Column
2026/07/26
労働法
近年、顧客や取引先から従業員に対する理不尽なクレームや暴言、いわゆる「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が社会問題として大きく取り上げられています。東京都をはじめとする自治体でカスハラ防止条例が制定され、国においても労働施策総合推進法の改正によりカスハラ防止措置が事業主の義務として明文化される方向で議論が進んでいます。
「うちは大企業ではないから関係ない」と考えている中小企業の経営者の方も少なくありませんが、実際には従業員数の少ない企業ほど、一人のカスハラ被害が離職や訴訟に直結しやすく、経営への影響も深刻です。本記事では、企業法務を専門とする弁護士の立場から、中小企業が今すぐ着手すべきカスハラ対策の実務ポイントを解説します。
カスハラとは、顧客等からのクレームのうち、その内容の妥当性に照らして社会通念上不相当な言動により、労働者の就業環境が害されるものを指します。具体的には以下のような行為が典型例です。
正当なクレームと悪質なカスハラの線引きは容易ではありませんが、要求内容の妥当性と手段・態様の相当性という二つの軸で判断するのが基本です。
労働契約法第5条は、使用者に対し「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする」ことを義務付けています。これがいわゆる安全配慮義務です。
カスハラは第三者である顧客からの加害行為ですが、企業がその存在を認識しながら放置し、従業員が精神疾患を発症したり離職に追い込まれたりした場合、安全配慮義務違反として企業が損害賠償責任を負う可能性があります。実際に、悪質クレーム対応を一人の従業員に丸投げしたことが原因でうつ病を発症したケースについて、労災認定がなされた例も存在します。
東京都は令和6年にカスタマー・ハラスメント防止条例を制定し、事業者に対して就業者を保護するための対策を講じる努力義務を課しました。また、厚生労働省においても、パワーハラスメント防止措置と同様に、事業主にカスハラ防止のための雇用管理上の措置を義務付ける方向で法改正の検討が進められています。
努力義務の段階であっても、これを怠ったことが後の訴訟において「注意義務違反」の判断材料とされるリスクは十分にあります。法制化を待ってから対応するのではなく、今のうちに体制を整えておくことが、結果的に企業を守ることにつながります。
まずは「当社はカスハラに対して毅然と対応する」という基本方針を明文化し、社内外に周知することが出発点です。対応マニュアルには、悪質クレームの判断基準、初期対応の手順、上長へのエスカレーションルート、対応打ち切りの判断基準などを具体的に定めておきます。
従業員が一人で抱え込まないよう、パワハラ・セクハラ相談窓口とあわせてカスハラの相談も受け付ける窓口を設置しましょう。小規模企業では専任の担当者を置くことが難しい場合もありますが、外部の相談窓口サービスや顧問弁護士への相談ルートを整備するだけでも効果があります。
「対応を打ち切ってよい」「上長に引き継いでよい」という判断権限をあらかじめ現場の従業員に付与しておくことが重要です。権限がないまま現場任せにすると、従業員が過度に我慢を強いられる原因になります。
電話対応の録音や、対面対応時の記録テンプレートを整えておくことで、悪質クレームの証拠化が可能になります。証拠があることは、後の法的対応だけでなく、悪質な要求を抑止する効果も期待できます。
BtoCサービスを提供する企業では、利用規約や契約書に「著しく不当な言動があった場合はサービス提供を拒否できる」旨の条項をあらかじめ盛り込んでおくことも有効な予防策です。
カスタマーハラスメント対策は、もはや大企業だけの課題ではありません。法制化の流れが加速する中、中小企業においても、安全配慮義務の観点から社内体制の整備は避けて通れないテーマとなっています。基本方針の策定、相談窓口の設置、現場への権限付与といった対策は、いずれも大きなコストをかけずに着手できるものばかりです。まずは自社の現状を点検することから始めてみてはいかがでしょうか。
カスハラ対応マニュアルの整備や利用規約の見直し、実際に発生したトラブルへの対応など、具体的なご状況でお悩みの方は、ぜひLeONE法律事務所へお気軽にお問い合わせください。初回相談は無料です。
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