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取引先から「人権デューデリジェンス」への対応を求められたら?中小企業が今すぐ着手すべき実務対応

2026/07/14

企業法務

取引先から「人権デューデリジェンス」への対応を求められたら?中小企業が今すぐ着手すべき実務対応

なぜ今、中小企業にも「人権デューデリジェンス」が求められるのか

「取引先の大企業から、人権に関するアンケートや調査票への回答を求められた」「サプライチェーン行動規範への同意書へのサインを求められた」——近年、こうした相談が中小企業の経営者から急増しています。背景にあるのは、2022年に経済産業省が策定した「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」と、これを受けた大企業側の対応強化です。

上場企業や大手企業は、投資家や海外の取引先から人権尊重の取り組みを開示するよう求められる場面が増えており、その結果、自社だけでなく取引先(サプライチェーン全体)における人権への配慮状況を把握・管理する必要に迫られています。中小企業であっても、大企業と取引がある以上、この流れと無縁ではいられない時代になっています。

人権デューデリジェンスとは何か

人権デューデリジェンスとは、事業活動が労働者や地域社会などの人権に対して及ぼす ネガティブな影響(強制労働、児童労働、ハラスメント、長時間労働、差別など)を、企業自らが特定し、防止・軽減し、是正する一連のプロセスをいいます。国際的には「ビジネスと人権に関する指導原則」(国連、2011年)がその基礎となっており、これに日本政府のガイドラインが沿う形で策定されています。

現時点でこのガイドラインに法的な強制力はありませんが、次のような点で中小企業にも実務上の影響が及んでいます。

  • 大企業が調達基準・行動規範への同意を取引継続の条件とするケースが増えている
  • EUなど海外では人権デューデリジェンスを義務化する法制度(サプライチェーン法など)が先行しており、日本の大企業もその対応を国内外の取引先に波及させている
  • 金融機関の融資審査やESG評価においても、取引先管理の状況が評価対象になりつつある

大企業から届く「調査・アンケート」の正体

実際に中小企業に届く書類は、次のような形式が多く見られます。

  • サプライヤー行動規範への同意書・誓約書:労働環境、ハラスメント防止、強制労働の禁止などについて、取引先として遵守を約束する書面
  • 人権・労務に関するセルフチェックシート:労働時間管理、外国人労働者の雇用状況、下請取引の適正化などを問う質問票
  • 取引基本契約書への条項追加:既存の契約書に人権尊重・環境配慮に関する条項を追加する契約変更の申し入れ

これらは一見すると形式的な書類に見えますが、内容をよく確認せずに署名してしまうと、実態と異なる誓約をしてしまったり、将来の監査や是正要求に応じる義務を負ってしまったりするおそれがあります。契約条項として組み込まれる場合には、違反時の取引解除や損害賠償のリスクにも直結するため、法的なチェックが欠かせません。

中小企業が今すぐ着手すべき3つの実務対応

1. 自社の労務管理の実態を棚卸しする

人権デューデリジェンス対応の出発点は、自社の労務管理に問題がないかを点検することです。具体的には、時間外労働の上限規制の遵守状況、外国人技能実習生・特定技能人材の雇用適正性、ハラスメント相談窓口の設置状況などを確認します。ここで問題が見つかった場合は、対外的な回答をする前に是正しておくことが重要です。

2. 調査票・同意書は署名前に必ず法的に確認する

取引先から届いた行動規範や調査票は、営業担当者の判断だけで署名せず、内容を精査したうえで対応することをおすすめします。特に、契約書の一部として組み込まれる誓約条項については、「表明保証」に近い法的効力を持つ場合があり、違反時の解除条項やペナルティ条項とセットになっていないかを確認する必要があります。

3. 二次下請け・協力会社への対応方針を整理する

自社がさらに外部の協力会社や個人事業主に業務を委託している場合、大企業からの要請は、自社を経由してさらに下流の取引先にも及ぶ可能性があります。自社が「板挟み」にならないよう、協力会社との契約内容や業務委託の実態も合わせて見直しておくことが望ましいでしょう。

対応を怠った場合に生じるリスク

人権デューデリジェンスへの対応を軽視した場合、次のようなリスクが現実化する可能性があります。

  • 取引の縮小・停止:大企業の調達基準を満たせないと判断され、既存取引の見直しや新規取引の機会損失につながる
  • 契約違反による損害賠償請求:行動規範への同意が契約条項化されている場合、違反時に契約解除や損害賠償の対象となる
  • レピュテーションの毀損:労働環境に関する問題が取引先や社会に知られた場合、採用活動や取引関係に悪影響が及ぶ

特に近年は、下請中小企業振興法や、いわゆる「取適法」(取引適正化のための法整備)の議論とも連動し、下請取引における適正化の要請が強まっています。人権対応と取引適正化の両面から、自社の体制を見直す好機と捉えることが得策です。

まとめ:早期対応が取引先からの信頼と競争力につながる

人権デューデリジェンスへの対応は、義務だから仕方なく行うものではなく、自社の労務コンプライアンス体制を見直し、取引先からの信頼を高める機会と捉えることができます。行動規範への同意や調査票への回答を求められた際に、慌てて対応するのではなく、日頃から労務管理の実態を点検し、契約書のチェック体制を整えておくことが、結果として取引の安定と企業価値の向上につながります。

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