Column
2026/09/09
フリーランス保護法
2024年11月に施行されたフリーランス新法により、業務委託契約を結ぶ発注企業には契約条件の明示や報酬支払期日の順守など新たな義務が課されています。本記事では契約書の見直しポイントと実務対応の進め方を解説します。
「フリーランス新法」(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、個人事業主やひとり法人(従業員を雇用していない事業者)に業務を委託する企業を対象に、取引の適正化を図るために制定された法律です。2024年11月1日に施行され、対象となるのは「特定受託事業者」、つまり従業員を使用しない個人または一人代表の法人に業務委託をする場合です。
これまでフリーランスとの取引は下請法や独占禁止法の優越的地位の濫用規制でカバーしきれない部分がありましたが、フリーランス新法によって、規模の大小を問わず、フリーランスに業務を発注するほぼすべての企業が何らかの義務を負うことになりました。「うちは小さな取引しかしていないから関係ない」という認識は通用しません。御社が制作会社やコンサルタント、士業、エンジニアなど個人事業主に業務を委託しているなら、まず自社の取引がこの法律の対象になるかどうかを確認する必要があります。
なお、フリーランス新法上の発注企業は、フリーランス(特定受託事業者)に業務を委託する事業者であれば、法人か個人事業主かを問わず、また従業員がいるかどうかにかかわらず一定の義務を負います。特に従業員を1人でも雇用している企業(特定業務委託事業者)は、後述する募集情報の的確表示義務やハラスメント防止体制の整備義務など、より広い範囲の義務を負う点に注意が必要です。自社が個人のみで運営しているのか、従業員を雇用しているのかによって、対応すべき義務の範囲が変わってきます。
フリーランス新法が制定された背景には、フリーランスとして働く人が増加する一方で、発注企業との情報格差や交渉力の差から、報酬の未払いや一方的な条件変更といったトラブルが社会問題化してきたという事情があります。国としても、フリーランスという働き方を安心して選べる環境を整えることは重要な政策課題であり、今後も規制の運用が強化されていく可能性があります。発注企業としては、法令遵守はもちろん、優良な取引先として選ばれるためにも、早い段階から適切な対応を進めておくことが競争力の観点からも有益といえます。
フリーランス新法では、発注企業(特定業務委託事業者)に対して主に次のような義務が定められています。
特に継続的な取引(1か月以上)では、給付内容を発注後に変更させたり、やり直しをさせたりする場合の費用負担についても配慮が求められる点に注意が必要です。
これらの義務のうち、取引条件の明示義務と支払期日の順守義務は、取引の期間や自社の従業員の有無にかかわらず、すべての発注企業に適用される基本的な義務です。一方、募集情報の的確表示義務やハラスメント防止体制の整備義務は従業員を雇用している企業に、また育児介護等への配慮義務や中途解除の予告義務は1か月以上の継続的な業務委託を行う場合に、それぞれ追加で課される義務です。自社の取引形態がどの区分に当てはまるかを整理したうえで、必要な対応を洗い出すことが重要です。
例えば、単発でロゴデザインを外部のデザイナーに発注するケースと、毎月継続的にライティング業務を個人ライターに委託するケースとでは、負う義務の範囲が異なります。前者では取引条件の明示義務と支払期日の順守義務が中心になりますが、後者のように6か月を超えて継続する取引になると、中途解除の30日前予告義務や育児介護等への配慮義務まで対応が必要になります。御社の取引を「単発」か「継続」かで一度棚卸ししてみることをおすすめします。
御社が現在使用している業務委託契約書のひな形が、フリーランス新法の施行前に作成されたものであれば、次の点を中心に見直すことをおすすめします。
契約書の文言が曖昧なまま運用していると、フリーランス側から「事前の明示がなかった」「支払期日が守られていない」といった指摘を受け、行政への相談や紛争に発展するリスクがあります。契約書の作成・見直しでお困りの場合は、企業法務を専門とする弁護士へのご相談をおすすめします。法律事務所LeONEでは、発注者側の実務に即した契約書のチェック・改定をご提案しています。
例えば支払期日については、「甲は、乙から給付を受領した日から起算して30日以内に、乙の指定する口座に報酬を支払う」のように、具体的な起算日と期間を明記する方法が考えられます。また中途解除については、「本契約の解除を希望する場合、相手方に対し解除希望日の30日前までに書面で通知するものとする」といった条項を設けることで、法律上の予告義務を契約書上も明確にすることができます。検収についても、「乙は、給付を受領した日から〇営業日以内に検査を行い、不合格の場合はその理由を書面で通知する」など、期限と手続きを具体的に定めておくと、後日のトラブルを防ぎやすくなります。
フリーランス新法では、フリーランスに対するハラスメント(セクシュアルハラスメント、パワーハラスメント等)を防止するための体制整備も企業の義務とされています。具体的には、相談窓口の設置や、フリーランスからの相談に適切に対応できる社内体制の整備が求められます。具体的には、次のような取り組みが考えられます。
また、求人サイトや自社サイトでフリーランス向けに業務委託の募集を行う場合、実際の業務条件と異なる誇大な表示や、意図的に不利な条件を隠した表示をすることも禁止されています。募集ページの内容が実態と合っているか、この機会に確認しておくとよいでしょう。社内体制の整備方法についてご不明な点があれば、担当弁護士のご紹介ページから、実績のある弁護士に相談することも可能です。
フリーランス新法の履行状況は、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省が連携して監督しています。違反が疑われる場合、まずは助言・指導が行われ、改善が見られない場合は勧告、さらには企業名の公表という段階を踏むことになります。悪質な報告徴収拒否等には罰則(過料)が科される場合もあります。
行政指導や企業名の公表は、直接的な金銭的負担以上に、取引先や採用市場における信用低下という形で経営に影響を及ぼす可能性があります。「知らなかった」では済まされないリスクであることを踏まえ、早めの体制整備が重要です。
また、フリーランス側には国が設置する相談窓口に相談する手段が用意されており、発注企業が気付かないうちに行政への相談が寄せられているケースも少なくありません。実際に調査が入ってから慌てて契約書を整備するのではなく、日頃の取引から明示義務や支払期日を順守しておくことが、結果的に最も確実なリスク回避策となります。
なお、資本金が一定額を超える企業が個人事業主に業務委託をする場合は、従来から下請法(下請代金支払遅延等防止法)の適用対象にもなり得ます。フリーランス新法と下請法は適用場面が重なる部分もあり、どちらの規制が適用されるかによって明示すべき事項や支払期日のルールが微妙に異なることがあります。自社の資本金規模や取引形態によっては、両方の法律を踏まえた契約書の整備が必要になるため、判断に迷う場合は専門家に確認することをおすすめします。
法改正への対応は、契約書のひな形を一度作り直せば終わりというものではなく、実際の運用が法律の要求に沿っているかを継続的に確認していく必要があります。最後に、御社が今日から取り組める実務対応をチェックリストの形でまとめます。
フリーランス新法は、フリーランスという働き方を保護するだけでなく、発注企業にとっても取引条件を明確にし、無用なトラブルを未然に防ぐための指針となる法律です。一つでも不安な項目があれば、契約書全体の点検を専門家に依頼することをおすすめします。自社の取引実態に即した具体的な対応方針については、無料相談のお問い合わせから、お気軽にご相談ください。