2026/05/18
景表法
2023年10月1日、景品表示法(景表法)にステルスマーケティング(ステマ)を禁止する規制が追加されました。これは消費者庁が「不当表示」の一類型として告示したもので、企業が第三者に依頼・報酬を支払って行わせた宣伝でありながら、その事実を消費者に明示しない行為を禁止するものです。
ステルスマーケティングとは、企業から報酬(金銭・商品・サービスなど)を受け取ったにもかかわらず、あたかも一般消費者の自発的な感想や口コミであるかのように見せかけて商品・サービスを宣伝する手法のことです。SNSの普及によりインフルエンサーマーケティングが急速に拡大した反面、消費者が広告と気づかずに影響を受けるケースが増え、問題視されるようになりました。
この規制は、インフルエンサーだけでなく、依頼した企業側(広告主)も規制対象となる点が重要です。「インフルエンサーが自分で書いたことだから関係ない」という考えは通用しません。中小企業であっても、マーケティング施策でSNSや口コミを活用している場合は、この規制の対象となります。
ステマ規制が禁じているのは、「事業者が自己の供給する商品・サービスの取引について行う表示」でありながら、消費者にそれと分からないようにした表示です。具体的には以下のようなケースが対象となります。
企業が商品やサービスを無償提供し、レビュー投稿を依頼するケースが典型例です。金銭の授受がなくても、商品を無償でプレゼントした見返りとして投稿を求めた場合は報酬提供にあたります。この場合、投稿に「#PR」「#広告」などの表示がなければステマ規制違反となります。
成果報酬型の広告(アフィリエイト)についても、事業者が管理・関与できる範囲においては規制対象となります。アフィリエイターが広告であることを明示せず「おすすめ商品」として紹介している場合、広告主側でも対策が必要です。
Googleマップや食べログなどのレビューサイトに、社員や業者に依頼して高評価を書き込ませる行為も対象です。また、競合他社に対して不当に低評価を書き込ませる「ネガティブキャンペーン」も不正競争防止法等で問題となります。
社員が業務として自社商品を宣伝する投稿を行う場合も、事業者の表示とみなされます。個人アカウントで「愛用しています」と書いても、業務上の指示による場合は「#社員」「#社員によるレビュー」等の表示が求められます。
ステマ規制に違反した場合、消費者庁から措置命令が発令されます。措置命令が出ると企業名・違反内容が公表されるため、レピュテーション(評判)への打撃は計り知れません。さらに、繰り返し違反した場合や措置命令に従わない場合には、課徴金の対象となることもあります。
課徴金の額は、違反行為があった期間中の対象商品・サービスの売上額の3%と定められており、数十万円から数千万円規模になるケースもあります。中小企業にとって、このような制裁は経営を直撃するリスクとなります。
また、法的制裁だけでなく、SNS上での「ステマ疑惑」が拡散されることによる炎上リスクも深刻です。消費者の信頼を一度失えば、その回復には長期間と多大なコストがかかります。
ステマ規制に対応しながら、効果的なマーケティングを実施するための実務ポイントを解説します。
インフルエンサーや第三者に依頼した投稿には、必ず「#PR」「#広告」「#プロモーション」などの表示を入れるよう契約書や依頼書に明記してください。消費者庁のガイドラインでは、これらの表示が投稿の冒頭または目立つ位置に記載されることが求められています。「#プレゼント提供」「#タイアップ」なども認められますが、「#お気に入り」だけでは不十分とされています。
口頭の依頼や簡単なDMだけでなく、書面による契約を締結することが重要です。契約書には「広告である旨の表示義務」「表示方法の指定」「違反した場合の責任」などを盛り込むことで、トラブルを未然に防げます。また、インフルエンサー側が表示を怠った場合の責任の所在も明確にしておく必要があります。
アフィリエイトプログラムを運用している場合、提携しているアフィリエイターが適切な広告表示をしているかを定期的にモニタリングすることが求められます。ASP(アフィリエイトサービスプロバイダー)経由でルールの周知徹底を図るとともに、不適切な投稿が発覚した場合は迅速に対処する体制を整えましょう。
社員が自社商品についてSNSで発信する場合のガイドラインを整備しましょう。「業務上の目的で行う場合は所属と目的を明示する」「私的な感想と業務的な宣伝は明確に区別する」などのルールを社内研修で徹底することが重要です。
ステマ規制への対応は、一時的な対策ではなく継続的な体制づくりが必要です。以下のような体制を整備することを推奨します。
特に中小企業では、マーケティング担当者と法務担当者が兼務であったり、外部委託のみで運営しているケースも多いでしょう。その場合でも、「誰が何を確認するか」という責任の所在を明確にしておくことが重要です。
ステルスマーケティング規制は、消費者の信頼を守るための規制であると同時に、企業にとっても長期的なブランド価値を守るための仕組みと捉えることができます。短期的な宣伝効果を求めてグレーゾーンのマーケティングを行うよりも、透明性の高い誠実なコミュニケーションを積み重ねることが、中長期的な競争優位につながります。
「うちはまだ小さいから関係ない」という考え方は危険です。規模に関わらず、景表法は全ての事業者に適用されます。特にSNSマーケティングを積極的に活用している企業は、今すぐ自社の施策を見直し、適切な対応をとることを強くお勧めします。
不安な点がある場合や、具体的な施策の適法性を確認したい場合は、企業法務を専門とする弁護士にご相談ください。リスクを事前に把握し、適切な対策を講じることで、安心してマーケティング活動を続けることができます。