Column

コラム
TOP
内部通報制度の構築は義務化されている?中小企業が知っておくべき公益通報者保護法対応

2026/07/16

企業法務

内部通報制度の構築は義務化されている?中小企業が知っておくべき公益通報者保護法対応

近年、企業の不祥事が発覚するたびに「内部通報が機能していなかった」ことが問題視されるケースが増えています。2022年6月に施行された改正公益通報者保護法により、一定規模以上の事業者には内部通報体制の整備が法的義務となりました。「うちは大企業ではないから関係ない」と考えている経営者の方も多いのですが、実はこの制度は中小企業にとっても無視できない重要なテーマです。本コラムでは、企業法務を専門とする弁護士の視点から、内部通報制度の構築義務の内容と、中小企業が実務上取るべき対応について解説します。

1. 公益通報者保護法とは何か

公益通報者保護法は、企業の法令違反行為を労働者などが通報した際に、通報を理由とした解雇や不利益な取扱いから通報者を保護するための法律です。あわせて、事業者側には通報を受け付け、適切に調査・是正するための体制を整備することが求められています。

改正法のポイントは、通報対応の実効性を高めるために、事業者に対して以下のような義務を新たに課した点にあります。

  • 内部通報に対応する体制の整備義務
  • 通報対応業務従事者の指定義務
  • 従事者に対する刑事罰付きの守秘義務

これらの義務に違反した場合、行政による助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わない場合には企業名が公表される可能性もあります。

2. 義務の対象は「301人以上」だが中小企業も無関係ではない

体制整備が法的義務となるのは、常時使用する労働者数が301人以上の事業者です。300人以下の中小企業については、現時点では「努力義務」にとどまっています。しかし、ここで安心してしまうのは早計です。

  • 取引先の大企業から、サプライチェーン全体のコンプライアンス体制の一環として内部通報窓口の整備状況を確認されるケースが増えている
  • 人材の流動性が高まる中、通報体制の有無が「従業員を大切にする会社かどうか」を測る指標として就職・転職市場で意識され始めている
  • 将来的な法改正で対象範囲が拡大される可能性がある

努力義務であっても、体制を整備していない企業がひとたび不祥事を起こせば、「対応を怠っていた」という事実そのものが社会的信用の失墜につながります。努力義務だから対応しなくてよい、という発想は経営リスクの観点から見直す必要があります。

3. 具体的に何を整備すべきか

内部通報体制の整備といっても、大企業のような大規模な専門部署を設ける必要はありません。中小企業であっても、以下の要素を押さえることで実効性のある体制を構築できます。

  • 通報窓口の設置:社内の担当役員や総務担当者を窓口とするほか、外部の弁護士を窓口として委託する方法も有効です。社内の人間関係を気にして通報をためらうケースを減らせます
  • 通報対応規程の策定:受付方法、調査の進め方、是正措置の決定プロセス、通報者保護の方法などを明文化します
  • 従事者の指定と教育:通報対応にあたる担当者を指定し、守秘義務や利益相反の回避について教育を行います
  • 周知・研修:制度があっても従業員に知られていなければ意味がありません。就業規則への明記や研修を通じて周知徹底を図ります

特に中小企業では、経営者と従業員の距離が近いがゆえに、社内で通報しても「誰が言ったか特定されるのではないか」という不安から、通報がなされないまま問題が深刻化するケースが少なくありません。外部窓口の活用は、こうした不安を軽減する有効な手段です。

4. 体制整備を怠った場合の経営リスク

内部通報体制が形骸化している、あるいはそもそも存在しない場合、以下のようなリスクが顕在化します。

  • ハラスメントや不正会計などの問題が社内で発見されず、外部やSNSを通じて表面化し、レピュテーションが大きく損なわれる
  • 問題を把握しながら放置していたことが判明した場合、経営者自身の善管注意義務違反が問われる可能性がある
  • 取引先からのコンプライアンス評価が下がり、取引条件や継続可否に影響する
  • 優秀な人材が「声を上げられない職場」として離職する

不祥事そのものよりも、「発覚後の対応の不備」が企業の信用を決定的に損なうケースは非常に多く見られます。内部通報制度は、問題を早期に発見し、社内で自浄的に是正する仕組みとして、経営者自身を守る役割も果たします。

5. 中小企業が今から取るべき実務対応ステップ

内部通報体制の整備は、以下のようなステップで進めることをお勧めします。

  • ステップ1:現状把握 ― 既存の相談窓口やハラスメント対応窓口の有無、機能状況を確認する
  • ステップ2:窓口の設計 ― 社内窓口に加え、外部弁護士窓口の併設を検討する
  • ステップ3:規程の整備 ― 通報対応規程、プライバシー保護のルールを文書化する
  • ステップ4:周知と研修 ― 全従業員への周知と、管理職向けの対応研修を実施する
  • ステップ5:定期的な見直し ― 運用状況を年1回程度検証し、実効性を確認する

一度に完璧な体制を構築する必要はありません。まずは小さくても実際に機能する窓口を作り、運用しながら改善していく姿勢が重要です。

まとめ ― 内部通報制度は「守り」であり「攻め」の経営基盤

内部通報制度は、単なる法令遵守のための義務ではなく、企業内部のリスクを早期に発見し、大きなトラブルに発展する前に是正するための重要な経営基盤です。中小企業においては法的な義務がないケースも多いですが、取引先からの信頼確保や人材の定着といった観点からも、体制整備の価値は年々高まっています。

自社の規模や実情に応じてどのような通報体制を整備すべきか、規程の内容をどう設計すべきかについてお悩みの方は、ぜひLeONE法律事務所へお気軽にお問い合わせください。初回相談は無料です。

内部通報窓口の外部委託や規程整備を含む企業ガバナンス体制構築のサポートについては、企業法務サービスの詳細はこちらからご確認いただけます。