化粧品や健康食品、サプリメントを扱う企業にとって、広告表現は売上を左右する重要な要素です。しかし「効果を伝えたい」という思いが強くなるあまり、知らず知らずのうちに薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)や景品表示法に違反してしまうケースが後を絶ちません。行政処分や措置命令が下されると、課徴金の支払いだけでなく、ブランドイメージの毀損という形で長期的な損失につながります。本コラムでは、中小企業の経営者・広告担当者が押さえておくべき薬機法・景品表示法上のリスクと、実務的な対応策を解説します。
化粧品・健康食品の広告でよくある違反パターン
化粧品や健康食品の広告表現に関する違反は、大きく分けて次の3つのパターンに集約されます。
- 効能効果の標榜違反:化粧品や食品(サプリメント含む)は医薬品ではないため、「治る」「治療」「シミが消える」「痩せる」といった医薬品的な効能効果を標榜することは薬機法で禁止されています。
- 優良誤認表示:実際の効果や性能よりも著しく優れているかのように誤認させる表示は、景品表示法上の優良誤認表示に該当します。特にビフォーアフター写真や体験談の使い方には注意が必要です。
- 合理的根拠のない表示:「臨床試験で実証済み」「〇〇大学と共同研究」などのエビデンスを示す表現は、実際にそのエビデンスが表示内容を裏付ける水準で存在しなければ不当表示とされるリスクがあります。
特に化粧品は薬機法上「人体に対する作用が緩和なもの」と位置づけられているため、医薬品的な効能効果(シミ・シワの解消、育毛、美白による色素沈着の治療など)を謳うことは原則として認められていません。
薬機法が禁止する表現の具体例
実務でよく問題になる表現を整理すると、以下のようなものが挙げられます。
- 「シミが消える」「シワがなくなる」→ 化粧品の効能効果の範囲を超える医薬品的表現として違反となる可能性が高い表現です。
- 「アトピーが治る」「肌荒れが完治する」→ 疾病の治療・予防を標榜する表現であり、化粧品・健康食品では認められません。
- 「飲むだけで痩せる」「脂肪が燃焼する」→ 健康食品において、身体の変化を断定的に約束する表現は薬機法・景品表示法の双方に抵触するおそれがあります。
- 「がんに効く」「免疫力が劇的に向上する」→ 医薬品的な効能効果の標榜であり、無承認医薬品の広告として摘発対象となり得ます。
一方で、化粧品には認められている表現の範囲(いわゆる「56効能」)があり、「乾燥による小ジワを目立たなくする」「肌を整える」「メーキャップ効果により美しく見せる」といった表現は一定の条件下で使用可能です。自社の商品分類(化粧品・医薬部外品・食品)に応じて、どの範囲まで表現できるのかを正確に把握することが出発点となります。
景品表示法上の「優良誤認表示」に注意
景品表示法では、実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認される表示を「優良誤認表示」として禁止しています。化粧品・健康食品の広告では、次のような点が問題視されやすい傾向にあります。
- 体験談・お客様の声の扱い:一部の突出した成功例だけを抜粋して「多くの方が実感」と表示すると、実際の効果分布との乖離により不当表示とされる可能性があります。個人の感想である旨、効果には個人差がある旨の打消し表示も、目立たない小さな文字では十分な打消し効果があるとは認められません。
- 不実証広告規制:消費者庁から表示の裏付けとなる合理的根拠を示す資料の提出を求められた場合、15日以内に提出できなければ、その表示は不当表示とみなされます(景品表示法第7条第2項)。「なんとなく効果がありそう」という感覚的な表現ではなく、実際に社内で試験データや文献を保管しておくことが重要です。
- No.1表示・ランキング表示:「満足度No.1」等の表示は、調査の母数や対象、調査主体などの根拠を明確に示さなければ、優良誤認表示として問題視されるリスクが高い類型です。
ステルスマーケティング規制との関係
2023年10月に景品表示法上の指定告示として施行されたステルスマーケティング規制も、化粧品・健康食品業界では特に注意が必要な分野です。インフルエンサーやアフィリエイターに商品を提供して投稿を依頼する場合、事業者の広告であることが分からない形で発信されると、それ自体が不当表示に該当します。
- インフルエンサーへの投稿依頼時には「#PR」「#広告」等の明示を契約上義務付けること
- アフィリエイトサイトにおける誇大な効能効果の記載についても、委託元である事業者が責任を問われる可能性があること
- 社内で商品を無償提供する際のガイドラインを整備し、投稿内容の事前チェック体制を構築すること
を実務上のポイントとして押さえておく必要があります。
違反を防ぐための社内体制づくり
広告表現のリスクを未然に防ぐためには、属人的なチェックに頼らず、組織的な審査体制を構築することが不可欠です。具体的には以下のような取り組みが有効です。
- 広告審査フローの明文化:広告制作から公開までの間に、法務担当者またはこの分野に詳しい社外専門家によるダブルチェックを必ず経由するフローを構築する。
- NGワード集の作成・更新:業界団体のガイドラインや過去の行政処分事例を踏まえたNGワード集を作成し、広告代理店やライターとも共有する。
- エビデンスの保管体制:表示の根拠となる試験データ、モニター調査結果、文献等を表示内容とセットで保管し、不実証広告規制の照会に迅速に対応できるようにする。
- 過去の措置命令・課徴金納付命令事例の継続的な確認:消費者庁や都道府県が公表する事例を定期的にモニタリングし、自社の広告表現に類似リスクがないか検証する。
広告表現に関する規制は法改正や運用の変化が頻繁にあり、自己判断だけでは見落としが生じやすい領域です。特に新商品のローンチ時やキャンペーン企画時には、事前に法的リスクを洗い出しておくことで、公開後の措置命令や課徴金納付命令といった重大なリスクを回避できます。
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