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契約書チェックの実務|発注企業の見落としやすい条項

2026/08/24

契約法務

契約書チェックの実務|発注企業の見落としやすい条項

取引先から届いた契約書をそのまま締結し、後からトラブルに気づく企業は少なくありません。この記事では発注企業の視点から、契約書チェックで見落としやすい条項の具体例と実務手順、社内体制の整え方について解説します。

契約書チェックが必要な理由|発注企業が負うリスクとは

中小企業の現場では、取引先から提示された契約書をほぼそのまま締結してしまうケースが少なくありません。しかし、契約書は取引上のトラブルが発生した際に、責任の所在や損害賠償の範囲を決める最も重要な証拠となります。契約書チェックを怠ったまま締結すると、発注企業側が想定していなかった義務を負わされたり、トラブル発生時に自社を守る条項が存在しなかったりする事態が起こり得ます。

特に発注する立場の企業は、受注者側があらかじめ用意した契約書をそのまま使うことが多く、内容が受注者に有利に設計されているケースも珍しくありません。契約書チェックは、単なる形式確認ではなく、自社の経営リスクを事前に洗い出す重要な経営判断のひとつと位置づける必要があります。

また、近年は下請法やフリーランス新法など、発注者側に義務を課す法改正が相次いでいます。契約書チェックの体制が整っていない企業は、こうした法改正への対応が後手に回り、行政指導や取引先との信頼低下につながるリスクも抱えています。

実際に契約書チェックを怠ったことでトラブルとなる典型例としては、次のようなケースが挙げられます。

  • 成果物に不具合があったにもかかわらず、契約不適合責任の期間が短く設定されていたため、修補や損害賠償を請求できなかった
  • 取引先の倒産により代金回収が困難になったが、契約書に担保や保証に関する定めがなく、無担保の一般債権者として扱われた
  • 業務委託先が第三者に無断で再委託しており、情報漏洩が発生した際に契約書上の責任追及の根拠が弱かった

こうした事態は、契約締結前の段階で契約書チェックを丁寧に行っていれば防げた、あるいは被害を最小限に抑えられたケースが少なくありません。契約書チェックにかける時間や費用は、トラブル発生時の損失やコストと比較すれば、決して大きな負担ではないといえます。

発注企業が見落としやすい契約書条項5選

契約書チェックの際、発注企業が特に見落としやすい条項を5つご紹介します。

  • 契約不適合責任の範囲と期間:成果物に不備があった場合の修補・損害賠償の範囲や期間が曖昧、または受注者に有利に短く設定されているケース
  • 損害賠償の上限額:受注者側の賠償責任に上限が設定されており、実際の損害額をカバーできない設計になっているケース
  • 知的財産権の帰属:成果物の著作権や特許を受ける権利が、発注企業ではなく受注者側に留保されているケース
  • 再委託に関する条項:発注企業の承諾なく第三者への再委託が可能になっており、情報管理や品質管理が行き届かなくなるリスク
  • 解除条項と違約金:発注企業側からの中途解約が困難、または高額な違約金が設定されているケース

これらの条項は分量としては数行程度であることが多く、読み流してしまいがちです。しかし、トラブル発生時に実際の損害を左右するのはまさにこうした条項であるため、契約書チェックの際には重点的に確認する必要があります。

特に損害賠償の上限額については、受注者側から提示される雛形に「委託料の1か月分を上限とする」といった条項が入っていることが多く、実際に生じた損害額がこれを大きく上回るケースも珍しくありません。契約書チェックの段階で上限額の妥当性を検討し、必要に応じて上限を撤廃する、あるいは故意・重過失の場合は上限を適用しないといった修正を交渉することが重要です。

知的財産権の帰属についても、システム開発やデザイン制作を委託する場合には特に注意が必要です。成果物の著作権が受注者に留保されたままだと、発注企業は納品後に成果物を自由に改変・再利用できず、追加のライセンス料を求められる事態にもなりかねません。契約書チェックの際は、著作権法第27条・第28条に定める権利(翻案権・二次的著作物の利用権)まで含めて発注企業に移転する条項になっているかを確認しましょう。

再委託に関する条項も見落とされやすいポイントです。発注企業としては、委託した業務を受注者本人が行うことを前提に契約していても、条項上「発注企業の事前の承諾なく再委託できる」となっていると、実際には想定外の第三者が業務に関与することになります。特に個人情報や営業秘密を扱う業務では、再委託先における情報管理体制まで契約書チェックの対象に含めるべきです。

解除条項についても、発注企業側からの解除事由が限定的に列挙されているだけで「相手方が本契約に違反したとき」といった包括的な解除事由が抜けていないか確認しましょう。あわせて、解除に伴う原状回復や既払金の精算方法が明記されているかも重要な確認ポイントです。

契約書チェックの実務手順|受領から締結までの確認フロー

契約書チェックを場当たり的に行うのではなく、受領から締結までの一連のフローとして整備することで、確認漏れを防ぐことができます。

ステップ1:契約書の受領と関係部署への共有

契約書を受領した段階で、法務担当者だけでなく、実際に取引を担当する事業部門にも内容を共有し、取引の実態と契約書の記載内容にズレがないかを確認します。

ステップ2:チェックリストに基づく条項確認

契約不適合責任、損害賠償、知的財産権、解除条項など、リスクの高い条項を中心に、あらかじめ用意したチェックリストに沿って確認します。

ステップ3:修正交渉と代替案の準備

不利な条項が見つかった場合は、削除を求めるだけでなく、双方が受け入れやすい代替案をあわせて提示することで、交渉がスムーズに進みやすくなります。

ステップ4:締結前の最終確認と記録保管

署名・押印の前に、修正内容が反映された最終版であることを確認し、締結後は契約書の原本と交渉記録をあわせて保管します。特に電子契約サービスを利用する場合は、変更履歴やバージョン管理の機能を活用し、どの時点でどの条項が修正されたかを追跡できる状態にしておくことが望ましいでしょう。

契約書チェックにかけられる時間は案件によって異なりますが、少なくとも重要な取引については、締結予定日の1〜2週間前には契約書を受領し、社内確認と交渉のための時間を確保しておくことをおすすめします。締結期限が迫った状態で契約書チェックを行うと、時間的制約から不利な条項を見過ごしてしまうリスクが高まります。

契約書チェックの精度を高めるには、社内の法務担当者だけでなく、必要に応じて外部の専門家の目を通すことも有効です。契約法務を専門とする法律事務所LeONEでは、発注者側の実務に即した契約書チェック体制の構築を支援しています。

契約類型別の注意点|業務委託・売買・システム開発契約

契約書チェックで確認すべきポイントは、契約の類型によっても異なります。

業務委託契約では、業務の完成を目的とする請負契約か、一定の業務遂行を目的とする準委任契約かによって、報酬の支払条件や契約不適合責任の有無が変わってきます。契約書上の表題だけでなく、業務内容の実態に即した類型になっているかを確認することが重要です。

売買契約では、検収の方法と期間、検収後に不具合が見つかった場合の対応、所有権の移転時期などが主要な確認ポイントとなります。

システム開発契約では、仕様変更が生じた際の追加費用の負担ルールや、納期遅延時の対応、ソースコードや設計書などの成果物の帰属について、特に慎重な確認が求められます。特にアジャイル型の開発では、当初の仕様書だけでは業務範囲が確定しないため、追加開発の発生を前提とした費用精算の仕組みをあらかじめ契約書に盛り込んでおくことが重要です。

このほか、継続的な取引となる基本契約書と個別契約書(発注書)を組み合わせる形式を採用している企業も多いですが、この場合は基本契約書と個別契約書のどちらの条項が優先するかを明記しておかないと、取引の都度、解釈をめぐる争いが生じるおそれがあります。契約書チェックの際は、複数の契約書類の優先関係についても確認しておきましょう。

契約類型ごとの実務対応に不安がある場合は、担当弁護士のご紹介ページから、各分野を得意とする弁護士の実績をご確認いただけます。

契約書チェック体制の社内整備|属人化を防ぐ仕組みづくり

契約書チェックが特定の担当者の経験や勘に依存していると、その担当者が不在の際にチェックの質が大きく低下したり、退職時にノウハウが失われたりするリスクがあります。属人化を防ぐためには、次のような仕組みづくりが有効です。

  • 契約類型ごとのチェックリストをドキュメント化し、誰が確認しても一定水準を保てるようにする
  • 過去に問題となった条項や交渉事例を社内で共有し、ナレッジとして蓄積する
  • 一定金額・一定リスク以上の契約については、複数人での確認や外部専門家への相談を必須とするルールを設ける

特に成長段階にある中小企業では、取引件数の増加に法務担当者の人員が追いつかず、契約書チェックが後回しになりがちです。こうした場合は、すべての契約書を一律に精査するのではなく、取引金額や継続性、自社にとっての重要度に応じてチェックの深さを変える「リスクベース」の運用を取り入れることで、限られたリソースを効率的に配分できます。

税理士や社会保険労務士など、他の士業と連携しながら契約書チェック体制を整えたいという企業様も少なくありません。当事務所では提携士業の方へページを通じて、士業間の連携体制も構築しております。

まとめ|契約書チェックは「守り」から「攻め」の経営判断へ

契約書チェックは、トラブルを未然に防ぐという「守り」の意味合いだけでなく、取引条件を自社に有利な形に整えるという「攻め」の経営判断でもあります。発注企業として見落としやすい条項を把握し、受領から締結までのチェックフローを整備することで、取引先との関係を長期的に安定させることができます。

本記事でご紹介した見落としやすい5つの条項や実務手順は、いずれも特別な知識がなくても意識すれば確認できるものばかりです。まずは自社で締結している契約書のうち、取引金額が大きいものや継続的な取引となっているものから、契約書チェックの見直しに着手することをおすすめします。

契約書チェックの体制構築や、個別の契約書のレビューでお困りの際は、企業法務を専門とする弁護士へのご相談をおすすめします。