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M&A簿外債務リスクを防ぐデューデリジェンス実務ポイント

2026/08/17

M&A・事業承継

M&A簿外債務リスクを防ぐデューデリジェンス実務ポイント

中小企業のM&Aでは、決算書に表れない「簿外債務」が買収後に発覚し、経営者を悩ませるケースが少なくありません。未払残業代や保証債務など典型的な簿外債務の見つけ方と、デューデリジェンスで見抜くための実務ポイントをまとめました。

中小企業M&Aで多発する「簿外債務」とは何か

M&Aによる事業承継が中小企業の間で急速に広がっています。経営者の高齢化と後継者不在を背景に、親族内承継ではなく第三者への譲渡(M&A)を選ぶケースが年々増加しています。中小企業庁の調査でも、事業承継の手段としてM&Aを検討する経営者の割合は年々上昇傾向にあり、今や特別な選択肢ではなくなりつつあります。

その一方で、買収後に「聞いていなかった債務」が見つかり、トラブルに発展するケースが後を絶ちません。これがいわゆる「簿外債務」の問題です。

簿外債務とは、貸借対照表(バランスシート)に計上されていない、あるいは計上が不十分な債務のことを指します。具体的には次のようなものが典型例です。

  • 未払残業代・未払社会保険料などの労務関連債務
  • 退職給付引当金の計上不足
  • 債務保証・連帯保証など偶発債務
  • 係争中の訴訟・クレームに伴う損害賠償リスク
  • 税務調査による追徴課税リスク
  • リース契約や賃貸借契約における原状回復義務

これらは会計帳簿上は見えにくく、経営者自身も「債務」として認識していないことが多いため、譲渡側に悪意がなくても発覚してしまう点が実務上の難しさです。長年の商慣習の中で「これくらいは当たり前」と処理されてきた事項が、第三者の目から見ると重大なリスクとして浮かび上がることも珍しくありません。

簿外債務が引き起こす具体的なトラブル事例

実際の相談事例では、次のようなトラブルが頻繁に発生しています。いずれも中小企業のM&Aにおいて特に典型的なパターンです。

未払残業代の発覚
譲渡企業で長年、固定残業代制度が正しく運用されておらず、買収後の労務監査で数千万円規模の未払残業代が判明したケースがあります。買収企業側がこの負担を負うことになり、想定していた投資回収計画が大きく狂う結果となりました。特に建設業・運送業・小売業など、長時間労働が常態化しやすい業種では、労務DDの重要性が一段と高まります。

連帯保証・担保提供の見落とし
譲渡企業が関連会社や代表者個人の借入について連帯保証人になっていたことが契約締結後に発覚し、想定外の保証履行を求められる事態も少なくありません。金融機関との契約書を網羅的に確認しなければ、こうした保証関係は容易に見落とされてしまいます。

取引先とのクレーム・係争
納品した製品の品質クレームが水面下で継続しており、買収後に多額の損害賠償請求を受けたという事例もあります。譲渡企業側が「大した問題ではない」と軽視していた案件が、買収後に深刻化することも珍しくありません。

税務リスクの顕在化
過去の税務処理に誤りがあり、買収後の税務調査で追徴課税を受けたという事例も報告されています。特にオーナー企業では、役員報酬や経費処理が税法上グレーな運用となっているケースが少なくありません。

こうした事例に共通するのは、「デューデリジェンス(DD)が不十分だった」という点です。表面的な財務資料の確認だけでは、簿外債務の多くは発見できません。

デューデリジェンス(DD)で確認すべき5つのポイント

簿外債務リスクを最小化するためには、M&A実行前のデューデリジェンスを徹底することが不可欠です。中小企業のM&Aにおいて、経営者が特に押さえておくべき確認ポイントは次の5つです。

1. 労務DD(未払残業代・社会保険)

タイムカードや給与台帳を精査し、固定残業代制度の運用実態、36協定の有無、社会保険の加入状況を確認します。

2. 財務DD(引当金・簿外負債)

退職給付引当金、賞与引当金の計上状況や、リース債務・保証債務の有無を確認します。

3. 法務DD(契約書・保証関係)

取引基本契約、賃貸借契約、金銭消費貸借契約、保証契約などをすべて洗い出し、解除条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)の有無も確認します。

4. 税務DD(追徴課税リスク)

過去の税務調査の履歴、申告内容の妥当性を税理士とともに確認します。

5. コンプライアンスDD(係争・クレーム)

訴訟、労働審判、行政指導、取引先からのクレームなど、係争性のある事案の有無をヒアリングと資料双方で確認します。

これらの調査は弁護士・税理士・公認会計士など専門家が連携して行うことで、見落としを大幅に減らすことができます。中小企業のM&Aでは、コストを理由にDDを簡略化してしまう例も見られますが、簿外債務が発覚した場合の損失規模を考えれば、DD費用は決して高い投資ではありません。譲渡側の経営者にとっても、事前にDDを想定した資料整備を行っておくことで、交渉をスムーズに進められるというメリットがあります。

表明保証条項による簿外債務リスクのヘッジ方法

どれほど入念にデューデリジェンスを行っても、簿外債務を100%発見することは困難です。そこで重要になるのが、株式譲渡契約書における「表明保証条項」です。

表明保証条項とは、譲渡企業(売主)が「開示した情報が真実かつ正確であること」「簿外債務が存在しないこと」などを契約上保証する条項です。万が一、契約締結後に表明保証違反が発覚した場合、買収企業は損害賠償請求や補償請求を行うことができます。

中小企業のM&Aでは、この表明保証条項が簡素になりがちですが、次のような点を必ず盛り込むべきです。

  • 簿外債務・偶発債務が存在しないことの表明
  • 未払残業代等の労務コンプライアンス違反がないことの表明
  • 訴訟・紛争が係属していないことの表明
  • 表明保証違反が発覚した場合の補償期間・上限額の設定

また、近年ではM&A専用の「表明保証保険」を活用し、売主・買主双方のリスクを保険でカバーする手法も増えています。契約交渉が難航しやすい補償条項について、保険を活用することでスムーズな合意形成が可能になるケースもあります。表明保証保険は従来、大型M&Aで使われることが多い制度でしたが、近年は保険料水準が下がり、中小企業のM&Aでも活用事例が増えてきています。

なお、表明保証条項を設けたとしても、売主に資力がなければ実効性のある補償を受けられないリスクがあります。買主側としては、補償の実効性を担保するために、譲渡代金の一部を一定期間留保する「エスクロー条項」を併用することも有効な選択肢です。

簿外債務が発覚した場合の対処法と交渉術

実際に簿外債務が発覚してしまった場合、経営者はどのように対応すべきでしょうか。

まず重要なのは、契約書上の表明保証条項・補償条項の内容を確認し、請求可能な範囲と期限を正確に把握することです。補償請求には多くの場合、発覚から一定期間内の通知義務が定められているため、初動の遅れが権利喪失につながるおそれがあります。

次に、相手方との交渉においては、感情的な対立を避け、証拠資料(会計帳簿、契約書、労務資料等)を整理したうえで、弁護士を通じた冷静な協議を進めることが望ましいといえます。訴訟に発展する前に、示談や補償金の分割対応など柔軟な解決策を模索することで、双方にとって現実的な着地点を見出せることも多くあります。

いずれの場面でも、M&Aに精通した弁護士が早期に関与することで、交渉の主導権を握りやすくなります。特に補償請求の通知期限が迫っている場合は、初動対応の速さが結果を大きく左右するため、発覚した時点で速やかに専門家へ相談することをおすすめします。

また、譲渡側の経営者にとっても、簿外債務の指摘を受けた際にどこまで応じるべきかの判断は容易ではありません。感情的な対応をとってしまうと、その後の関係修復が難しくなるだけでなく、想定以上の補償を余儀なくされることもあります。冷静に契約書の文言を精査し、合理的な範囲での解決を目指す姿勢が重要です。

まとめ|M&Aを成功させるための事前準備

M&Aによる事業承継は、後継者不在に悩む中小企業にとって有効な選択肢ですが、簿外債務のリスクを軽視すると、譲渡後に大きなトラブルへと発展しかねません。デューデリジェンスの徹底と、表明保証条項をはじめとする契約書の作り込みが、リスクを最小化するための両輪となります。

特に契約書の設計は専門的な知識が求められる領域です。自社での対応に不安がある場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

M&Aや事業承継における契約書の作成・デューデリジェンスでお悩みの方は、ぜひLeONE法律事務所へお気軽にお問い合わせください。初回相談は無料です。

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