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グループ会社間の取引価格は本当に自由に決められるか?移転価格税務調査のリスクと中小企業の実務対策

2026/06/29

企業法務

グループ会社間の取引価格は本当に自由に決められるか?移転価格税務調査のリスクと中小企業の実務対策

はじめに:「身内だから自由に決められる」という誤解

グループ会社を複数お持ちの経営者の方から、「グループ内の取引価格は自社で自由に決められると思っていた」というお話をよく伺います。確かに、親会社と子会社は同じグループであり、売上や利益の行き先も最終的には同じ株主に帰属するように見えます。しかし、税務の世界では、グループ会社間であっても「独立した第三者間であれば採用されるであろう価格(独立企業間価格)」で取引しなければならないという原則が存在します。

この原則を無視したグループ内取引が税務調査の対象となり、多額の追徴課税を受けるケースは、大企業だけの話ではありません。近年は、国境をまたぐ取引はもちろんのこと、国内のグループ会社間取引においても税務当局の目が向けられています。本稿では、中小企業の経営者が知っておくべき移転価格税務リスクの基礎と実務対策を解説します。

移転価格とは何か——基本概念を押さえる

移転価格(Transfer Pricing)とは、グループ会社間で物品・サービス・知的財産などを取引する際に設定される内部取引価格のことです。たとえば、親会社が子会社に部品を売る場合、その価格を市場価格より高く設定すれば、親会社の利益は増加し、子会社の利益は減少します。逆に、低い価格で売れば、子会社に利益を移転することができます。

各国・各地域の税率が異なる場合、グループ全体の税負担を最小化するためにこの「価格操作」が行われると、税務当局は租税回避として問題視します。日本では、租税特別措置法第66条の4(国外関連者との取引についての課税の特例)がこれを規制しており、独立企業間価格からの逸脱が認められると、課税所得が修正されます。

国内取引にも適用されるリスク

移転価格問題は、国際取引(親会社と海外子会社間)だけに存在するというのは誤解です。国内においても、グループ法人税制の下で、赤字会社に利益を移転させて課税を免れるような取引は問題とされます。また、消費税・法人税の観点からも、グループ間の不当な価格設定は「同族会社の行為計算否認」(法人税法132条)の対象となり得ます。

税務調査でどのようなことが問われるか

国税庁は近年、移転価格に関する調査を強化しています。2025年度の調査実績では、移転価格課税の件数・金額ともに増加傾向にあり、調査対象は大企業だけでなく、海外展開を始めた中規模企業にまで広がっています。

よく問われる取引類型

  • 役務提供取引:親会社が子会社に提供する経営管理サービス・IT支援・法務支援などの内部サービス料金
  • 商品・製品の売買:グループ内で製品や仕入品を転売する際の価格
  • ロイヤルティ(使用料):ブランド名・特許・ノウハウなどの知的財産を他のグループ会社に使用させる際の対価
  • 金融取引:グループ内貸付の金利設定
  • シェアードサービス費用の配賦:本社が一括して負担するサービス費用を各グループ会社に配賦する方法と金額

税務調査では、これらの取引が「独立企業間価格」と乖離していないか、また乖離している場合に合理的な説明ができるかどうかが問われます。文書化(ドキュメンテーション)が不十分な場合、税務当局が独自に独立企業間価格を算定し、課税所得を修正するリスクがあります。

シェアードサービスと内部取引の実務リスク

グループ経営において、本社が人事・経理・IT・法務などの機能を一元化し、各子会社に「シェアードサービス」として提供することは、コスト効率の観点から有効な手法です。しかし、この際に注意すべき法務・税務上のリスクがあります。

費用配賦の根拠を明確に

シェアードサービスの費用をどのようなキー(売上比率・従業員数・利用時間等)で各グループ会社に配賦するかについて、合理的な根拠と文書化が必要です。根拠が不明確だと、受益実態のない費用負担として否認されたり、寄附金として取り扱われたりするリスクがあります。

サービス料の水準設定

シェアードサービスの対価は、「独立企業間で同様のサービスが提供された場合の価格」に近い水準で設定する必要があります。著しく低い料金設定は、子会社への利益供与や、親会社の所得圧縮として問題視されることがあります。逆に、高すぎる設定は子会社への損害をもたらすとして、少数株主保護の観点から問題になることもあります。

グループ内金銭貸借のリスク

親会社が子会社に無利息や低金利で資金を貸し付けることは一般的ですが、税務上は問題になり得ます。法人税基本通達9-2-11では、グループ内法人からの低利貸付について、市場金利との差額が受贈益(または寄附金)として課税されるリスクがあります。特に、利益率の高い親会社から利益率の低い子会社に資金を無償に近い条件で移転させている場合は要注意です。

中小企業が今すぐ整備すべき実務対策

移転価格リスクは、大企業特有の問題ではありません。海外子会社を持つ中小企業、あるいは国内のグループ会社間で複雑な取引をしている企業は、以下の実務対策を今すぐ検討してください。

1. グループ内取引の棚卸しと文書化

まず、グループ内に存在するすべての取引(売買・サービス提供・ライセンス・貸付等)を洗い出し、各取引について以下の点を文書化しましょう。

  • 取引の内容・目的
  • 価格の決定方法とその根拠
  • 比較可能な独立企業間取引(比較対象取引)の有無
  • 取引に関する契約書の有無・内容

特に、契約書がない口頭合意や、慣行で決められてきた価格に対しては、早急に書面化と価格根拠の整理を行うことが重要です。

2. 独立企業間価格の算定方法の選択

移転価格税制では、いくつかの価格算定方法が認められています(独立価格比準法、再販売価格基準法、原価基準法など)。自社の取引類型に応じて適切な方法を選択し、その方法で算定した価格が取引価格と合致することを確認・記録しましょう。この作業には、税理士や移転価格に精通した専門家の関与が不可欠です。

3. シェアードサービス協定書の締結

グループ内でシェアードサービスを提供している場合、提供するサービスの内容・費用配賦の方法・金額・支払条件を定めたグループ内サービス協定書(Intra-Group Service Agreement)を締結することをお勧めします。この協定書は、税務調査の際に取引の実態と合理性を示す重要な証拠となります。

4. 定期的な価格レビューの実施

市場環境の変化に応じて、グループ内取引価格を定期的に見直す仕組みを構築しましょう。固定された価格を何年も変更しないまま使い続けることは、市場価格との乖離を生み、税務リスクを高めます。年1回程度の価格レビューと、その記録の保存を習慣化することが重要です。

5. APA(事前確認制度)の活用検討

移転価格についての税務リスクを根本的に解消したい場合は、国税当局との間で事前確認(APA:Advance Pricing Arrangement)を締結することも一つの選択肢です。APAは、将来の取引について、あらかじめ合意された価格算定方法を適用することで、税務調査リスクを大幅に低減できます。手続きに時間とコストがかかりますが、グループ内取引の規模が大きい場合には検討に値します。

まとめ:グループ取引の「合理性の証明」が経営を守る

グループ会社間取引のリスク管理で最も重要なのは、「第三者と同様の条件で取引しているか」を常に意識し、その根拠を文書化・維持することです。税務調査が来てから慌てて対応するのではなく、日常のグループ経営の中でリスクを管理する体制を整えておくことが、中小企業の経営者にとって不可欠です。

移転価格や同族会社の行為計算否認は複雑な専門分野であり、一般的な税務顧問だけでは対応が難しいケースも少なくありません。グループ構成の見直し、新たなグループ会社の設立、海外展開などを検討している段階から、法的・税務的リスクを踏まえた専門家への相談をお勧めします。

グループ内取引の価格設定や文書化についてお悩みの方、または税務調査への備えを強化したい経営者の方は、ぜひLeONE法律事務所へお気軽にお問い合わせください。初回相談は無料です。企業法務に精通した弁護士が、貴社の状況に合わせた具体的なアドバイスをご提供します。

また、グループ経営に関連する各種契約書の整備や法務体制の構築については、企業法務サービスの詳細はこちらよりご確認いただけます。