2026/06/05
労働法
「うちの会社では問題社員を解雇できない」——そう信じて、長年にわたり職場環境の悪化に目をつぶってきた経営者は少なくありません。確かに、日本の労働法は労働者保護を重視しており、解雇規制は厳しい制度設計になっています。しかし、「解雇が絶対にできない」というのは誤解です。
重要なのは、「正しい手順を踏まずに解雇することが違法になる」という点です。適切なプロセスを経ずに感情的に解雇してしまうと、後に「不当解雇」として労働審判や訴訟に発展し、多額のバックペイや慰謝料を支払うリスクが生じます。逆に言えば、正しい手順を踏めば、問題社員への対応は十分に可能です。
本記事では、中小企業の経営者・管理職が直面しやすい問題社員への対応について、業務改善命令(PIP)・退職勧奨・解雇という3つのアプローチとその法的要件を、実務的な観点から解説します。
まず、解雇の種類と法的根拠を整理しましょう。日本の労働法における解雇は大きく4つに分類できます。
業務遂行能力が著しく低い、勤務態度が悪い、無断欠勤が続くなど、労働者側の問題行為・能力不足を理由とする解雇です。ただし、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の両方が必要です(労働契約法16条)。1〜2回の失敗や軽微な問題だけでは解雇は認められず、改善の機会(業務改善命令など)を与えた証跡が不可欠です。
横領、情報漏洩、セクシュアルハラスメント、経歴詐称、刑事事件への関与など、重大な非違行為に対する制裁的な解雇です。就業規則に解雇事由が明記されていることが前提であり、また就業規則が労働者に周知されていなければ無効とされる可能性があります。弁明の機会を与えることも重要です。
業績悪化・経営危機などによる人員削減です。「整理解雇の4要件」(①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③対象者選定の合理性、④手続きの相当性)をすべて満たす必要があり、ハードルは高いです。
厳密には「解雇」ではありませんが、退職勧奨によって労働者が自ら退職する形式です。双方合意のため、後に不当解雇と争われるリスクが最も低く、実務上最も活用されるアプローチです。
中小企業の問題社員対応においては、最終的には合意解約(退職勧奨)を目指しつつ、それが難しい場合に普通解雇を検討するというのが現実的な流れです。いきなり解雇に踏み切るのではなく、次のステップを踏むことが重要です。
解雇や退職勧奨を行う前に、業務改善命令(Performance Improvement Plan:PIP)を実施することが極めて重要です。これは「改善の機会を与えた」という証跡となり、後の法的トラブルを大幅に軽減します。
PIPは「解雇のための証拠集め」として利用されることもありますが、本来は真摯に改善を促すプロセスであることが重要です。形式だけのPIPは、むしろ「不誠実な使用者」として裁判で不利に扱われることがあります。面談記録は必ず書面で残し、労働者にサインを求めるか、少なくとも送付記録(メール等)を保管してください。
また、PIPの内容が「達成不可能なほど高い目標」である場合、ハラスメントと認定されるリスクがありますので、現実的な目標設定が必要です。
退職勧奨は、使用者が労働者に対して自発的な退職を促す行為であり、それ自体は適法です。しかし、その方法次第では違法な強要・パワーハラスメントとなり、損害賠償請求の対象になります。
退職勧奨の面談は、必ず内容を記録(議事録)として残してください。後日「退職を強要された」と主張されたときの反証として機能します。
退職勧奨によって退職に同意した場合は、必ず退職合意書を締結してください。口頭での合意だけでは、後に「退職を強要された」「合意していない」などと言われるリスクがあります。退職合意書には以下の内容を盛り込みましょう:
解雇や退職が完了したとしても、後日トラブルに発展するケースは少なくありません。特に以下の点に注意が必要です。
普通解雇・懲戒解雇を行う場合、労働者から請求があった場合は解雇理由証明書を交付しなければなりません(労働基準法22条)。この書類には解雇の具体的な理由を記載する必要があります。曖昧な理由では後に「不当解雇」と主張されやすくなるため、PIPの過程で蓄積した具体的な問題行動・改善指導の記録を根拠として記載します。
解雇する場合は原則として30日前に解雇予告を行うか、30日分の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要があります(労働基準法20条)。懲戒解雇の場合でも、労働基準監督署の認定(除外認定)を受けた場合を除いてこの手続きが必要です。この手続きを怠ると付加金(追加の制裁金)が課される可能性があります。
問題社員対応において最も重要なのは、証拠と記録の整備です。以下の書類を時系列で保管しておきましょう:
これらの記録は、労働審判や訴訟になった際の証拠として機能します。記録がなければ「言った・言わない」の水掛け論になり、会社側が不利になることが多いです。
退職後に元従業員が競合他社に転職したり、機密情報を持ち出すリスクも考慮が必要です。競業避止義務・守秘義務に関する合意書は、雇用契約締結時または退職時に取り交わしておくことが重要です。ただし、競業避止義務は内容が広範すぎると無効とされるため、地域・期間・業務範囲を限定した合理的な内容にする必要があります。
問題社員への対応は、「後で相談すればいい」と後回しにするほど、リスクが高まります。以下のタイミングで弁護士への相談を検討してください。
弁護士に相談する際は、上述の証拠・記録を持参することで、より具体的なアドバイスが得られます。「メールのやり取り」「注意指導の記録」「就業規則のコピー」は最低限用意しておきましょう。
また、問題社員対応は感情的にならず、淡々と法的手順に従って進めることが重要です。感情的な言動が「パワーハラスメント」と認定されると、むしろ会社側が被告になる逆転リスクがあります。
LeONE法律事務所では、中小企業の労務トラブルに関する無料相談を受け付けています。問題社員対応でお困りの経営者・管理職の方は、ぜひお気軽にご相談ください。早期の法的対応が、最終的なコストとリスクを大幅に削減します。