Column
2026/07/14
企業法務
中小企業のオーナー経営者にとって、自身や親族役員の報酬をいくらに設定するかは、生活設計だけでなく会社の税負担を左右する重要な経営判断です。しかし「毎月の役員報酬をいくらにするか」「賞与をどう出すか」は、税務上のルールと会社法上の手続きの両方を満たさなければ、思わぬ形で損金不算入(法人税の経費として認められない)となり、結果的に法人税の負担が増えてしまうことがあります。
特に、業績が良い年に役員へのインセンティブとして賞与を支給しようとして、税務調査で否認されるケースは後を絶ちません。本コラムでは、企業法務を専門とする弁護士の立場から、役員報酬を適法かつ有利に設計するための実務ポイントを解説します。
法人税法上、役員に対する給与のうち損金算入が認められるのは、原則として次の3つの類型に該当する場合に限られます。
この3類型のいずれにも該当しない支給、たとえば「業績が良かったから」といって株主総会決議もなく、事前の届出もせずに役員へ賞与を支給した場合、その全額が損金不算入となり、法人税を余計に支払う結果になりかねません。
中小企業のオーナー経営者が役員賞与を活用する場合、実務上もっとも使われるのが事前確定届出給与です。ポイントは次のとおりです。
「今期は業績が良いので予定より多く出したい」「資金繰りが厳しいので減額したい」という場合、事前確定届出給与の枠組みでは柔軟な対応が難しく、結果として損金不算入というペナルティを受けることがあります。役員報酬制度を設計する段階で、将来の業績変動もある程度織り込んだ金額設定をしておくことが実務上のポイントです。
役員報酬をインセンティブとして活用する際には、税務上の要件だけでなく、会社法上の「お手盛り防止」規制にも配慮する必要があります。取締役の報酬額は、定款に定めがない限り、株主総会の決議によって定めなければならないとされているのは、経営者自身が自らの報酬を無制限に決めてしまうことを防ぐためです。
近年は、役員退職慰労金についても、支給基準が明確でなく取締役会に一任する決議のみで支給した結果、株主から違法な支給であるとして争われる裁判例が見られます。中小企業であっても、次のような点を書面で整備しておくことが望ましいといえます。
近年は、後継者不在や人材採用の観点から、役員・幹部社員向けにストックオプション(新株予約権)を活用するケースも増えています。税制適格ストックオプションの要件を満たせば、権利行使時の課税を株式売却時まで繰り延べることができ、役員・従業員のモチベーション向上と節税を両立できる可能性があります。ただし、付与対象者の範囲、権利行使価額、行使期間などの要件が細かく定められており、要件を一つでも満たさないと税制優遇を受けられなくなる点に注意が必要です。導入にあたっては、税理士と連携しながら、契約書・規程の整備を弁護士がチェックする体制が望ましいでしょう。
役員報酬の決め方は、一度決めたら終わりではなく、事業年度が始まる前、役員の異動があったとき、業績に大きな変動があったときなど、定期的に見直すべきテーマです。特に次のようなタイミングでは、専門家への相談をおすすめします。
役員報酬の設計を誤ると、税務上のペナルティだけでなく、株主や取締役会との間で「お手盛り」を疑われるリスクも生じます。制度設計の段階から法的な観点でのチェックを行うことで、こうしたリスクを未然に防ぐことができます。
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