Column

コラム
TOP
取引先の倒産に備える契約条項|期限の利益喪失と相殺

2026/10/07

契約法務

取引先の倒産に備える契約条項|期限の利益喪失と相殺

取引先の倒産に備える契約条項として、期限の利益喪失条項・解除条項・相殺条項・所有権留保条項の4つを整えておけば、売掛金の回収可能性は大きく変わります。本記事では各条項の役割と書き方、倒産手続開始後に効力が否定される場面、御社の契約書を見直す具体的な手順までを整理します。

取引先の倒産リスクに契約条項で備えるべき理由

物価高や人手不足、金利上昇の影響を受け、企業倒産は増加傾向が続いています。倒産というと遠い話に聞こえるかもしれませんが、売掛先が1社倒れるだけで、数か月分の売上が回収不能になり、自社の資金繰りが一気に悪化する、いわゆる連鎖倒産のリスクは中小企業にとって決して他人事ではありません。

取引先が破産や民事再生に至った場合、債権者は原則として法律が定める手続の中でしか回収できず、一般の売掛金は配当率がごくわずかにとどまることも珍しくありません。そこで重要になるのが、倒産手続が始まる前の段階で、どれだけ有利な立場を確保しておけるかという視点です。

その「有利な立場」を法的に裏付けるのが、取引基本契約書などに定める信用不安対策の条項です。民法の原則だけに頼ると、支払期日が来るまで請求できない、取引をすぐには止められない、といった制約があります。契約条項によってこれらの制約を事前に調整しておくことで、異変を察知した時点で素早く動けるようになります。

契約書がない・ひな形のままの取引は特に危険

長年の付き合いがある取引先ほど、発注書と請求書のやり取りだけで取引を続けていたり、相手方から提示されたひな形にそのまま押印していたりするケースが少なくありません。相手方のひな形には、相手方にとって有利な条項しか入っていないのが通常です。御社が売り手(債権者)の立場に立つ取引では、自社側の保全条項が入っているかを必ず確認する必要があります。

期限の利益喪失条項|売掛金を一括請求するための基本

期限の利益とは、支払期日が来るまでは支払わなくてよいという債務者側の利益のことです。たとえば「月末締め翌々月末払い」の取引では、取引先の経営状態が悪化していても、期日前に支払いを求めることは原則としてできません。

期限の利益喪失条項は、一定の事由が生じたときに、この期限の利益を失わせ、未払いの債務全額を直ちに請求できる状態にするための条項です。民法137条にも期限の利益喪失事由は定められていますが、破産手続開始決定や担保の滅失など、ごく限られた場面しか対象としていないため、契約で範囲を広げておくことが不可欠です。

定めておくべき喪失事由の例

  • 支払いを1回でも怠ったとき
  • 手形・小切手の不渡りを出したとき、または電子記録債権の支払不能処分を受けたとき
  • 差押え、仮差押え、仮処分、強制執行、競売の申立てを受けたとき
  • 破産、民事再生、会社更生、特別清算の申立てを受け、または自ら申し立てたとき
  • 租税公課の滞納処分を受けたとき
  • 解散、事業の全部または重要な一部の譲渡を決議したとき
  • その他、財産状態が悪化し、またはそのおそれがあると認められる相当の事由があるとき

当然喪失と請求喪失を使い分ける

喪失事由には、事由が生じた時点で自動的に期限の利益を失う「当然喪失」と、債権者の通知によって失わせる「請求喪失」の2種類があります。破産申立てのように客観的に明確な事由は当然喪失とし、「財産状態が悪化したとき」のように評価を伴う事由は請求喪失とするのが一般的です。請求喪失の事由が生じたときは、書面で通知した記録を残しておくことが後の紛争防止につながります。

相手方から削除や修正を求められた場合の考え方

期限の利益喪失事由を広く定めると、取引先から「財産状態の悪化という表現はあいまいすぎる」「1回の支払遅延で一括請求は厳しい」と修正を求められることがあります。このとき、条項自体を削除するのではなく、支払遅延については「催告後○日以内に支払わないとき」と猶予を設ける、評価を伴う事由は請求喪失にとどめる、といった形で歩み寄るのが現実的です。

また、この条項は双方に適用される相互規定としておくと、相手方の心理的な抵抗が小さくなり、交渉がまとまりやすくなります。御社が買い手になる取引で同じ条項が適用されても、通常の支払いを続けている限り不利益は生じません。条項を守ることよりも、回収の根拠を残すことを優先して交渉に臨むのがポイントです。

解除条項と相殺条項|信用不安時に取引を止め債権を守る

期限の利益喪失条項で請求できる状態を作っても、取引を継続して納品を続けていれば、回収できない債権は増える一方です。そこで、取引を止めるための解除条項と、手元の債務で回収するための相殺条項をセットで整備します。

無催告解除と出荷停止の権利

民法上、契約の解除には原則として相当期間を定めた催告が必要です。信用不安の局面で催告期間を待っていては手遅れになりかねないため、期限の利益喪失事由と同様の事由が生じた場合には、催告なしで契約や個別契約の全部または一部を解除できると定めておきます。

あわせて、解除までは踏み切らないものの、未出荷分の納品を一時停止できる「出荷停止権(履行停止権)」の条項も有効です。継続的な取引関係では、一方的な出荷停止が取引打ち切りとして責任を問われるリスクもあるため、契約上の根拠を明確にしておく意味は大きいといえます。

相殺条項で回収の確実性を高める

取引先に対して御社が支払うべき債務(買掛金や預り金など)がある場合、相殺によって売掛金と差し引きすることで、事実上の優先回収が可能になります。相殺条項では、期限の利益喪失事由が生じた場合に、債務の期限の到来の有無を問わず、いつでも対当額で相殺できる旨を定めます。グループ会社の債権債務もまとめて相殺したい場合は、いわゆる三者間相殺の合意を明記する必要がありますが、倒産手続との関係で効力が争われることもあるため、設計には注意が必要です。

条項の具体的な書きぶりや、既存取引への追加方法に迷われる場合は、取引実務に詳しい弁護士へのご相談をおすすめします。法律事務所LeONEについてのページでは、企業法務の取り組み方針をご紹介しています。

所有権留保条項|納品済み商品を取り戻すための備え

商品を販売する取引では、代金を受け取る前に納品するのが通常です。民法の原則では、売買契約の成立とともに所有権は買主に移転すると解されるため、代金未払いのまま取引先が倒産すると、納品した商品は取引先の財産として処理されてしまいます。

これを防ぐのが所有権留保条項です。代金が完済されるまで商品の所有権は売主に留保されると定めておけば、取引先の倒産時に、未払い分の商品について引渡しを求めたり、別除権として権利を主張したりする余地が生まれます。

所有権留保を実効性のあるものにするポイント

  • どの代金の支払いをもって所有権が移転するのかを明確にする(個別代金か、全債務か)
  • 取引先が商品を転売・加工した場合の扱いを定める
  • 在庫の保管場所への立入りや商品の特定に協力する義務を定める
  • 納品書や出荷記録で、どの商品がいつ納品されたかを特定できるようにしておく

特に重要なのが、最後の「特定」です。倉庫に同種の商品が混在していると、どれが自社の留保商品なのかを立証できず、権利行使が困難になります。契約条項の整備と、日常の出荷・在庫記録の管理はセットで考える必要があります。

倒産手続開始後の限界|無効とされる倒産解除特約

ここまでの条項を整えても、すべてが倒産手続の中で効力を認められるわけではありません。代表的なのが、「相手方が破産や民事再生を申し立てたときは契約を解除できる」とする、いわゆる倒産解除特約です。

最高裁は、会社更生手続について所有権留保売買の倒産解除特約の効力を否定し(最判昭和57年3月30日)、民事再生手続についてもファイナンス・リース契約の倒産解除特約を無効と判断しています(最判平成20年12月16日)。再建型の手続では、事業の継続に必要な財産を確保するという手続の目的が優先されるため、申立てだけを理由とする解除は認められにくいと理解しておくべきです。

相殺にも制限がある

相殺についても、破産法や民事再生法は、手続開始後に負担した債務や、支払停止を知った後に取得した債権による相殺を原則として禁止しています。つまり、相殺で守られるのは、危機が表面化する前から存在していた債権債務が中心です。

こうした限界を踏まえると、最も重要なのは倒産手続の申立て前、つまり支払遅延や不渡りといった兆候の段階で条項を使って動くことです。条項は「最後の切り札」ではなく、「早期に動くための根拠」として位置づける発想が欠かせません。

自社の契約書を見直すチェックリストと与信管理の実務

最後に、御社の契約書と社内体制を点検するためのチェックリストをまとめます。

取引先の倒産に備える契約条項のチェックリスト

  • 主要な売掛先と取引基本契約書を締結しているか
  • 期限の利益喪失事由に、支払遅延・差押え・倒産申立て・財産状態の悪化が含まれているか
  • 当然喪失と請求喪失が区別されているか
  • 無催告解除と出荷停止の権利が定められているか
  • 期限の到来を問わない相殺条項があるか
  • 商品販売の取引に所有権留保条項があり、商品を特定できる記録を残しているか
  • 相手方ひな形を使う場合、自社側の保全条項が削られていないか

条項を生かすための与信管理

契約条項は、異変に気付いて初めて効果を発揮します。支払遅延の発生、支払サイトの延長依頼、担当者や取引銀行の急な変更、主要取引先の喪失といった兆候を営業部門と経理部門で共有する仕組みを作り、取引額に応じた与信限度額を定期的に見直すことが大切です。必要に応じて、保証金の預託や連帯保証、取引信用保険の活用も検討するとよいでしょう。

兆候を察知したときの初動

実際に支払遅延などの兆候が見えた場合は、まず未出荷分の出荷を止め、未回収の売掛金と、取引先に対して負っている債務の一覧を整理します。そのうえで、期限の利益喪失の通知、相殺の意思表示、所有権留保商品の引揚げ交渉といった手段を、どの順番で行うかを検討します。

この初動で注意したいのが、取引先の倉庫から無断で商品を持ち出すといった自力救済は、たとえ所有権を留保していても違法と評価されるおそれがあるという点です。引揚げは必ず相手方の同意を得て行い、同意書や引渡しの記録を書面で残すようにしてください。通知文書も、内容証明郵便など送付日と内容を証明できる方法で送るのが基本です。

取引先の信用不安が実際に生じた場面では、どの条項をどの順番で使うかの判断が回収額を左右します。対応経験のある弁護士については担当弁護士のご紹介をご覧ください。契約書の見直しや具体的な事案のご相談は、無料相談のお問い合わせから承っています。

取引先の倒産は、起きてから慌てても打てる手が限られます。平時のうちに契約書と社内体制を整え、いざというときに迷わず動ける準備をしておくことが、自社の資金と事業を守る最も確実な方法です。