Column

コラム
TOP
フリーランス契約の解除ルール|30日前予告と発注企業の実務

フリーランス契約の解除ルール|30日前予告と発注企業の実務

フリーランス法では、6か月以上続く業務委託を中途解除・不更新とする発注企業に、30日前までの予告と理由開示が義務付けられています。本記事では、対象となる契約の見極め方、予告が不要となる例外、契約書と社内フローの整備手順までがわかります。

フリーランス法の解除ルールとは|「いつでも切れる」は通用しない

「業務委託は雇用ではないから、合わなければすぐに契約を終了できる」。外部人材の活用を進める企業の現場では、今もこうした認識が根強く残っています。しかし、2024年11月に施行されたフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、この前提を大きく変えました。

同法16条は、従業員を使用する発注企業(特定業務委託事業者)が、フリーランス(特定受託事業者)との6か月以上の継続的な業務委託を解除する場合、または更新しない場合には、少なくとも30日前までに予告しなければならないと定めています。さらに、予告を受けたフリーランスから理由の開示を求められたときは、遅滞なく開示する義務も課されています。

なぜ業務委託に「予告」が求められるのか

一つの発注企業と長く取引を続けているフリーランスは、その企業への依存度が高くなりがちです。突然契約を打ち切られると、次の取引先を探す時間もなく収入が途絶えてしまいます。そこで法律は、労働者の解雇予告に似た仕組みを取り入れ、次の仕事へ移るための時間を確保させることにしました。

ここで注意したいのは、この規律が契約書に何と書いてあるかにかかわらず適用されるという点です。「甲は7日前の通知により本契約を解約できる」といった条項があっても、法律上の30日前予告義務は免除されません。御社のひな形に短い予告期間の解約条項が残っている場合、条項どおりに運用するだけで法令違反になるおそれがあります。

対象となる「フリーランス」の範囲

保護の対象は、従業員を使用していない個人事業主と、代表者1人だけで他に役員も従業員もいない法人(いわゆる一人会社)です。デザイナーやエンジニア、ライターに限らず、営業代行、コンサルタント、講師、配送ドライバー、一人親方の職人など、業種を問わず幅広く該当します。相手方が法人名義であっても対象になり得るため、「法人との契約だから関係ない」という判断は危険です。

30日前予告義務の対象となる契約と「6か月」の数え方

予告義務がかかるのは、すべての業務委託ではなく「6か月以上の期間行う業務委託」です。実務上、最も判断を誤りやすいのがこの期間の数え方です。

更新を重ねて通算6か月以上になる場合も対象

契約期間が当初から6か月以上のものはもちろん、短期契約を更新した結果、通算して6か月以上になるものも対象に含まれます。たとえば3か月契約を1回更新すれば、その時点で通算6か月となり、以後の解除・不更新には予告が必要になります。

前後の契約が「更新」として通算されるのは、おおむね次の二つを満たす場合です。

  • 契約の当事者が同一であり、委託する業務の内容に一定程度の同一性があること
  • 前の契約の終了から次の契約の開始までの空白期間が1か月未満であること

つまり、契約書を毎回作り直していても、同じ相手に同種の業務を切れ目なく依頼していれば通算されます。「1か月契約の自動更新だから短期契約だ」という整理は通用しません。

基本契約と個別契約がある場合

基本契約を結んだうえで、案件ごとに個別契約(発注書)を出す形態も多く見られます。この場合、基本契約の期間が6か月以上であれば、基本契約そのものが予告義務の対象となります。個別の発注が月に1回程度であっても、基本契約を打ち切るときには30日前の予告が必要です。

対象となる「解除」「不更新」とは

予告が必要になるのは、発注企業の側から一方的に契約を終了させる場合です。契約書で定めた解除事由に基づく解除であっても、原則として予告義務の対象になります。また、期間満了で終了させる場合でも、従来は更新を続けてきた契約を更新しないと決めたときは「不更新」として予告が必要です。

一方、フリーランス側からの申出による終了や、双方の合意による終了は対象外です。ただし、合意解約の形式をとっていても、発注企業が事実上押し切ったような場合には、フリーランスの自由な意思に基づく合意とは認められない可能性があります。合意書を取り交わす際は、協議の経過を記録に残しておくことが重要です。

予告の方法と理由開示義務|実務で押さえる手順

予告は口頭では足りない

予告は、次のいずれかの方法で行う必要があります。

  • 書面の交付
  • ファクシミリによる送信
  • 電子メール、SNSのメッセージ機能、チャットツールなどによる送信

打合せの席や電話で「来月末で終了にしたい」と伝えただけでは、法律上の予告をしたことになりません。必ず記録に残る形で、契約を終了する日を明示して通知してください。チャットで伝える場合も、後から確認できるようスクリーンショットやログを保存しておくべきです。

「30日前」の数え方

予告の日から契約終了日までの間に、少なくとも30日を確保する必要があります。月末終了を予定しているのであれば、前月末までに通知を出しておくのが安全です。社内決裁に時間がかかって通知が遅れると、その分だけ終了日を後ろにずらさざるを得なくなり、不要な報酬が発生します。終了の方針を決めた段階で、逆算してスケジュールを組むことが実務上のポイントです。

理由開示を求められたときの対応

予告の日から契約が満了する日までの間に、フリーランスから解除・不更新の理由の開示を求められた場合は、遅滞なく、予告と同じく書面や電子メール等の方法で開示しなければなりません。第三者の利益を害するおそれがある場合や、他の法令に違反することとなる場合には開示が不要とされていますが、例外は限定的です。

開示する理由は、後に紛争となった場合に発注企業側の主張の土台になります。「総合的に判断した」といった抽象的な記載では説明として不十分ですし、逆に事実と異なる理由や、感情的な表現を記載すると、後で不利な証拠として使われかねません。成果物の品質、納期の遅れ、事業計画の変更など、客観的に裏付けられる事実に基づいて簡潔に記載することが大切です。理由の書き方に迷う案件は、通知を出す前に弁護士の確認を受けることをおすすめします。当事務所の考え方は法律事務所LeONEについてでご紹介しています。

予告なしで解除できる例外事由とその限界

30日前予告には例外があり、次のような場合には予告なしでの解除が認められています。

  • 災害その他やむを得ない事由により、予告することが困難な場合
  • 元の発注者(元委託者)から契約を解除されるなどして、再委託していた業務の大部分が不要となり、直ちに解除せざるを得ない場合
  • 基本契約に基づく個別契約など、業務委託の期間が30日以下の契約を解除する場合
  • フリーランスの責めに帰すべき事由により、直ちに解除することが必要な場合
  • 基本契約がある場合で、フリーランス側の事情により相当な期間、個別契約が締結されていない場合

「責めに帰すべき事由」は狭く解釈される

実務で最も問題になるのが、「フリーランス側に落ち度があるから即時解除できる」という判断です。行政の解釈では、この例外は労働者の解雇予告が不要となる場合と同程度に重大・悪質なケースに限られるとされています。具体的には、業務に関連した窃盗・横領などの犯罪行為、重大な経歴の詐称、正当な理由のない長期間の業務不履行、発注企業の信用を著しく損なう行為などが想定されています。

裏を返せば、「成果物の品質が期待に届かない」「返信が遅い」「担当者と相性が合わない」といった理由では、即時解除は認められにくいということです。こうした場合は、改善を求めた経過を記録しつつ、30日前の予告を行ったうえで契約を終了させるのが、最もリスクの低い進め方です。

契約書の即時解除条項との関係

多くの業務委託契約書には、「契約違反があったときは催告なく直ちに解除できる」といった条項が置かれています。しかし、条項に該当するからといって、法律上の予告義務が当然に外れるわけではありません。契約上の解除事由に当たるかとフリーランス法上の例外事由に当たるかは別の問題であり、両方を確認する必要があります。現場の担当者が条項だけを見て即日終了を通告してしまう事態を防ぐため、社内ルールとして法務・管理部門への事前相談を義務付けておくとよいでしょう。

違反した場合のリスク|行政対応と民事上の紛争

労働局への申出から勧告・公表まで

解除予告や理由開示の義務は、厚生労働省(都道府県労働局)が所管しています。フリーランスは、違反があると考えた場合に労働局へ申出をすることができ、行政は必要に応じて報告の徴収や立入検査を行います。違反が認められれば、助言・指導、勧告が行われ、勧告に従わない場合には命令と企業名の公表、さらに命令違反には50万円以下の罰金が定められています。

フリーランス法全体では、取引条件の明示や報酬の支払期日をめぐって、すでに勧告と企業名の公表に至った事例が出ています。金額の大きさよりも、「フリーランスを不当に扱う会社」という評判が広がることのほうが、採用や取引に与える打撃は深刻です。なお、行政に申出をしたことを理由に、契約を打ち切ったり発注量を減らしたりする不利益な取扱いも禁止されています。

民事上の損害賠償リスク

行政対応とは別に、民事上の紛争にも注意が必要です。業務委託契約には、その内容に応じて民法の委任や請負の規定が適用されます。委任では、相手方に不利な時期に解除した場合などに損害賠償義務が生じ、請負では、注文者は仕事の完成前に解除できる代わりに損害を賠償しなければならないとされています。予告なく契約を打ち切れば、残りの期間に得られたはずの報酬相当額などを請求される可能性があります。

労働者性が争われるリスク

もう一つ見落とせないのが、契約終了をきっかけに「実態は雇用だった」と主張されるケースです。勤務時間や場所を指定し、業務の進め方を細かく指示していたような場合、契約の打ち切りは「解雇」と評価され、解雇の有効性や未払い残業代が争われることになります。契約終了の場面は、それまでの取引実態がまとめて問われる局面だと認識しておくべきです。

発注企業が今すぐ整えるべき契約書と社内フロー

ここまでの内容を踏まえ、御社で点検しておきたい事項を整理します。

契約書の見直し

  • 中途解約条項の予告期間を、30日以上に統一しているか
  • 自動更新条項について、更新しない場合の通知期限を満了の30日以上前に設定しているか
  • 即時解除条項が、重大な違反に限定された内容になっているか
  • 通知の方法として、書面・電子メール等の記録に残る手段を定めているか
  • 契約期間中の評価や改善要請の手続を定めているか

契約管理の仕組み

  • フリーランスとの契約を一覧化し、相手方が法の対象(従業員のいない個人・一人会社)に当たるかを把握しているか
  • 契約の開始日と更新履歴を記録し、通算6か月に達する契約を把握できているか
  • 契約満了日の45日前など、余裕をもった時期に更新要否を判断するアラートを設けているか

現場担当者への周知

解除予告のトラブルは、法務部門ではなく、事業部門の担当者がチャットや口頭で終了を伝えてしまうことから生じるのが大半です。「フリーランスとの契約を終了・不更新とするときは、必ず事前に管理部門へ連絡する」というルールを一つ定めるだけでも、違反の多くは防げます。あわせて、予告通知書と理由開示書のひな形を用意しておけば、担当者が迷わず対応できます。

なお、6か月以上の業務委託については、解除予告のほかに、育児・介護等と業務の両立への配慮義務も課されています。また、ハラスメント相談体制の整備は期間を問わず必要です。解除の場面だけを切り出して対応するのではなく、フリーランスとの取引全体を一つの管理フローに載せることが、結果として最も効率的です。体制づくりに関与する弁護士については担当弁護士のご紹介をご覧ください。

フリーランスとの契約終了は、適切な手順を踏めば決して難しいものではありません。問題になるのは、ルールを知らないまま従来の感覚で打ち切ってしまう場合です。自社の契約書ひな形や運用に不安がある場合や、現に終了を検討している案件がある場合は、通知を出す前の段階で無料相談のお問い合わせからご相談ください。