Column
2026/08/18
労働法
業務委託契約のつもりで発注していても、実態次第では「偽装請負」と判断され、行政指導や罰則、直接雇用義務の対象になることがあります。本記事では偽装請負の判断基準と、中小企業がすぐに実践できる具体的な回避策をわかりやすく解説します。
「偽装請負」とは、契約書の形式上は業務委託契約(請負契約や準委任契約)であるにもかかわらず、実態としては注文者(発注者)が受注者の従業員に対して直接指揮命令を行い、労働者派遣と同様の状態になっている取引を指します。
本来、業務委託契約では、受注者が自らの裁量で業務の進め方や従業員の配置を決定し、発注者は成果物や業務の完成についてのみ責任を求めることができます。これに対し、発注者が受注者の従業員に直接指示を出し、勤務時間や作業手順まで管理しているような場合、契約書の名称にかかわらず、実態は労働者派遣に該当すると判断される可能性があります。
この判断は、労働者派遣法や職業安定法に基づいて行われ、契約書のタイトルではなく実際の業務運営の実態によって決まる点が重要です。「業務委託契約書を締結しているから安心」という考え方は、偽装請負のリスクを見落とす典型的な原因となります。
労働者派遣は、労働者派遣法に基づき厚生労働大臣の許可(または届出)を受けた事業者でなければ行うことができません。無許可で労働者派遣に相当する行為を行えば、契約書上は業務委託であっても違法な労働者派遣事業とみなされ、発注者・受注者の双方が法的責任を問われます。つまり偽装請負とは、許可を持たない事業者が、契約の形式を偽って実質的な人材供給を行っている状態を指すともいえます。
近年は、人手不足を背景に外部の人材を柔軟に活用したいという企業ニーズが高まる一方で、労働局による実態調査や是正指導も強化されています。「これまで問題にならなかったから大丈夫」という認識のまま運用を続けていると、ある日突然、労働局の調査対象となり、是正指導を受けるリスクが年々高まっている点に注意が必要です。
偽装請負に該当するかどうかは、厚生労働省が示す「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号)に基づき、主に以下の観点から総合的に判断されます。
これらの基準を満たさず、実質的に発注者が受注者の従業員を自社の労働力として利用している状態にあると判断されれば、労働者派遣法上の許可を得ない違法な労働者派遣、すなわち偽装請負として扱われます。特に受注者の現場責任者を介さず、発注者の担当者が個々の作業員に直接指示を出しているケースは、偽装請負と認定されやすい典型例です。
さらに、以下のような運用も偽装請負のリスクを高める要素として指摘されています。
これらの要素は個別に一つだけ該当したからといって直ちに偽装請負と断定されるわけではありませんが、複数の要素が積み重なるほど、労働者派遣に近い実態であると評価されやすくなります。自社の業務委託契約を見直す際は、契約書の文言だけでなく、こうした運用面のチェックリストに沿って実態を確認することが重要です。
偽装請負と認定された場合、発注者・受注者の双方に重大な法的リスクが生じます。
特に「労働契約申込みみなし制度」は、発注者側が想定していないタイミングで直接雇用義務を負うことになるため、経営上のインパクトが大きい点に注意が必要です。この制度は、発注者に偽装請負であるという認識(故意)がなくても適用される場合があり、「知らなかった」では済まされない点が実務上の大きな落とし穴となっています。
また、受注者側にとっても、偽装請負が発覚すれば取引先である発注者との契約を打ち切られるリスクがあるほか、無許可で労働者派遣事業を行っていたとして刑事責任を問われる可能性があります。偽装請負は発注者・受注者のいずれか一方だけの問題ではなく、取引に関わるすべての当事者が連帯してリスクを負う構造になっている点を理解しておく必要があります。
偽装請負は、意図的に脱法を狙うケースだけでなく、現場の運用が徐々に形骸化することで発生するケースが少なくありません。特に以下のような業種・場面で発生しやすい傾向があります。
これらの業種では、業務効率化のために発注者の担当者が現場で直接指示を出してしまい、契約書上は業務委託でありながら実態が労働者派遣化してしまうケースが典型的です。契約締結時には適法であっても、日々の運用の中でなし崩し的に偽装請負状態に陥る点が、経営者にとって見落としやすいリスクといえます。
特にIT業界のSES(システムエンジニアリングサービス)契約は、業務委託契約でありながら受注者のエンジニアが発注者のオフィスに常駐して稼働するという性質上、偽装請負の判断が微妙になりやすい典型的な取引形態です。発注者の担当者がチャットツールやタスク管理システムを通じて直接エンジニアに指示を出している場合、契約書が準委任契約であっても、実態は労働者派遣と評価される可能性があります。
また、繁忙期に一時的な応援として受注者の従業員を受け入れる場面でも、現場の管理職が「早く終わらせたいから」という理由で直接指示を出してしまい、なし崩し的に偽装請負状態が生じるケースも見られます。悪意のない現場判断が、会社全体の法的リスクにつながる点を、経営者は強く意識しておく必要があります。
偽装請負のリスクを回避するためには、契約書の整備だけでなく、現場運用のルール化が不可欠です。中小企業が実践すべき具体的な対応は以下のとおりです。
特に客先常駐型の業務委託を行っている企業では、指揮命令系統の明確化と、受注者側責任者を経由した業務指示の徹底が、偽装請負の判断基準をクリアするための最も重要なポイントとなります。契約書の文言だけでなく、実際の運用実態を定期的にチェックする体制を整えることが望まれます。
偽装請負のリスクを継続的に管理するためには、次のようなチェックリストを用いて、四半期に一度など定期的に自社の業務委託契約の運用実態を点検することが有効です。
このような点検を怠り、現場任せの運用を続けてしまうと、契約書上は適法であっても実態として偽装請負状態に陥っていることに、労働局の調査が入るまで気づかないというケースも少なくありません。顧問弁護士によるリーガルチェックを定期的に受けることで、契約書と現場運用の両面からリスクを早期に発見することができます。
偽装請負は、契約書の形式ではなく実態によって判断されるため、「業務委託契約書を締結しているから問題ない」という認識は危険です。指揮命令の独立性や事業経営上の独立性といった基準に照らし、自社の業務委託の実態を定期的に点検することが、行政指導や労働契約申込みみなし制度の適用といった重大リスクを避けるために不可欠です。
偽装請負のリスクは、契約締結時だけでなく、日々の現場運用の中で徐々に生じることが多いため、一度契約書を整備して終わりにするのではなく、継続的なモニタリングが欠かせません。人手不足や業務効率化のプレッシャーが強まる中小企業ほど、現場の裁量に任せきりにせず、経営層が主体的にリスク管理の仕組みを構築することが求められます。
自社の業務委託契約が偽装請負に該当していないか不安がある方、契約書や現場運用の見直しを検討している方は、ぜひLeONE法律事務所へお気軽にお問い合わせください。初回相談は無料です。
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