2026/06/10
企業法務
「内部通報制度」とは、従業員が社内の不正行為・法令違反・コンプライアンス問題などを、会社内部(または外部の窓口)に匿名で報告できる仕組みのことです。大企業には以前から設置が求められてきましたが、2022年6月に施行された改正公益通報者保護法により、従業員数301人以上の事業者には内部通報制度の整備が法的義務となりました。
「300人以下の中小企業には関係ない」と思われる方も多いかもしれません。しかし、従業員数300人以下の企業についても、法律上は「努力義務」が課されています。さらに、取引先や融資先の金融機関がコンプライアンス体制の有無を評価基準とするケースが増えており、整備していないことが受注機会の喪失や金融審査上の不利につながるリスクも現実化しています。
また、実際に社内不正が発覚した際に内部通報制度が機能していなければ、問題の早期発見が遅れ、損害が拡大します。早期に通報を受け付ける仕組みを持つかどうかが、会社の存続に直結する問題となるのです。
2022年の法改正では、内部通報者を保護する仕組みが大幅に強化されました。中小企業経営者が押さえておくべき主なポイントは以下のとおりです。
従業員数301人以上の事業者には、以下の措置を講じることが義務付けられました。
300人以下の事業者はこれらが「努力義務」にとどまりますが、形式的に免れているだけで、制度の不備が発覚した場合の社会的信頼への打撃は免れません。
改正により、保護される通報者の範囲が拡大しました。従来は「労働者」(正社員)に限られていましたが、退職後1年以内の元従業員や役員も保護対象に加わりました。経営者としては、退職者による外部への告発リスクも念頭に置く必要があります。
社内に内部通報窓口がなかったり、通報しても握りつぶされると信じる合理的な理由がある場合、従業員は行政機関や外部機関(マスコミ等)に直接通報することができます。改正によりその要件が緩和され、従業員が外部通報しやすくなりました。内部で受け付ける仕組みがなければ、問題が一気に社外へ漏れる可能性があります。
内部通報制度が形骸化していたり、そもそも存在しない場合、実際のビジネス現場ではどのような問題が起きるのでしょうか。
横領・粉飾・ハラスメントなどの問題は、現場の従業員が最初に気づくことがほとんどです。しかし、「言っても無駄」「自分が危険な目に遭う」と感じる環境では、誰も声を上げません。内部通報制度は、こうした「見てみぬふり」の連鎖を断ち切るための安全弁です。
内部通報制度がない企業では、不正が発覚するのは外部(取引先、税務調査、マスコミ)に知られてからというケースが多く見られます。その段階では既に被害が深刻化しており、会社存続を揺るがすほどの損害になることもあります。
近年、コンプライアンス違反が発覚した際のSNSによる情報拡散速度は非常に速く、中小企業であっても一夜にして信頼を失うことがあります。取引先からの契約解除、採用への悪影響、金融機関からの評価低下など、連鎖的なダメージは計り知れません。
「制度を整備するといっても、大企業のような専門部署を置く余裕はない」という声をよく聞きます。しかし、中小企業でも無理なく始められるシンプルな仕組みは存在します。以下のステップを参考にしてください。
まずは通報を受け付ける窓口を決めます。社内窓口としては、法務担当者・総務部長・経営者直属の担当者などが考えられます。ただし、通報内容が経営者に関するものである場合もあるため、外部の弁護士事務所を窓口とする「外部窓口」を設けることが理想的です。弁護士が窓口を担当することで、秘密保持の信頼性が高まり、通報者も安心して申告しやすくなります。
通報窓口の連絡先・通報できる対象・秘密保持の方法・調査手続き・通報者への不利益取扱いの禁止などを定めた「内部通報規程」を作成し、全従業員に周知します。規程の雛形は消費者庁のガイドラインからも入手できます。
制度があっても従業員が知らなければ意味がありません。入社時研修や定期的な社内研修で制度の存在・使い方・秘密保持の仕組みを説明しましょう。「通報したことが上司にバレる」という心理的不安を取り除くことが重要です。
通報を受けたあとの調査手続き・報告ルート・是正措置の流れを事前に定めておきます。属人的な対応では「もみ消し」のリスクが高まるため、複数人が関与する透明な調査体制を設けることがポイントです。
中小企業がコンプライアンス体制を構築する際に、最も現実的かつ効果的な選択肢の一つが外部弁護士の活用です。具体的には以下のような場面で弁護士が力を発揮します。
「顧問弁護士は高い」というイメージをお持ちの方も多いと思いますが、近年は中小企業向けのリーズナブルな顧問契約プランも増えています。コンプライアンス違反による損害(訴訟費用・賠償・信頼失墜)と比較すれば、体制構築への投資は十分に元が取れます。
本記事の内容を踏まえ、経営者の皆さんが今すぐ確認・対応すべき事項を整理します。
一つでも「No」があれば、まず弁護士に相談することをお勧めします。
内部通報制度の整備は、もはや大企業だけの課題ではありません。2022年の法改正によって中小企業にも努力義務が課され、さらに取引先・金融機関・求職者からの目線でもコンプライアンス体制の有無が評価される時代になっています。
「うちは社員が少ないから大丈夫」「今まで問題なかった」という感覚に頼るのではなく、会社を守るための仕組みを先手で整えることが、経営者としての責務です。制度構築に不安を感じる方は、ぜひ一度、企業法務を専門とする弁護士にご相談ください。早期の対策が、将来の大きなリスクを防ぎます。