハラスメント対策を「求職者にも広げる」という発想で整理すると、準備が進めやすくなります。
就活セクハラを許さないという会社の方針を明文化し、面接官・リクルーター・インターン担当者を含む社員に周知します。既存のハラスメント防止規程や就業規則に、「採用活動における求職者に対する言動」も対象になることを明記しておくことが基本です。違反した場合には懲戒処分の対象になり得ることも併せて示しておくと、抑止力が高まります。
求職者が相談できる窓口を設け、求職者に見える形で案内する必要があります。社内向けの相談窓口があっても、求職者にはその存在が伝わりません。採用サイトや募集要項、応募受付の自動返信メールなどに、相談窓口の連絡先を記載することが現実的な対応です。窓口の担当者には、被害の申告を受けた際の聴き取り方や、二次被害を防ぐための配慮について研修を行っておきましょう。
相談を受けたら、事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害を受けた求職者への配慮措置、行為者に対する措置、再発防止策を講じる流れが基本になります。事実確認では、当事者双方への聴き取りに加えて、メールやSNSのやり取りなど客観的な記録の確保が重要です。
相談者や事実確認に協力した人のプライバシーを守ることと、相談したことを理由に選考で不利に扱わないことを、あらかじめ社内に徹底しておく必要があります。「相談されたら選考から外す」といった対応は、それ自体が新たな法的問題を生みます。選考結果への影響を疑われないよう、相談対応の担当と選考の判断者を切り分けておくことも有効です。
採用活動を採用代行会社(RPO)や人材紹介会社、外部のスカウト担当者に委託している企業は少なくありません。この場合、面接や候補者対応を担うのは、自社の社員ではなく外部の担当者です。ここで注意したいのは、措置義務を負うのが「事業主」である御社であり、外部委託をしたからといって責任が消えるわけではないという点です。
求職者から見れば、面接官が自社の社員か委託先の担当者かは関係がありません。「その会社の採用面接で被害を受けた」という認識になります。委託先の担当者に対して、御社が実質的に指揮監督している関係があれば、使用者責任を問われる余地もあります。少なくとも、社会的な評価や採用ブランドへの影響は、委託元である御社が負うことになります。
発注側の企業としては、次のような条項を契約書に入れておくことで、リスクをコントロールしやすくなります。
既存の契約書にこうした条項がない場合は、更新のタイミングで見直しを進めるのが現実的です。発注者側の立場で契約書の抜けを確認したい場合は、企業法務を専門とする法律事務所LeONEのような専門家に、現行の契約書を見てもらう方法もあります。
施行日が近づいてから慌てないために、御社で今から着手できる実務対応を5つのステップに整理しました。すべてを一度に完璧に行う必要はありません。順番に進めることが大切です。
面接官、リクルーター、OB・OG訪問の受け手、インターンシップの担当者、説明会や懇親会の運営者、採用に関わる外部委託先の担当者を、一覧にして把握します。誰がどの場面で求職者と接しているかを可視化するだけでも、管理の死角が見えてきます。
ハラスメント防止規程や就業規則に、求職者に対する言動を対象に含める旨を追加します。就業規則を変更する場合は、従業員の過半数代表者の意見聴取や労働基準監督署への届出(常時10人以上の従業員を使用する事業場)といった手続きも必要になります。
採用ページや応募受付メールに、相談窓口の連絡先を記載します。社内の人事担当者だけでなく、社外の窓口を併用すると、求職者が相談しやすくなります。
実務では、次のような具体的なルールを決めておくと運用しやすくなります。
前章で述べた契約条項の追加に加えて、相談を受けた際の対応の流れ(受付、事実確認、行為者への措置、求職者への説明、再発防止)を文書化しておきます。フローがあれば、担当者が誰であっても同じ水準で対応できます。
こうした社内体制の整備でお困りの場合は、担当弁護士のご紹介のページもご覧のうえ、御社の規模や採用手法に合わせた進め方をご相談ください。
どれだけ対策を講じても、問題が完全になくなるとは限りません。大切なのは、問題が起きたときに、初動で対応を誤らないことです。
対応が遅れたり、「事を荒立てたくない」として当事者間の話し合いに任せたりすると、被害が拡大するだけでなく、企業が「問題を放置した」と評価されるおそれがあります。特に、求職者は選考の結果を気にして、申告そのものをためらう傾向があります。相談があった時点で、すでに相当な勇気を要した申告であることを理解して対応することが重要です。
次のような場面では、早い段階から弁護士に相談することで、対応の方向性を誤りにくくなります。
法律事務所LeONEでは、企業側の立場で、ハラスメント関連の規程整備から、問題発生時の初動対応までをサポートしています。採用体制の見直しについてお悩みの方は、まずは無料相談のお問い合わせからお気軽にご連絡ください。
就活セクハラ対策は、法律への対応であると同時に、採用市場で選ばれる企業であり続けるための投資でもあります。施行までの期間を活用して、御社の採用活動にどのような死角があるかを、一度点検してみてはいかがでしょうか。