Column
2026/08/07
企業法務
「請求書を送っても入金がない」「取引先に電話しても言い訳ばかりで支払われない」――こうした売掛金の未回収トラブルは、規模の大小を問わず多くの中小企業が一度は経験する悩みです。売掛金は本来受け取れるはずの利益であり、回収できなければ資金繰りを直接圧迫します。特に取引先の数が限られる中小企業にとっては、たった一件の貸し倒れが経営そのものを揺るがしかねません。
本コラムでは、企業法務を専門とする弁護士の立場から、売掛金が回収できないときに経営者・管理職が取るべき初動対応から、内容証明郵便、支払督促、少額訴訟、強制執行までの具体的な流れ、そして未然にトラブルを防ぐための契約書対策までをわかりやすく解説します。
売掛金の支払いが遅れた際、多くの経営者が「そのうち払ってくれるだろう」「関係が悪化するのが怖い」といった理由で対応を先延ばしにしてしまいます。しかし、初動が遅れるほど回収の難易度は上がります。取引先の資金繰りが悪化している場合、他の債権者への支払いが先に行われてしまい、自社への支払いが後回しにされる可能性が高まるためです。
この段階で「いつまでに」「いくら」支払うのかを明確に確認し、口約束で終わらせずメールなど記録に残る形でやり取りすることが、後の法的手続きの土台になります。
電話やメールでの督促に応じない相手には、内容証明郵便を送付するのが有効な次の一手です。内容証明郵便とは、いつ・誰が・誰に・どのような内容の文書を送ったかを日本郵便が証明してくれる制度で、法的な強制力はないものの、次のような効果が期待できます。
効果的な内容証明郵便には、以下の情報を明記します。
文面の作成は自社でも可能ですが、法的な効力を意識した表現にするためには弁護士名で送付することで、相手方への心理的インパクトがさらに高まるケースが多く見られます。
内容証明郵便を送っても反応がない場合、次の選択肢として「支払督促」があります。支払督促は、簡易裁判所の書記官に申立てを行うことで、裁判所から相手方に金銭の支払いを命じる書面を送付してもらう制度です。
ただし、相手方が異議を申し立てると、自動的に通常の民事訴訟に移行する点には注意が必要です。相手方に明確な反論の余地がなく、単に支払いを怠っているだけのケースに向いた制度といえます。
請求金額が60万円以下であれば、「少額訴訟」という制度を利用できます。少額訴訟の最大の特徴は、原則として1回の期日で審理が終わり、即日判決が出る点です。通常訴訟のように何か月もかけて争うことが少なく、経営資源を大きく割かずに解決を図れます。
一方で、少額訴訟は迅速さを重視する制度であるため、事実関係が複雑な事案や、相手方が強く争ってくる事案には不向きです。そうした場合は通常訴訟への移行も検討する必要があります。
金額が大きい、あるいは相手方が支払義務そのものを争ってくるようなケースでは、通常の民事訴訟を提起することになります。訴訟には時間と費用がかかりますが、勝訴判決を得れば、相手方の預金口座や売掛債権、不動産などを差し押さえる「強制執行」が可能になります。
強制執行を成功させるには、相手方にどのような財産があるかを事前に把握しておくことが重要です。判決を得ても相手方に差し押さえるべき財産がなければ、絵に描いた餅になってしまいます。取引開始時点で相手方の取引銀行や主要取引先の情報をある程度把握しておくと、いざというときの回収可能性が高まります。
また、相手方が法的整理(破産・民事再生等)に入ってしまうと、個別の回収はできなくなり、債権者としての配当を待つほかなくなります。資金繰り悪化の兆候を感じたら、できるだけ早期に法的手続きに着手することが回収成功の鍵となります。
売掛金回収のトラブルは、発生してから対応するだけでなく、契約締結時点での備えによって大きく予防できます。具体的には、以下のような対策が有効です。
売掛金の未回収は「そのうち何とかなる」では解決しません。初動対応の速さと、状況に応じた適切な法的手段の選択が、回収成功の分かれ目になります。
自社だけで対応方針を判断するのが難しい場合や、内容証明郵便の作成、支払督促・訴訟の手続きを進めたい場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。売掛金回収でお困りの際は、ぜひLeONE法律事務所へお気軽にお問い合わせください。初回相談は無料です。
また、契約書の整備や取引先との与信管理など、日常的な法務体制の強化についても、企業法務サービスの詳細はこちらからご確認いただけます。