Column
2026/08/18
企業法務
社名やロゴを商標登録しないまま事業を続けると、第三者に先に登録され、自社ブランドが使えなくなるおそれがあります。本記事では商標登録の重要性と、中小企業が今すぐ取るべき防衛策を解説します。
「うちは長年この社名でやってきたから大丈夫」――そう考えている経営者の方は少なくありません。しかし、商標登録は使用実績の長さとは無関係に、原則として先に特許庁へ出願した者が権利を得る「先願主義」という制度のもとで運用されています。つまり、どれだけ長くその名称を使い続けていても、他社が先に出願・登録してしまえば、法律上の優先権は相手側に移ってしまうのです。
商標登録をしていない場合、次のようなリスクが現実のものとなります。
特に近年はECサイトやSNSでの販売が一般化しており、Amazonや楽天などのモール運営会社は、商標権者からの申告があれば比較的迅速に出品停止措置を取ります。商標登録をしていないと、こうした場面で「身の潔白」を証明する手段が乏しく、事業が突然ストップしてしまうリスクすらあるのです。
商標権は「使っているかどうか」ではなく「登録したかどうか」で優先順位が決まります。この基本構造を理解しないまま事業を続けることが、最大のリスクといえるでしょう。
また、商標を巡る紛争が発生した場合、交渉や訴訟対応には弁護士費用や機会損失を含めて数百万円単位のコストがかかることも珍しくありません。一方で、事前に商標登録を済ませておくための費用は、前述のとおり1区分あたり10万円台〜20万円台が目安です。「登録コスト」と「紛争発生時のコスト」を比較すれば、商標登録が非常にコストパフォーマンスの高いリスク対策であることが分かります。
多くの経営者が誤解しているのが、「自分たちが先に使い始めたのだから権利は自分たちにある」という考え方です。しかし日本の商標法は先願主義を採用しており、実際の使用開始時期ではなく、特許庁への出願日の先後で権利者が決まります。アメリカなど一部の国が採用する「先使用主義」とは根本的に制度が異なるため、海外の感覚で「使ってさえいれば守られる」と考えるのは非常に危険です。
もちろん例外として「周知商標」の抗弁など、一定の要件を満たせば先使用権が認められるケースもあります。ただし、これを主張するには次のような高いハードルをクリアする必要があります。
これらの証明には多大な時間とコストがかかり、そもそも「周知性」の基準は非常に厳格で、地域的に一部で知られている程度では認められないのが実情です。「使っていれば大丈夫」という思い込みは、事業の根幹を揺るがすリスクになり得るのです。先願主義を正しく理解し、「登録して初めて守られる」という発想に切り替えることが、経営者にとって不可欠といえます。
商標未登録が招くトラブルは、決して珍しいものではありません。中小企業の現場でよく見られるパターンを紹介します。
自社が開発した新サービス名やブランド名を、業務委託先や独立した元従業員が先に商標登録してしまうケースです。悪意の有無にかかわらず、登録されてしまえば自社がその名称を使い続けるには、相手からライセンスを受けるか、名称変更を迫られることになります。特にOEM取引や販売代理店契約など、他社と密接に協働する場面では、契約書に商標の帰属を明記しておかないと、後々深刻なトラブルに発展しがちです。契約書に「知的財産権の帰属」条項が曖昧なまま取引を始めてしまうと、いざトラブルが起きた際にどちらに権利があるのかを巡って水掛け論になりやすく、解決までに長い時間と費用を要することになります。
越境ECや海外進出を検討した際、現地の第三者がすでに自社ブランド名を商標登録済みだったという事例も増えています。特に中国や東南アジア諸国では、この種の「商標ハイジャック」が横行しており、進出自体を断念せざるを得ない企業や、高額な買い戻し交渉を強いられる企業も存在します。国内での登録だけで安心してしまい、海外展開のタイミングで初めて問題が発覚するケースが後を絶ちません。
商標登録をしていないロゴや名称と似たデザイン・呼称を他社が使用し始め、顧客が混同するケースです。品質の低い模倣品や無関係のサービスと自社が同一視され、長年かけて築いたブランドイメージが損なわれることもあります。商標登録をしていれば、警告書の送付や差止請求によって早期に対応できますが、未登録の場合は法的な対抗手段が限られ、泣き寝入りせざるを得ない状況に陥りがちです。
ベンチャーキャピタルからの資金調達や、M&Aによる事業売却を検討する段階になって、初めて「主力ブランドが商標登録されていない」「他社の商標権を侵害している可能性がある」という点がデューデリジェンスで指摘されることもあります。この段階での指摘は、資金調達や取引条件に直接影響し、最悪の場合は交渉そのものが破談になりかねません。投資家や買収先企業は、事業の将来性だけでなく「権利関係がクリーンであるか」を厳しくチェックするため、知的財産権の整理は資金調達・M&Aの成否を左右する重要な要素の一つです。
商標登録の手続きは、想像するほど複雑でも高額でもありません。おおまかな流れは以下のとおりです。
費用の目安としては、特許庁に納める印紙代(出願時・登録時)に加え、弁理士に依頼する場合は代理手数料がかかります。1区分あたり総額でおおよそ10万円台〜20万円台が一般的な相場であり、複数区分にまたがる場合はその分費用が加算されます。登録後も10年ごとの更新登録料が必要になりますが、更新を続ける限り半永久的に商標権を保持できます。
事業の柱となる社名やロゴ、主力商品・サービス名については、この費用を「保険」あるいは「ブランドへの先行投資」と捉えて、事業立ち上げのできるだけ早い段階で登録しておくことを強くおすすめします。特に新商品・新サービスのローンチ前は、名称が世に出る前に出願を済ませておくことで、他社に先を越されるリスクを大きく減らせます。
なお、区分の選び方にも注意が必要です。商標登録は「商品・役務の区分」ごとに権利が発生するため、自社の現在の事業だけでなく、今後数年で展開が見込まれる周辺事業まで見越して区分を選定することが望ましいといえます。区分を絞りすぎると、いざ事業を拡大した際に他社に同名称を使われてしまうおそれがあるため、専門家と相談しながら適切な範囲を見極めることが重要です。
出願前の商標調査を怠ると、審査で拒絶されたり、既存の権利者から警告を受けたりするリスクがあります。最低限、以下のポイントは確認しておきましょう。
自社での調査には限界があり、類似性の判断には専門的な知見が必要です。少しでも不安がある場合は、早い段階で弁護士・弁理士などの専門家に相談することが、結果的に手戻りやトラブル対応のコストを抑える近道になります。特に、すでに事業で使用している名称について「これから出願しても大丈夫か」「他社の商標権を侵害していないか」を確認したい場合は、事業を続けながら並行して調査・出願手続きを進められるケースがほとんどですので、まずは専門家に現状を相談することをおすすめします。
商標登録は、事業が軌道に乗ってから検討するものではなく、ブランドを立ち上げる初期段階でこそ着手すべきリスク管理策です。先願主義のもとでは、対応の遅れがそのまま権利喪失や事業機会の損失につながりかねません。
まずは自社の社名・ロゴ・主力商品名について、J-PlatPatで簡易検索を行い、未登録であれば早急に出願を検討することをおすすめします。取引先との契約における商標の帰属条項の見直しや、海外展開・新規事業を計画している場合の国際登録の検討など、なるべく早い段階での対応が、将来の大きなトラブルを防ぐことにつながります。
商標登録の要否判断や出願手続きのサポート、他社からの警告書への対応、契約書における知的財産条項の整備など、具体的なご状況でお悩みの方は、ぜひLeONE法律事務所へお気軽にお問い合わせください。初回相談は無料です。
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